
2025年に50周年を迎えた「東映太秦映画村」が、2026年3月28日に第1期リニューアルオープンを迎えます。名称は「太秦映画村(UZUMASA KYOTO VILLAGE)」へと刷新され、施設全体が“大人の没入体験パーク”として再定義されます。本記事では、ニュース情報の整理に加え、このリニューアルの背景にある思想・意図・戦略を構造的に読み解きます。
1. なぜ、いま全面リニューアルが必要だったのか
1975年の開業以来、東映太秦映画村は「映画の撮影現場が見られる日本初のテーマパーク」として修学旅行生や家族連れに支持されてきました。しかし2020年代に入り、構造的に厳しい状況に直面します。
時代劇IPの衰退
かつてテレビで日常的に放送されていた時代劇は大幅に減り、東映の主要IPは訴求力を失いました。
USJ・ディズニーの台頭
「最新IP×最新テクノロジー」を武器にするテーマパークが勢力を拡大し、昭和的な「撮影所見学+殺陣ショー」では戦いづらい状況に。
とはいえ東映には“強み”が残っていた
『大奥』や『レジェンド&バタフライ』など、東映京都撮影所の美術スタッフの世界観構築力は国内トップレベル。
つまり彼らが直面したのは、
映像としての時代劇だけでは採算が合わない。
だからこそ “時代劇の世界そのものを商品化” する方向へ事業転換が必須。
これが、今回のリニューアルの根源的な背景でした。
2. 「江戸時代の京へ、迷い込む」が意味するもの

リニューアルのコンセプトは「江戸時代の京へ、迷い込む」。一見すると雰囲気的なコピーに見えますが、この言葉には極めて戦略的な意図が込められています。
“江戸”ではなく“江戸時代の京”とした理由
今回のコンセプトで最も重要なのは、「江戸」ではなく「江戸時代の京」 としている点です。これは、京都観光の未開拓ゾーンを開拓する設計です。
京都には名所旧跡が多数ありますが、どれも「静かに鑑賞する」「触れない」「走れない」文化資源であり、能動的な体験要素は限定的です。一方、太秦映画村は、
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触れる
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動ける
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着物で歩く
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ショーに巻き込まれる
という “参加型の歴史体験” を提供できます。京都の観光市場において、このカテゴリはほぼ未開拓でした。
浅草の江戸風観光とも、祇園・清水寺の本来の京都とも異なる、「参加できる歴史」×「京都ブランド」という新ジャンルを京都にもたらすこと。これが、コピーの本質的な意味です。
3. 具体的なリニューアル内容
今回のリニューアルの主な内容は以下の通りです。
名称変更
東映太秦映画村 → 太秦映画村(UZUMASA KYOTO VILLAGE)
「東映」の冠を外すことで企業色を薄め、太秦という日本映画の聖地としての地名価値を前面に押し出します。
新オープンセット

東映京都撮影所の美術スタッフが、江戸時代の京の町並みをリアルに再現。
イマーシブライブショー

町中を使い、観るだけでなく“物語に入り込む”演出を導入。
文化体験

茶道、華道、能、狂言など、京都が持つ文化資産を参加型コンテンツとして再構成。
忍者アトラクション
最新テクノロジーを導入した新アトラクションを建設。
飲食・物販

「京の食」をテーマに飲食店10店舗、物販3店舗を新規オープン。
澤井醤油の新業態、味味香、京都醸造、京都仁王門など、多様な京都ブランドが集積します。
ナイト営業

営業時間を17時→21時へ延長し、夜の京都観光に新たな選択肢を提供。
段階開業(2026〜2028)
| 年度 | フェーズ | 主な内容 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 2025年(今年) | 準備フェーズ | ・施設全体のフルリニューアル計画を公表・名称変更の発表(東映太秦映画村 → 太秦映画村) | 50周年の節目。新ブランドへの移行準備が本格化。 |
| 2026年3月28日(土) | 第1期オープン(メイン刷新) | ・江戸時代の京を再現した新オープンセット・イマーシブライブショー開始・文化体験(茶道、華道、能、狂言)・忍者アトラクション新設・飲食10店舗オープン・物販3店舗オープン・営業時間を21時まで延長(ナイト営業開始) | “大人の没入体験パーク”としての核が完成するフェーズ。 |
| 2027年春(予定) | 第2期オープン | ・新たに5つの飲食・物販店舗を追加オープン・遊郭ゾーンオープン | 世界観をさらに深化。大人向け没入体験をより強化。 |
| 2028年春(予定) | 第3期オープン | ・芝居小屋「中村座(仮称)」オープン | ライブエンターテインメントの核となる劇場機能が完成。 |
| 2028年以降(時期未定) | 第4期(計画中) | ・温浴施設が新設予定 | 1日滞在できる“デスティネーション施設”として完成形へ。 |
4. 収益ロジックから見る狙い:KPIは「滞在時間 × 客単価」
導入されるコンテンツをビジネス視点で分解すると、狙いは明確です。
飲食・物販・着物体験・文化体験・アトラクション・ナイト営業といった要素は、すべて 「滞在時間を伸ばすための仕組み」 です。
従来の映画村は、1〜2時間で回れる“ついで観光”という性質が強く、客単価も伸ばしにくい状況でした。しかし今回の構造改革により、
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文化体験:1〜2時間
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アトラクション:30〜60分
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飲食・食べ歩き:随時
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着物体験:1〜2時間
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夜のライブショー:夕方〜夜
といった「6〜8時間滞在が成立」する導線へ完全に切り替わります。
京都の宿泊客が夜に使える場所の選択肢が少ないこともあり、ナイト営業は極めて合理的な判断です。
5. 結論:太秦映画村は“昭和レジャー”から“文化没入インフラ”へ進化する

太秦映画村のリニューアルは、単なる施設更新ではなく、
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昭和型テーマパークモデルの限界
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時代劇IPの衰退
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京都の夜間観光の空白
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SNS時代の「体験消費」シフト
これら全てへの包括的な回答です。
太秦映画村は、「映画の村」から
“京都の夜を動かす、文化没入インフラ”へ生まれ変わる。
京都の文化資産を活かしながら、既存のテーマパークとは異なる立ち位置を確保し、京都観光の未来に新しい選択肢を提示する。このリニューアルは、そうした壮大な挑戦でもあります。
2026年の第1期オープン以降、2027〜2028年にかけて段階的に完成形へ近づく太秦映画村が、京都観光にもたらす変化は決して小さくないはずです。
今後の追加発表にも注目していきたいと思います。
【出典元】
→【東映太秦映画村フルリニューアル】2026年3月28日に第1期オープン決定!「江戸時代の京へ、迷い込む」をコンセプトにした大人の没入体験パークへ



