奈良県と橿原市は、近鉄橿原線に設置予定の「医大新駅(仮称)」周辺で進めるまちづくり事業について、整備エリアを駅東側の約3haに拡大し、商業施設を含む民間提案施設と新アリーナを一体的に整備する方針を正式に決定しました。2025年11月4日に開催された第5回「まちづくり協議会」で確認されたもので、都市構造を再編する大規模な複合開発へと計画が拡張します。
事業エリアを拡大、四条東池を含む約3haを新たに追加
これまでPFI事業の対象は、新駅西側の新県立アリーナ整備区域(約3万㎡)に限定されていました。今回、新たに駅東側の約3haを追加。内訳は、奈良県立医科大学附属病院の駐車場整備予定地(約1.4ha)と、その南側に隣接する四条東池(約1.4ha)を含む民有地です。
四条東池は地元土地改良区が所有するため池で、橿原市が買収を予定。定期借地方式による民間開発を基本方針とし、民間提案施設を建設します。この施設には商業機能に加えて病院駐車場機能を内包し、医療・商業・地域交流を兼ね備えた複合拠点として開発する構想です。
民間提案施設・新アリーナ・新駅を「自由通路」で一体化
県と市は今回の拡大により、駅の東西を結ぶ自由通路を整備対象に追加しました。これにより、新アリーナ・民間提案施設・医大附属病院が歩行者動線で連結され、エリア全体が一体的な都市空間として機能します。
従来は「点」として整備される予定だった各施設が、自由通路によって「線」で結ばれる構造に変化し、エリア全体の回遊性と利便性が飛躍的に向上します。来院者・学生・アリーナ利用者が共用できる導線設計とすることで、利用ピークの分散、渋滞緩和、歩行安全性の向上を同時に実現します。
また、鉄道アクセスを中心とした都市動線の再設計により、自動車依存を軽減し、徒歩圏内で完結する高効率なまちづくりを目指します。
PFI方式で整備・運営を一体化、2026年度に事業者募集へ
奈良県は本事業を「(仮称)医大新駅周辺まちづくり」と位置づけ、PFI(Private Finance Initiative)方式で推進します。整備と運営・管理を民間事業者が一体的に担うスキームで、商業運営のノウハウや資金力を活かした事業化を想定しています。
スケジュールは以下の通りです。
| 年度 | 主な工程 |
|---|---|
| 2025年度 | 新駅基本設計、PFI実施方針の策定 |
| 2026年度 | 実施方針公表・事業者募集、プロジェクトチーム設置 |
| 2027年度 | 事業者選定・整備着手 |
| 2028年度 | 新駅・アリーナ・自由通路の建設進行 |
| 2030年度 | 新駅開業・アリーナ完成・まち開き |
| 2031年度以降 | 運営・管理フェーズ開始 |
新アリーナ単体の概算工事費は約135億円で、民間提案施設を含めた総事業費は今後算出予定です。奈良県は「民間活力の導入により事業性が高まり、持続的な地域運営が可能になる」としています。
商業施設の整備で“第2の八木”を形成、山下知事がコメント
奈良テレビ放送によると、山下真知事は協議会後の取材で「商業施設の整備により、八木に次ぐ橿原市の新しい集客スポットになることを期待しています」と述べました。
アリーナ・商業・医療が連動する複合構造により、昼夜問わず人が滞留する都市空間が生まれる見通しです。
県と市は、これまでの「アリーナ整備中心型」から、「商業・交通・医療を融合させたPFI型まちづくり」へと計画を拡張。新たな都市拠点として橿原の東西を結び、地域経済の循環を促す構想です。
医療・交通・スポーツが融合する新拠点、2030年度開業
「医大新駅」は、近鉄橿原線の八木西口駅と畝傍御陵前駅の中間(橿原市四条町)に位置します。2025年度に基本設計、2026〜2027年度に実施設計、2028年度に着工し、2030年度の供用開始を予定。総事業費は約30億円で、奈良県が約50%、橿原市が約13%、近畿日本鉄道が約11%を負担し、残額は国費を充当します。設計・施工は近鉄が担当します。
新駅の開業により、県立医大附属病院や新アリーナへのアクセスが大幅に改善。これまで最寄駅から徒歩圏外だった同地区が、鉄道ネットワークに直結します。医療・教育・イベント・観光の結節点として、南奈良の都市構造を大きく変える計画です。
都市構造の再編へ「点から面」へのバージョンアップ
今回の事業エリア拡大により、「医大新駅周辺まちづくり」は、単なるアリーナ整備から面的な再開発プロジェクトへと進化しました。
新駅、アリーナ、商業、病院を自由通路で結び、PFIによって民間活力を導入する構成は、奈良県内では初の試みです。
従来の単独事業から脱却し、土地利用・交通・商業・公共施設を一体的に再構成する“まちごとPFI”として、橿原市の都市政策は新たな段階に入りました。2030年度の国民スポーツ大会(国スポ)を契機に、南奈良の都市再構築を象徴する拠点となる見通しです。
出典:
・奈良県・橿原市「(仮称)医大新駅周辺まちづくり」共同報道発表資料
・奈良テレビ放送「県立医大附属病院周辺のまちづくり 新駅東側へエリア拡大」
・奈良県・橿原市・近畿日本鉄道「医大新駅整備基本協定」(2025年3月)






