横浜・みなとみらい21地区で運行する都市型ロープウェイ 「YOKOHAMA AIR CABIN(ヨコハマ・エア・キャビン)」 は、2021年4月22日の開業から4年余りで街の定番スポットになりました。運河の上を通り、最高約40mの高さから、みなとみらいの街並みを「移動しながら眺められる」体験を提供しています。2024年7月24日、累計搭乗者数が 500万人 に到達。コロナ禍の開業から、観光需要の回復・インバウンド再拡大の波も受けつつ、観光アトラクションとしての地位をより明確にしました。
「徒歩でも行ける距離(約630m)に、なぜロープウェイが成立するのか?」乗ってみると、この問いの答えは“交通”ではなく“都市体験”の設計にあると感じます。本記事はその前提を揃えたうえで、後半で狙いと構造を整理します。
施設概要
路線図
出展:YOKOHAMA AIR CABIN
YOKOHAMA AIR CABINは、JR桜木町駅前(桜木町駅)と新港地区(運河パーク駅)を結ぶ常設型の都市索道です。汽車道沿いに運河上空を通し、片道約5分の「空中移動」をつくっています。
主な仕様
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区間:桜木町駅 ⇄ 運河パーク駅
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全長:約1,260m(片道約630m)
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最高高さ:約40m
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キャビン数:36台
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定員:8人乗り(最大288人)
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所要時間:片道約5分
運賃(“交通”ではなく“体験”の価格)
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大人:片道1,000円/往復1,800円
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子ども(3歳〜小学生):大人の半額(※子どものみの単独乗車不可)
この価格設定だけでも、「日常の移動手段」ではなく、展望台・観覧車に近い“体験商品”として作っていることが分かります(この点は後半で掘ります)。
事業スキーム(民設民営が前提)

運営は泉陽興業。整備費は約80億円規模とされ、建設・運営は民間側で負担する形が基本です。行政が大きくコストを背負わずに、都市の景観資産・観光資産を厚くできる構造になっています。
利用実績(節目が示す“定着度”)
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2022年2月に100万人、同年9月に200万人
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2023年5月18日に300万人
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2024年7月24日に500万人到達
節目の積み上がり方を見ると、「話題になったから一瞬伸びた」ではなく、観光動線の一部として定着していることが読み取れます。
実際に乗ってみた!

百聞は一見にしかず。実際にエアキャビンに乗ってみました。
こちらは桜木町駅前の乗り場の様子です。駅に近接していますが、公共交通機関の様に、大量の人が乗り換える作りにはなっていません。

ゴンドラの様子です。都会的でスマートなデザインです。

ゴンドラ内の様子です。6人乗りで広々としています。

乗り込んで移動開始!急加速で一気に乗り場の外へ放り出されます。スキーのリフトの出だしと同じ感覚ですね。

おおお!超高層ビルの間を空中移動!これはなかなか新感覚の体験です。

ぐんぐん上昇し、視界が一気に開けていきます。

鉄塔が高い!デザインもシンプルで、景観に配慮していることがわかります。

エアキャビンから見た「みなとみらい」の摩天楼。素晴らしい都市景観です。

あっという間に下降を開始。行き交うメタリックなゴンドラが、近未来的な雰囲気を演出しています。

あっという間に「運河パーク駅」に到着しました!
考察:YOKOHAMA AIR CABINは何を狙い、何を成し得たのか

ここから先は、「乗り物の感想」ではなく「都市装置としての設計意図」を整理します。YOKOHAMA AIR CABINは、ロープウェイそのものが主役ではなく、“都市の見え方”と“回遊の起点”を上書きするための仕掛けとして設計されています。
① 移動インフラではなく「都市体験装置」

片道約630mは、徒歩なら8〜10分程度。ここでロープウェイが成立するのは、速達性ではなく“乗る行為そのもの”を商品化しているからです。
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最高約40mという“ちょうど良い高さ”
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運河上空を通すことで、視界の抜けを確保
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キャビンからの眺望が、そのまま「横浜らしさ」になる
同じ「1,000円」でも、移動コストとしては高く見える一方、展望台・観覧車に置き換えると納得しやすい。東洋経済も“移動手段というよりアトラクション”として捉えるのが自然だと整理しています。
② 地上混雑から分離された「空中の回遊動線」

汽車道や周辺プロムナードは、休日は人が密になりやすい場所です。その上を“別レイヤー”として通すことで、
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混雑のストレスを避け
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水辺・都市景観を一気に俯瞰し
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次の目的地(新港・赤レンガ方面)への心理的距離を縮める
という効果が出ます。
重要なのは、距離を縮めたのは物理ではなく 「気分」 だという点です。徒歩8分は、観光地では「行くか迷う」距離になり得ます。エアキャビンはそこを “迷わず次へ進む” 動線に変換します。
③ 民設民営だからこそ「やり切れた」設計
整備費は約80億円規模、民間主導(民設民営)が前提。行政主導だと、どうしても
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価格(公共性)
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採算(説明責任)
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景観(合意形成)
のどこかで設計が小さくなりがちです。
一方で、民間主導なら「体験商品」としての価格設計を取り、設備投資を成立させやすい。さらに市側は、運営が軌道に乗れば都市の魅力が増し、イベント・商業・宿泊消費にも波及する。ここは官民双方に合理性があります。
④ みなとみらいを「点」から「面」にする“束ね役”

みなとみらいは、強い目的地が複数ある都市です。ランドマーク/コスモワールド/ワールドポーターズ/ハンマーヘッド/赤レンガ…と、点は強い。一方で、観光の満足度は「点と点をどう繋ぐか」で決まります。
エアキャビンは、この“繋ぎ”を
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徒歩導線(汽車道)と重ねながら
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体験レイヤーを上に追加して
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回遊のモチベーションを上げる
ことで、面としての滞在価値を底上げします。
累計500万人という数字は、単なる人気の証明ではなく、回遊動線として日常的に“選ばれる仕組み”が成立した結果として読むほうが、都市論的には納得感があります。
メタ考察:なぜ「みなとみらい」で成立したのか?

ここは少しだけ視点を上げます。この事業は、三者の利害が噛み合うことで、非常に強い安定性を持っています。
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横浜市:公費の大きな投入を避けつつ、都市ブランド・観光価値を増やせる(しかも実績が積み上がる)
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泉陽興業:都市部・常設索道という“看板”実績を獲得し、次の展開にも使える(節目の利用者数は説得材料になる)
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観光客:短時間で「乗った体験」と「眺望」を得られ、SNS的にも説明しやすい(=消費の理由が立つ)
さらに、強風で運休する日があるなど、索道ならではの制約を明示しつつ、安全優先で運行する姿勢も語られており、“無理して回す施設”になりにくい設計思想も見えます。結果として、「誰かが大きく損をする構造」になりにくい。これは都市施設としてかなり強い条件です。
開業前に反対意見はなかったのか
結論から言うと、計画段階で反対・懸念は存在しましたが、運動化するほど拡大しませんでした。
主な論点は3点です。
1:景観への影響。運河上空を横断する索道や夜間照明が、みなとみらいの景観を損なうのではないかという指摘です。これに対し、横浜市の都市美対策審議会の審査を通じて、細身の丸鋼管支柱、抑制的な色彩・照明計画などが採用され、反対を前提に設計が調整されました。
2:税金投入への懸念。観光施設に公費を使うのかという批判はありましたが、建設・運営は 泉陽興業 の民設民営で、市は公費負担を行わず、占用料を受け取る立場です。このスキームが明確だったため、「市民負担」という論点が広がりませんでした。
3:実用性への疑問。約630mを1,000円で移動することへの違和感です。ただし、市・事業者は一貫して「公共交通ではなく観光施設」と位置づけ、定期券や市民割引を設けないことで、議論の土俵を最初から“移動手段”に置きませんでした。
結果として、公費負担なし/立ち退きなし/住宅地通過なし という条件が重なり、反対側の当事者性が生まれにくい構造となりました。反対意見は存在したものの、制度設計と立地条件の段階で吸収され、大きな摩擦を生まずに実現した計画だったと言えます。
まとめ
YOKOHAMA AIR CABINは、単に空を渡るロープウェイではありません。徒歩でも移動できる距離に、あえて空中動線を差し込み、
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都市に新しい視点(見え方) を与え
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回遊性(次へ進む動機) を強化し
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景観と体験価値 を同時に商品化する
という複数の狙いを、短い1本のラインに凝縮した都市装置です。
そして累計500万人という実績は、「話題性」ではなく「定着」を示す数字です。みなとみらいのように“点が強い街”において、点と点の間に「体験としての移動」を挟み込むことで、滞在価値を面で引き上げる。エアキャビンはその成功例として分かりやすいと感じました。
出典・参考資料
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YOKOHAMA AIR CABIN 公式「About / 主な仕様」YOKOHAMA AIR CABIN
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泉陽興業「世界最先端の都市型循環式ロープウェイ」「累計500万人到達のお知らせ」泉陽興業株式会社ホームページ
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毎日新聞(2024年7月25日)「利用者500万人に到達」毎日新聞
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横浜経済新聞(2024年7月24日)「累計搭乗者500万人に到達」ヨコハマ経済新聞
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東洋経済オンライン(2023年5月28日)「利用者300万人突破」東洋経済オンライン
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横浜市観光公式(横浜観光情報)記事ページ横浜市役所ウェブサイト





