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『やりたいことから引ける!鉄道模型Nゲージ テクニックバイブル』レビュー。「リアルじゃなくていい」──SIGEMONさんが伝えたかった“つくる自由”


鉄道ジオラマ系YouTuberとして活動するSIGEMONさんが、初の著書『やりたいことから引ける!鉄道模型Nゲージ テクニックバイブル』を成美堂出版から刊行しました。本書は、人気シリーズ「やりたいことから引ける!」の一冊として位置づけられていますが、その中身は単なる工作本ではなく、創作に対する思想が息づく一冊となっています。


本書の構成は、編集部が設計した骨組みに、SHIGEMONさんの実践的な視点が加わるかたちで仕上げられました。全国高等学校鉄道模型コンテストで高校生たちと接する中で得たリアルな疑問や、3Dプリンタなど現代的な工作環境への対応が丁寧に盛り込まれています。

さらに、SHIGEMONさん自身の原体験や失敗から得た気づきを踏まえ、「こうすればもっとやりやすい」と感じた工夫も随所に反映されています。かつて自分がつまずいたポイントについては、同じ悩みを抱えた読者が迷わないように、わかりやすく解決策を提示することを意識して執筆されています。その結果、実用性と共感性が両立した一冊となっています。

A5サイズで制作された小さなジオラマは、短時間で完成させやすく、成功体験を得やすい

本書の大きな目的は、初心者に「最初の成功体験」を届けることにあります。つくる楽しさや感動は、完成までたどり着いて初めて得られるものです。その手応えが次の創作への原動力になることを、SIGEMONさんは自身の経験から理解しています。だからこそ、作例はA5〜A4サイズを中心にして、道具の使い方や手の動かし方など細かなポイントまで写真付きで解説されています。「これならできそう」と思える設計が、読者の手を止めさせない工夫になっています。


道具の持ち方や取り付け部分が分かりやすいように意識して撮影した写真

注目すべきは、本書が模型づくりにおける価値観の“揺らぎ”を受け止めている点です。SIGEMONさんは、本書の中であえて「リアル」という言葉を一度も使っていません。精密さや再現度の高さを目指す従来の価値観から離れ、「楽しくつくれるかどうか」を創作の出発点とする姿勢が徹底されています。

この考え方は、誌面の構成にも現れています。どこを省略してよいかが具体的に示されており、難解な専門用語も使われていません。手を抜いてもいい。上手でなくてもいい。そうした“許容”の空気が、読者の心理的なハードルを下げ、創作の楽しさを純粋に味わえる導線になっています。

SHIGEMONさんが「印象に残った作品」と語った敦賀駅

SIGEMONさんにとってジオラマとは、「手のひらの上で世界をつくり直すこと」です。模型を通じて、地理や構造、記憶や風景と向き合い、それらを自分の視点で再構成する。それは観察と編集の行為であり、創造の原点ともいえるプロセスです。本書は、その入り口に立つすべての人へ向けて、「まずは一度、形にしてみよう」と静かに背中を押してくれます。

3Dプリンタに関する章も印象的です。SHIGEMONさんは、便利な機械としてではなく、「考えて作る」力を引き出す装置として3Dプリンタを捉えています。書籍でも、この視点を反映すべく、当初の構成にはなかった3Dプリントの項目を自身の提案で追加しました。

便利な道具である一方で、3Dプリンタは「作りたいものをどう形にするか?」を試行錯誤させる装置でもあります。道具やデータが揃っていても、“作りたい”という動機がなければ何も始まらない――その哲学は、本書全体の執筆にも通じています。この視点は、鉄道模型に限らず、すべての創作行為に通じる普遍的なメッセージといえるです。


こちらの写真は、SHIGEMONさんがかつて読み込んだ『はじめての鉄道模型(左)』と、ご自身が手掛けた『やりたいことから引ける!鉄道模型Nゲージ テクニックバイブル(右)』を並べたものです。モデラーとしての原体験となった書籍の最新版を、当時の読者本人が制作するという、きわめて稀有な物語がここにあります。

SHIGEMONさんは、「10年後にボロボロになるまで読まれていたら嬉しい」と語ります。それは、情報を一度きりで消費されるマニュアルではなく、創作の原点に立ち返れる“人生の相棒”のような存在を目指した証でもあります。繰り返し手に取り、読むたびに新たな気づきをもたらす――そんな一冊として、本書は読者の中に静かに根を張っていくことでしょう。

 


読後、ひとつ強く感じたことがあります。SIGEMONさんが多くの人から支持されている理由は、単に作品が上手だからではありません。「つくっていいんだよ」「それでいいんだよ」と、他人の“楽しむ自由”をまるごと肯定できる人だからです。それを押しつけず、自分の実践を通して見せている。その姿勢が、今の時代に求められているのだと気づかされました。

『やりたいことから引ける!鉄道模型Nゲージ テクニックバイブル』は、他人の評価ではなく、自分の気持ちを起点に創作することの大切さを思い出させてくれる本です。うまくなくても、楽しくていい──そう語りかける声が、ページの奥から静かに響いてきます。






やりたいことから引ける!鉄道模型Nゲージ テクニックバイブル
Nゲージの情景製作に必要な基本的な考え方、テクニックについて、写真とともに詳しく解説。
四季折々の風景、市街地、駅周辺など、思いどおりにつくれる表現テクニックが満載。
基礎知識から徹底解説しているので、はじめてでもできる。
作りたい情景から作り方が引ける鉄道模型ファン必携の一冊!
人気鉄道模型youtuber初の著書。
ISBN 978-4-415-33425-7
発行日 2025年04月09日
判型 B5
ページ 208ページ
定価 1,980円(税込)

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