自走式ロープウェイ「Zippar(ジッパー)」の存在感が、この1〜2年で急速に高まっています。富谷市や稲城市での導入検討、成田空港関連のヒアリング、さらに九州電力や新明和工業、梓設計との提携を通じて、次世代交通の候補として名前が挙がる機会は確実に増えました。
もっとも、現時点でZipparは本格導入済みの交通システムではありません。一方で、単なる話題先行の構想とも言い切れない段階に入っています。実物車両による試験、自治体との調査、制度面の検討、企業連携が並行して進んでおり、現状を一言で表すなら「初号案件の成立を目指す社会実装前夜」と整理するのが最も実態に近いでしょう。
Zipparとは何か
出展: Zip Infrastructure
Zipparは、車両本体にバッテリーとモーターを搭載し、直線区間はロープ上、カーブ区間はレール上を連続的に走行する自走式の新交通システムです。開発するZip Infrastructureは、「低コスト」「自由設計」「自動運転」を特徴として掲げ、従来型モノレールの半分程度の輸送力を、建設コスト・工期ともに5分の1程度で実現可能と説明しています。
もちろん、この数値は現時点では事業者側の提示する想定性能であり、実案件でも同等の条件が成立するかは今後の検証が必要です。ただ、Zipparが狙う市場はかなり明確です。地下鉄やフル規格鉄道では投資が重くなりすぎる一方、バスだけでは輸送力や定時性が不足しやすい 。そうした「中量輸送の空白域」を埋めることが、Zipparの基本的な立ち位置です。
想定用途も具体的です。ニュータウンと鉄道駅を結ぶ移動、起伏のある郊外住宅地での移動支援、空港や大型施設内の回遊交通、公園や再開発地区といった公道外空間でのモビリティ確保などが挙げられています。つまりZipparは、全国どこでも鉄道の代替になれる万能交通を目指しているのではなく、一定の需要はあるが重厚な鉄道投資が難しい場所に最適化された新交通として売り込まれているのです。
技術開発は「構想」から「実物」へ進んだ
出展: Zip Infrastructure
Zip Infrastructureは2018年設立のスタートアップです。会社公表情報によると、2023年には秦野市で12人乗りテストモデル車両の走行に成功し、その後は福島県南相馬市に拠点を移して試験線整備を本格化させました。2025年10月には福島試験線への載線や試乗会に関する発信も行っており、少なくともZipparはCGや構想図だけで語る段階を脱したといえます。
ただし、試験線で走ることと、公共交通として社会実装できることは別問題です。安全性の証明、制度認可、需要予測、採算性、保守体制の構築など、越えるべき壁は多い。現状のZipparは、完成した交通システムというより、技術実証の段階から社会に組み込む条件を整える段階へ移行したとみるのが適切です。
自治体との接点は着実に広がっている
出展: Zip Infrastructure
Zipparの現在地を測るうえで、最も分かりやすい指標の1つが自治体との接点です。
宮城県富谷市では、新たな地域公共交通としてZipparが検討対象に入りました。市の地域公共交通活性化協議会では、地下鉄延伸やBRTと並ぶ選択肢として取り上げられており、少なくとも机上検討の俎上には明確に載っています。
東京都稲城市では、2026年1月19日にZip Infrastructureと「稲城市新交通システムの検討に関する連携協定」を締結しました。市の公表資料では、京王よみうりランド駅や稲城駅、根方谷戸公園、TOKYO GIANTS TOWN周辺を含む新交通の検討を進めるうえで、情報共有や連携を図ることが目的とされています。導入決定ではありませんが、都市近郊案件として一歩踏み込んだ動きです。
このほか、Zip Infrastructureの公式発信では、石狩市での導入可能性調査、神奈川県との連携、秦野市や相模原市などでの研究・交流、豊見城市での連携なども紹介されています。全国各地で濃淡はあるものの、Zipparが複数自治体の正式な検討対象に入りつつあることは確かです。
ただし、ここは冷静に整理する必要があります。勉強会の開催、SDGsパートナー登録、連携協定、導入可能性調査、基礎設計の受注では、事業化までの距離がそれぞれ大きく異なります。現状を「全国で導入が決まっている」と表現するのは正確ではありません。より実態に近いのは、「全国で調査、連携、制度接点が着実に広がっている段階」という見方です。
初号案件は「公道外」から立ち上がる可能性が高い
現在のZipparを語るうえで大きな転機になりうるのが、2025年12月に公表された「公道外における基礎設計を含む導入可能性調査」の初受注です。発注元や案件内容は非公開ですが、これは小さくない前進です。
なぜなら、公道上の公共交通として導入する場合は、道路占用、都市計画との整合、制度認可、関係機関との調整など、一気にハードルが上がるからです。一方、公園、商業施設、空港、再開発地区などの公道外空間は、初号案件を成立させやすい。規制負荷が相対的に軽く、実証から実装へ移りやすいからです。
このためZipparは、いきなり都市の幹線交通に入るというより、大規模施設内交通や私有地内モビリティで実績をつくり、そこから公共交通へ展開していく可能性が高いとみられます。これは後退ではなく、むしろ新交通としてはかなり現実的な進め方です。
空港分野への接近は認知度の変化を示す
出展: Zip Infrastructure
空港分野での動きも、Zipparの現在地を考えるうえで重要です。2025年12月、Zip Infrastructureは、成田空港の新交通システム動向調査においてヒアリング対象になったと公表しました。対象範囲は、新旅客ターミナル内交通、新貨物地区とターミナル地区間交通、さらに周辺地域や従業員駐車場とターミナル地区間交通の3分野に及びます。
採用決定ではありませんが、空港は安全性、定時性、保守性、バリアフリー対応などに高い水準が求められる分野です。そこでヒアリング対象になったこと自体が、Zipparが拠点内交通の候補技術として認知され始めていることを示しています。
さらに2026年1月には、空港設計で実績のある梓設計と連携協定を締結しました。協定には、空港内外でのZipparの実現可能性検討、APMとしてのユースケース開発、国内外空港への共同提案が盛り込まれています。技術を実際の施設計画や動線設計の中へ落とし込むうえで、かなり実務的なパートナーを得た形です。
大手企業の参画で「乗り物」から「システム」へ近づく
Zipparの評価を底上げしているのが、大手企業との提携です。九州電力とは2025年2月に実用化に向けた連携協定を締結し、同年10月22日には出資契約まで進みました。九州電力は、Zipparの早期社会実装や、これを活用したまちづくりの検討を進める方針を示しています。
2026年1月には梓設計、同年3月には新明和工業とも資本業務提携を締結しました。特に新明和工業との提携では、整備基地、充電設備、保管庫など、交通システムの裏側を支える設備面での協業が打ち出されています。交通は車両だけでは成立しません。充電、整備、保守、保管、運用設備まで含めて初めて「システム」として成立します。その意味で新明和工業の参画は、Zipparが単なる新しい乗り物から、運用可能な交通システムへ近づいていることを示す材料といえます。
いまの課題と今後の焦点
ここまで整理すると、Zipparはもはや夢物語として片付けられる段階ではありません。試験線整備、自治体調査、空港分野でのヒアリング、公道外調査の初受注、大手企業による出資や提携など、社会実装に向けた準備は確実に積み上がっています。
一方で、核心部分はまだこれからです。初号案件をどこで立ち上げるのか。制度認可をどう突破するのか。想定している建設コストや工期が実案件でも成立するのか。整備、保守、充電を含めた全体システムとして現実に回るのか。評価の本番は、まさにこの先にあります。
まとめ
出展: Zip Infrastructure
Zipparは、成功が約束された本命ではありません。しかし同時に、話題先行の絵空事とも言えなくなっています。現在の立ち位置を端的に言えば、自治体、空港、設計会社、電力会社、製造業を巻き込みながら、初号案件の成立を目指す「社会実装前夜」の新交通です。
次に問われるのは、技術の新しさそのものではありません。どこで、どの用途で、どこまで現実に動くのか。Zipparの本当の勝負は、そこから始まります。
出典元
・Zip Infrastructure株式会社 公式サイト
・Zip Infrastructure株式会社「各地の進行状況」
・稲城市「Zip Infrastructure株式会社との『稲城市新交通システムの検討に関する連携協定』」
・Zip Infrastructure株式会社/PR TIMES「成田空港の新交通システムの導入可能性調査ヒアリング対象に」
・Zip Infrastructure株式会社/PR TIMES「公道外において基礎設計を含む導入可能性調査を初受注しました」
・九州電力「Zip Infrastructureと九州電力は出資契約を締結しました」
・梓設計「次世代交通システムの実用化を目指し、Zip Infrastructure社と連携協定を締結」
・Zip Infrastructure株式会社/PR TIMES「Zip Infrastructureと新明和工業は資本業務提携を締結しました」






