香港・金鐘(Admiralty)に建つLIPPO CENTRE(旧 Bond Centre)は、ひと目で記憶に残る超高層ビルです。設計を手がけたのはアメリカの建築家Paul Rudolph、実施設計は香港のWong & Ouyang。44階・172mのタワー1と、48階・186mのタワー2からなる双塔で、1988年に完成しました。
この建物が印象に残るのは、単に背が高いからではありません。今見ても十分に個性的な外観を持ちながら、その造形にはきちんとした理由があります。LIPPO CENTREは当初から「香港のランドマークとなる彫刻的な双塔」として構想されており、完成から30年以上が経った今も強い存在感を保っています。見た目のインパクトだけでなく、設計そのものの密度の高さも、この建物の魅力と言えそうです。
ただの超高層ではない。「彫刻的な双塔」という出発点
LIPPO CENTREの設計コンセプトを読み解くうえで鍵になるのが、「sculptural icon」という考え方です。Wong & Ouyangは、この建物を彫刻的なアイコンとして構想し、ファサードに設けた強い張り出し要素によって、塔が螺旋状に立ち上がっていくような印象を与えることを狙ったと説明しています。2本の塔は単に並んでいるのではなく、互いに呼応し合うような見え方が意識されていました。
Paul Rudolph自身も、遠景・中景・近景のどこから見ても存在感を持たせながら、反射ガラスによって香港の変化する光を映し込み、建物が空に溶け込むように見せることを意図していたと語っています。LIPPO CENTREは、重厚な立体造形と、光による軽やかな表情の両立を目指した建築でした。
なぜあんな形なのか。造形の裏にある4つの理由

LIPPO CENTREの外観はかなり独特ですが、その形は奇抜さを優先した結果ではありません。大きく分けると、4つの狙いが見えてきます。
1つ目は、都市の中で埋もれない造形性です。香港の都心には高層ビルが密集しています。その中でLIPPO CENTREは、箱型のビルとは異なる輪郭を持つことで、遠くからでも識別しやすい存在になっています。あのゴツゴツした張り出しは、双塔を単なるオフィスビルに見せないための重要な要素でした。
2つ目は、光の操作です。反射性の高いガラスを使うことで、建物は空や周囲の景色を映し込み、時間帯や天候によって表情を変えます。マッシブな形態でありながら、視覚的には重く見えすぎない。このバランスもLIPPO CENTREの特徴の1つです。
3つ目は、内部機能との連動です。Paul Rudolph Foundationによると、回転するように配置された大きなベイウィンドウ群によって、合計58種類のオフィス平面が生まれ、多くのコーナーウィンドウも確保されました。外観の凹凸は見た目の演出だけではなく、オフィスとしての使い勝手や商品性にもつながっていました。
4つ目は、歩行者動線との立体的な接続です。塔を持ち上げるような柱脚表現とポディウムによって、地上レベルとデッキレベルの両方からアクセスできる構成が取られています。LIPPO CENTREは、単体で完結するビルというより、周辺の都市動線の中に組み込まれた存在でもありました。
狙っていたのは「収益ビル」だけではない
この建物の面白さは、オフィスビルとしての機能だけで終わっていない点にあります。RudolphはLIPPO CENTREを、単なる収益不動産ではなく、人が集まり、交差する都市的な結節点として捉えていました。
本人は低層部について「利用者や関係者が出会う場」と説明しており、建築としてのシビック・ジェスチャー(Civic Gesture)、つまり都市空間に対する意図的で協調的な働きかけでもあると語っています。M+の解説でも、Bond Centre案は周辺の高架歩行者ネットワークと接続し、香港らしい立体都市の流れに組み込まれることが重視されていたとされています。
この視点で見ると、LIPPO CENTREは単に目立つ高層ビルではなく、香港という多層的な都市の流れに参加する建築だったことがわかります。
自由な造形に見えて、実は制約も大きかった
さらに興味深いのは、LIPPO CENTREが完全な自由設計の産物ではなかった点です。かなり厳しい条件の中から生まれた建築でもありました。
Wong & Ouyangによると、この敷地は地下のMTR駅やコンコースとの関係が非常に複雑で、さらに上部構造を支える基礎や地下部分が先にできあがっていたため、双塔の高さや配置にはかなり強い制約がありました。Rudolph自身も、この香港の計画は「すでに打設された基礎の上で設計する」という特殊な条件のもとで進められたと語っています。
つまり、あの自由奔放に見える造形は、ゼロから好きに描いたものではありません。むしろ、既定の条件が多い中で、どうすれば個性と都市性を両立できるかを突き詰めた結果として生まれた建築でした。そこにもLIPPO CENTREの面白さがあります。
「1988年完成」が今見ても新鮮に映る理由
LIPPO CENTREを見てまず驚かされるのは、その完成年です。1988年という時代を考えると、この建物がかなり先鋭的だったことがよくわかります。
1980年代の香港は、金融センター化が急速に進んでいた時期でした。その中でLIPPO CENTREは、単純なガラスの箱ではなく、複雑な立体造形、反射ガラスによる視覚効果、歩行者デッキとの多層接続、柱で持ち上げたポディウム処理までを一体として実装していました。今見てもかなり攻めたデザインに映りますが、それを1988年の時点で成立させていたわけです。
古く見えにくいのは、単に未来的な見た目だからではありません。都市の中で超高層をどう見せ、どう接続し、どう機能させるかという根本的なテーマに実直に向き合っていたからこそ、時間が経っても魅力が薄れにくいのだと思います。
香港建築を語るうえで外せない存在
一般的な観光知名度でいえば、HSBC本店やBank of China Towerのほうが先に名前が挙がるかもしれません。ただ、香港建築や高層建築を語るうえで、LIPPO CENTREはやはり外せない存在です。
公式にも香港のランドマークの1つと位置づけられており、M+も香港公園側から眺めた際に自然と視線を引き寄せる建築として扱っています。さらに、外観が木にしがみつく動物のように見えることから、住民の間では “koala building” や “koala tree” のような通称でも知られています。Paul Rudolphにとっては香港で実現した唯一の作品でもあり、その意味でも建築史的な価値は小さくありません。
まとめ。LIPPO CENTREの魅力は「高さ」だけではない
LIPPO CENTREは、「奇抜な形のビル」という一言では片づけにくい建築です。制約の強い敷地条件の中で、ランドマーク性、視覚効果、オフィスとしての機能性、そして香港という立体都市との接続をまとめて解いた、1980年代の意欲作でした。
完成年だけ見ても十分に驚かされますが、この建物の魅力は高さよりも、むしろ設計の密度にあります。The Hendersonが現代香港の有機的で未来的な表現だとすれば、LIPPO CENTREはそのはるか前に、別の方法で香港の垂直都市を先取りしていた建築だと言えます。
出典
・Paul Rudolph Institute
・Wong & Ouyang
・M+
・Lippo Centre 公式サイト
・Metropolis












