名古屋鉄道が進めてきた名古屋駅地区の大規模再開発計画が、事実上の中止状態に入りました。名鉄は2025年12月12日、解体着工を含むすべてのスケジュールを「未定」とし、現行計画の再検証および見直しに着手すると発表しました。計画を正式に白紙撤回したわけではありませんが、協力ゼネコンによる入札辞退を受け、従来の計画が成立しないことが明確になった形です。
リニア中央新幹線の開業を見据え、「名古屋の玄関口」として再整備が期待されてきた名古屋駅ですが、今回の判断により、その将来像は大きく揺らぐこととなりました。
2015年に始まった再開発構想、度重なる計画修正
名古屋駅地区再開発構想が初めて示されたのは2015年です。当時はリニア中央新幹線の2027年開業を前提に、名鉄百貨店本店、名鉄バスセンター、近鉄パッセ、日本生命ビルなど計6棟を一体的に建て替える計画が打ち出されました。
2017年には、南北約400mにわたる高さ160〜180m級の巨大な単一ビル案が公表され、完成すれば世界最大級の延長を誇る再開発として注目を集めました。
しかし、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大が発生し、オフィス、ホテル、商業施設といった主要用途の需要が不透明となりました。この影響を受け、2022年に予定されていた着工は見送られ、計画は再検討段階に移行します。
計画縮小後も残った高い事業難易度
再検討を経て、名鉄は超巨大1棟案を断念し、高さ約170m級の複合ビル2棟を建設する案へと計画を修正しました。規模は縮小されたものの、地下での名鉄名古屋駅再整備や、2線から4線への拡張といった鉄道機能の高度化は維持されました。
このため、電車を運行しながら解体・新築工事を進めるという高難度の条件は変わらず、工事の技術的難易度やリスクは依然として極めて高い状態にありました。
建設費の急膨張が計画を圧迫
再開発を取り巻く環境は、2021年以降さらに厳しさを増しました。世界的なインフレの進行により建設資材価格が高騰し、加えて建設業界では深刻な人材不足が常態化しました。
こうした要因が重なり、2015年当初に約2,000億円と見込まれていた事業費は大幅に増加しました。事業化段階では、名鉄負担分だけで約8,880億円に達するとされ、名鉄側によれば、ゼネコン側からは工事費が当初見積もりの倍程度に膨らむ可能性も示されたといいます。
協力ゼネコン辞退が決定打に
決定的となったのが、2025年11月26日付で提出された大手ゼネコン3社による共同企業体の入札辞退です。名鉄は公式に、その理由として「人材確保難により、現計画に対応する施工体制の構築が困難である」と説明しました。
設計段階から関与していたゼネコンが最終段階で辞退したことにより、現行計画が建設業界の実情と乖離していたことが浮き彫りとなりました。この結果、名鉄は解体着工を含むすべての工程を未定とし、計画の再検証に踏み切る判断を下しました。
既存施設への影響、予定通りと未定が混在
再開発計画の見直しは、周辺施設の営業にも影響を及ぼしています。名鉄百貨店本店(本館・メンズ館)は、従業員の再配置などが既に進んでいることから、2026年2月28日で閉店する方針が維持されました。
一方、名鉄バスセンター、名鉄グランドホテル、スカイパーキング、百貨店前に設置されているナナちゃん人形については、当初予定されていた営業終了や移設の時期が一転して「未定」となりました。その後、名鉄は2025年12月19日、名鉄バスセンターについては2026年4月以降も現在地で営業を継続すると正式に発表しています。
地元と関係機関に広がる波紋
名駅周辺の地元商店街からは、「青天の霹靂」と受け止める声が上がりました。11月に名鉄から具体的な説明を受けたばかりだった事業者も多く、わずか1か月後のスケジュール未定の発表は、大きな衝撃を与えたといいます。
一方、JR東海の丹羽俊介社長は、名鉄の計画見直しについて「必要があればできる限り協力する」と述べ、リニア中央新幹線の工事スケジュールへの影響はないとの見解を示しました。
巨大一括再開発モデルの転換点に
今回の名古屋駅再開発の事実上の中止は、名古屋だけの問題にとどまりません。インフレ、人材不足、長期工期リスクが同時に進行する中、超大型・一括型の再開発モデルが限界に直面していることを示しています。福岡・博多駅周辺で計画されていた大型再開発が建設費高騰を理由に中止された事例とも重なります。
名鉄は「白紙撤回ではない」とし、再検証の結果を改めて示す方針です。ただし、従来規模の計画がそのまま復活する可能性は低いとみられます。今後は、規模縮小や段階整備を前提とした、現実的な再設計が求められることになります。
名古屋駅は今、理想像を追い求める段階から、持続可能性を重視した都市のあり方を模索する局面に入ったと言えそうです。
【出典元】
→名古屋駅地区再開発計画等のスケジュール変更ならびに 現計画の再検証および見直し着手について
→名鉄バスセンターの営業継続について
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日本経済新聞
「名鉄、名古屋駅再開発の開業時期「未定」に 2033年以降開業を変更」 -
朝日新聞
「名駅再開発、迫られる見直し 「想定外の事態」名鉄幹部ににじむ苦悩」






