「ザ ベイスイート」
今回は、三重県志摩市・賢島にある「志摩観光ホテル ザ ベイスイート」の宿泊記をお届けします!
志摩観光ホテルといえば、2016年のG7伊勢志摩サミットの会場として知られる、伊勢志摩を代表する名門ホテルです。ただ、このホテルの魅力は「サミットが開かれた有名ホテル」という一言だけでは語りきれません。
志摩観光ホテルの開業は1951年。戦後日本のリゾートホテル史を象徴する存在であり、皇室関係者や国内外の賓客を迎えてきた格式あるホテルです。立地は伊勢志摩国立公園内、真珠いかだが浮かぶ英虞湾の中心に位置する賢島。建築家・村野藤吾氏に連なる建築の記憶、地元の魚介類を生かした「海の幸フランス料理」の伝統、そして国際会議の舞台となった実績が重なっています。

現在の志摩観光ホテルは、歴史を受け継ぐ「ザ クラシック」、全室スイートの「ザ ベイスイート」、開業当時の建物を活用した「ザ クラブ」で構成されています。今回宿泊したザ ベイスイートは、志摩観光ホテルが長年培ってきた伝統を、現代のラグジュアリーリゾートとして再構成した宿泊棟です。
志摩観光ホテルとは?戦後日本のリゾートホテルを象徴する存在

「ザ クラシック」
志摩観光ホテルは、1951年に開業した戦後初期の本格的な洋式リゾートホテルです。伊勢志摩国立公園内の賢島に建ち、英虞湾を望む高台という立地を生かしながら、長年にわたり伊勢志摩を代表する迎賓ホテルとして歩んできました。
開業時の建物には、建築家・村野藤吾氏が手がけた三重県鈴鹿の海軍工廠高等官集会所の柱や梁が移築されました。現在、その建物は「ザ クラブ」として活用されています。この成り立ちが、志摩観光ホテルならではの落ち着きを生んでいます。新築の豪華ホテルとは異なり、既存建築の記憶を受け継ぎ、伊勢志摩の自然と調和させながらホテルとして再構成してきた。そのため館内には、単なる高級感ではなく、時間を重ねた建築だけが持つ深みがあります。

また、志摩観光ホテルは皇室ゆかりのホテルとしても知られています。1951年11月には昭和天皇を迎え、ホテル庭園から英虞湾を望む景色を賞された記録が残っています。こうした背景もあり、同ホテルは皇室関係者や著名人も利用する格式高いホテルとして評価されてきました。英虞湾の風景、皇室や賓客を迎えてきた歴史、村野藤吾氏に連なる建築、長年培われたホテル文化が一体となり、ここでしか成立しない滞在価値を形づくっています。
ブランドの位置づけ|都ホテルズの中でも別格の国際リゾート

志摩観光ホテルは、近鉄グループの都ホテルズ&リゾーツに属するホテルです。ただし、一般的なシティホテルや温泉リゾートとは位置づけが異なります。伊勢神宮参拝や伊勢志摩観光の拠点でありながら、本質的には「このホテルに滞在すること」自体が旅の目的になるタイプのホテルです。
とくにザ ベイスイートは、その性格が明確です。全50室すべてがスイートルームで、客室面積は約100㎡から200㎡。客室数を増やして稼働率を追うのではなく、1室あたりの広さ、眺望、プライバシー、滞在時間の質を重視した構成です。
都市型ラグジュアリーホテルが、アクセス、眺望、レストラン、クラブラウンジ、ブランド力を組み合わせて価値をつくるのに対し、志摩観光ホテル ザ ベイスイートは、英虞湾という自然資産とホテルの歴史を軸に、滞在そのものの質を高めているホテルです。

さらに現在、ザ ベイスイートはSLH(Small Luxury Hotels of the World)にも加盟しています。SLHは、世界各地の独立系ラグジュアリーホテルを集めたコレクションで、大規模チェーンとは異なる個性や土地性を重視するホテルが多く加盟しています。
加えて、SLHとヒルトンの提携により、ヒルトン・オナーズ会員にも門戸が開かれました。ヒルトン公式経由で予約することで、対象となるSLHホテルではポイント獲得や会員特典の対象となるため、ヒルトン系ホテルを中心に泊まっている人にとっても、ザ ベイスイートは現実的な選択肢になっています。
これは志摩観光ホテルにとって、大きな変化です。国内の名門クラシックリゾートでありながら、グローバルな予約・ポイント経済圏にも接続されたことで、これまで以上に幅広いホテル愛好家から発見されやすい存在になりました。
伊勢志摩サミットの舞台になったホテル

志摩観光ホテルの知名度を全国的、そして世界的に押し上げた出来事が、2016年のG7伊勢志摩サミットです。日本で8年ぶりに開催された主要国首脳会議の会場として、志摩観光ホテルが選ばれました。各国首脳を迎える場として、格式、警備面、景観、食、ホスピタリティが評価されたことは、このホテルのブランド価値を考えるうえで大きな意味を持ちます。

サミット会場になったホテルに泊まる体験には、独特の重みがあります。単に「有名人が泊まったホテル」という話ではありません。国際会議の舞台に選ばれるホテルには、空間の品格、動線、プライバシー、サービスの安定感、地域を代表する象徴性が求められます。志摩観光ホテルは、伊勢志摩という地域を世界に示す舞台として機能したホテルでもあります。
なぜ「ザ ベイスイート」が生まれたのか

ザ ベイスイートは、2008年10月10日に開業した全室スイートの宿泊棟です。近鉄は当時、ベイスイートを「伊勢志摩事業計画の象徴的プロジェクト」と位置づけていました。同時に、既存ホテルを「志摩観光ホテル クラシック」と改称し、志摩観光ホテルは二館体制へ再編されます。
この再編の意図は、非常に分かりやすいものです。
ザ クラシックは、村野藤吾氏に連なる建築、皇室や賓客を迎えてきた記憶、小説の舞台にもなった歴史、伝統的なおもてなしを受け継ぐホテルです。一方、ザ ベイスイートは、全室スイート、広い客室、英虞湾の眺望、スパ、現代的な内装デザイン、高水準のサービスを備えた新時代のラグジュアリー棟です。
つまり、ザ クラシックが「志摩観光ホテルの伝統を深める棟」だとすれば、ザ ベイスイートは「志摩観光ホテルを新しい時代へ進化させる棟」です。
歴史だけでは、ホテルは過去の名所になってしまいます。一方で、現代的な快適性だけでは、どこにでもある高級ホテルになってしまいます。志摩観光ホテルの面白さは、その両方を同じ敷地の中に持っていることです。
ザ ベイスイートの施設概要

ザ ベイスイートは、地上5階・地下1階建て、延床面積は10,800㎡。全50室の客室に加え、フランス料理レストラン、和食レストラン、バーラウンジ、ライブラリーラウンジ、スパ、屋上庭園などを備えています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 三重県志摩市阿児町賢島 |
| 開業日 | 2008年10月10日 |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造、地下1階・地上5階 |
| 延床面積 | 10,800㎡ |
| 客室数 | 50室 |
| 客室面積 | 約100㎡〜200㎡ |
| 建築設計 | 大林組本店一級建築士事務所 |
| 内装設計 | HBA(ハーシュ・ベドナー・アソシエイツ) |
| 主な施設 | ラ・メール、浜木綿、ル・ファー、ライブラリーラウンジ、スパ、屋上庭園など |
| 経営主体 | 近畿日本鉄道株式会社 |
| 運営会社 | 株式会社近鉄ホテルシステムズ |
内装設計には、世界の高級ホテルを多く手がけるHBA、ハーシュ・ベドナー・アソシエイツが起用されました。開業時には、バスアメニティにクラランスを採用し、スパ施設も「eau SPA by CLARINS」として展開されるなど、当時の国内リゾートホテルとしては意欲的な構成でした。
設計・施工面では、大林組本店一級建築士事務所が建築設計を担当。施工は大林組・奥村組・堀崎組共同企業体、内装は近創、プロジェクトマネジメントは日建設計、照明計画はワークテクト、厨房設計はNRTシステム、サインはZIPデザインが関わっています。
景観に溶け込む、低層ラグジュアリー

ベイスイートは、2009年度グッドデザイン賞を受賞しています。評価されたのは、単なる見た目の美しさではなく、国立公園内の景勝地に建つ観光施設として、ホテル利用者だけでなく、周辺エリアで景観を享受する人々にも配慮した計画です。
建物は英虞湾の景観に配慮し、できるだけ高さを抑え、躯体がラウンドする低層構成とされています。英虞湾のように、複雑に入り組んだ島々と海面が織りなす風景では、高層階から見下ろす眺望だけが正解ではありません。湾の風景に寄り添い、低い目線で静けさや奥行きを味わう。ベイスイートの建築は、景観を支配するのではなく、景観の中に身を置くための設計だと感じました。
志摩観光ホテル ザ ベイスイートは、伝統を現代化したリゾート

皇室や賓客を迎えてきた格式。海の幸フランス料理で築いた名声。G7伊勢志摩サミットの舞台となった国際性。SLH加盟とヒルトン提携によって開かれた新しい宿泊導線。そして、全室スイートという現代的なリゾート性。これらが重なっているからこそ、ザ ベイスイートは単なる高級ホテルではなく、日本のホテル史の中で一度は体験しておきたいリゾートになっています。
外資系ラグジュアリーホテルのような分かりやすい華やかさとは異なります。志摩観光ホテル ザ ベイスイートの魅力は、静けさ、余白、食、景色、歴史、そして伊勢志摩という土地の価値を、滞在全体で体験できることにあります。
次回以降は、チェックイン、館内の雰囲気、客室、ラウンジ、食事などを順番に紹介していきます。
出典元
・志摩観光ホテル公式サイト「クロニクル」・志摩観光ホテル公式サイト「館内見学ツアー」
・近畿日本鉄道ニュースリリース「志摩観光ホテル ベイスイート」と「志摩観光ホテル クラシック」
・近畿日本鉄道ニュースリリース「志摩観光ホテル ベイスイート」がグッドデザイン賞を受賞
・ヒルトン公式サイト「Shima Kanko Hotel The Bay Suites, a Member of Small Luxury Hotels of the World」
・ヒルトン公式サイト「SLH + Hilton Honors Terms and Conditions」
・Hilton Stories「Hilton Partners with Small Luxury Hotels of the World」
・伊勢志摩経済新聞「志摩観光ホテル ベイスイート」関連報道
・商店建築/建築プロジェクト資料「志摩観光ホテル ベイスイート」

