奈良県は2026年7月24日、リニューアル後の奈良県文化会館を運営・維持管理する事業者として、DMG森精機を代表企業とする「なら文化響創パートナーズ」を優先交渉権者に選定しました。
今回選ばれたのは、文化会館を改修する施工者ではありません。県が別事業として進める大規模改修の完成後、開業準備、貸館、自主公演、施設管理、飲食施設などを長期にわたって担う運営事業者です。
建て替えではなく、築約60年の会館を再生
奈良県文化会館は1968年に開館しました。今回の整備は新会館への全面的な建て替えではなく、既存建物を生かした耐震改修と大規模リニューアルです。
既存の国際ホールや建物の主要部分を改修する一方、約350席の音楽小ホールなどを新設します。正確には、既存施設の改修に一部増築を組み合わせる「再生型リニューアル」といえます。
国際ホールは現在の1,313席から約1,100席に縮小し、座席間隔や快適性、音響性能を向上させます。親子室、車いすスペース、ロビーテラス、バーカウンター、動画配信設備なども整備します。
新設する音楽小ホールは、室内楽などに適した約350席のシューボックス型です。館内には音楽練習室、練習スタジオ、楽屋ラウンジを設けるほか、中庭を屋内化したアトリウム、カフェ、キッズルーム、授乳室、エスカレーターなども整備します。
| 主な施設 | リニューアル内容 |
|---|---|
| 国際ホール | 既存ホールを改修。1,313席から約1,100席へ縮小し、快適性と音響性能を向上 |
| 音楽小ホール | 約350席のシューボックス型ホールを新設 |
| 練習施設 | 音楽練習室、練習スタジオ、楽屋ラウンジを整備 |
| アトリウム | 中庭を屋内化し、館内動線と交流の中心に |
| 来館者設備 | カフェ、キッズルーム、授乳室などを整備 |
| 建物全体 | 耐震化、設備更新、バリアフリー化を実施 |
DMG森精機グループが完成後の運営を担当
優先交渉権者の「なら文化響創パートナーズ」は、代表企業のDMG森精機、構成企業のシアターワークショップ、JTBコミュニケーションデザインで構成されます。協力企業としてピーエーシーウエストとイオンディライト、アドバイザー企業としてエナジーラボが参画します。
今後、グループが設立する特別目的会社(SPC)に、県が公共施設等運営権を設定します。SPCは指定管理者にも指定され、リニューアル後の会館で次の業務を担います。
- 内覧会やオープニングイベントを含む開業準備
- 貸館、利用者対応、広報、利用率向上
- 奈良県立ジュニアオーケストラの企画・運営
- 「ムジークフェストなら」の企画・運営
- Japan National Orchestra(JNO)との連携
- 建物、設備、舞台設備、備品、外構の保守管理
- 修繕、清掃、衛生管理、安全管理
- 駐車場、飲食施設の運営
- 自主公演、ネーミングライツなどの独立採算事業
県が文化会館という「ハード」を改修し、DMG森精機グループが完成後の運営・維持管理という「ソフト」を担う役割分担です。
3グループが競争、運営提案で大差
公募には3グループが参加しました。2,000点満点の審査で、なら文化響創パートナーズは1,068.54点を獲得。次点の784.50点に約284点の差をつけました。
| 審査項目 | 配点 | DMG森精機グループ | 次点 |
|---|---|---|---|
| 提案評価点 | 1,700 | 1,033.00 | 784.50 |
| うち運営業務 | 830 | 554.50 | 386.00 |
| 価格評価点 | 300 | 35.54 | 0.00 |
| 合計 | 2,000 | 1,068.54 | 784.50 |
特に差がついたのが、830点を占める運営業務です。選定を分けたのは価格だけではなく、ジュニアオーケストラ、ムジークフェストなら、JNO、観光、地域連携、貸館営業を組み合わせた運営構想でした。
貸館施設から「音楽文化の経営拠点」へ

奈良県は、リニューアル後の文化会館を「音楽系を軸とした多彩な舞台芸術の殿堂」と位置付けています。ホールを貸し出すだけでなく、公演の企画、音楽家の育成、県民参加、観光との連携、周辺地域への回遊まで生み出す拠点を目指します。
DMG森精機グループは、県立ジュニアオーケストラの育成機能を強化するとともに、ムジークフェストならを観光や街歩きと結び付ける方針です。JNOとの連携を担う音楽監督の配置、音楽家が創作に集中できる環境づくり、貸館営業の強化、開館時間の柔軟化、前庭やホワイエの活用なども提案しました。
開業時には、数日間の記念イベントだけでなく、年間を通じて催しを展開する「オープニングイヤー」を実施する計画です。DMG森精機によるネーミングライツの導入も提案されています。
県負担は15年間で最大52.9億円
県が負担する事業費の上限は、15年間で52億8,751万7,000円です。
事業者は県からの対価に加え、施設利用料、駐車場、飲食施設、自主公演、テナント、ネーミングライツなどから収入を得ます。したがって、52億8,751万7,000円は事業全体の売上規模ではなく、県が支払う金額の上限です。
PFI方式の導入により、県が直接運営する場合と比べ、財政負担を現在価値換算で約9.5%削減できると試算されています。
基本の運営期間は15年間です。運営状況を踏まえ、1回に限り最大15年間の延長を協議できるため、制度上は最長30年間の運営となる可能性があります。
課題は、収益を文化事業へ還元できるか
選定委員会は提案を評価する一方、実施契約までに詰めるべき課題も示しました。
一つは、代表企業のDMG森精機と、実際の劇場運営を担う構成企業が円滑に連携し、現場を重視した意思決定を行えるかです。また、提案に含まれる体験型空間についても、収益性やコンテンツを継続的に更新できるかが課題とされました。
さらに委員会は、SPC構成企業への配当額が大きいと指摘しています。過大な配当を避け、利益を文化会館へ再投資するとともに、将来の修繕や事業リスクに備えた内部留保を確保するよう求めました。
コンセッションの目的は、公共文化施設を民間企業の利益源に変えることではありません。貸館、自主公演、飲食、協賛、ネーミングライツなどで新たな収益を生み、それを施設、公演、人材育成へ循環させられるかが事業の核心になります。
リニューアルオープンは2027年度中を予定
奈良県は、2027年度中のリニューアルオープンを目指しています。一方、優先交渉権者の選定資料には、供用開始予定日を2028年4月1日とする記載もあります。正式な開業日は、今後締結される基本協定や実施契約、県の発表を確認する必要があります。
今回の計画は、新しい文化会館への建て替えではありません。築約60年の既存会館を耐震化し、国際ホールを改修するとともに、音楽小ホールや練習施設を加えて再生するプロジェクトです。
DMG森精機グループに託されるのは、その改修工事ではなく、完成後の会館を長期にわたって運営・維持管理し、施設の価値を引き出す仕事です。建物を再生するハード整備と、文化・観光・収益事業を動かすソフト運営。この二つを組み合わせ、奈良県文化会館を従来の貸館施設から持続可能な音楽文化拠点へ転換できるかが問われます。
出典
奈良県「奈良県文化会館運営事業に係る優先交渉権者の選定について」
奈良県「奈良県文化会館運営事業 審査報告」
奈良県「奈良県文化会館運営事業 優先交渉権者選定結果」
奈良県「奈良県文化会館の整備について」
日刊建設工業新聞「奈良県/文化会館コンセッション/DMG森精機グループに」



