2025年大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」について、大阪府と大阪市が南側の約350mを現状のまま10年間保存する案を新たに提示することが明らかになりました。これまで完全解体が前提とされていたリングに対して、「なぜ保存するのか?」「費用は妥当なのか?」といった疑問が噴出する中、今回の提案は理想と現実のバランスを取った“レガシー化の現実解”といえそうです。
万博の象徴建築「大屋根リング」はなぜ保存されるのか?
人工島・夢洲に建設された「大屋根リング」は、直径約600m、全長約2,000mに及ぶ巨大な木造建築物です。最大高さは約20m、幅約30m。世界最大級の木構造であり、万博の会場そのものを取り囲むランドマークとして設計されました。
当初は閉幕後にすべて解体され、更地として大阪市へ返還される予定でした。これは、跡地活用を進めるため、土地利用に制約を残さないという原則に基づいたものでした。
しかし、2025年4月の開幕以降、リングは来場者の間で一気に注目を集めます。特にリング上部を歩いて景色を眺められる「スカイウォーク体験」は、SNSで話題を呼び、観光資源としての価値が顕在化。単なる記念建築ではなく、「都市の体験型記憶装置」として保存を求める声が高まりました。
3つの保存案と、府市が提示した“現実解”
こうした動きを受け、大阪府・市、万博協会、国、経済界を交えて複数の保存案が検討されてきました。
保存案 | 保存区間 | 保存形態 | 想定費用 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
① 600m案 | 南側の約600m | 原形のまま | 約17億円/10年 | 登れる体験を維持、費用負担が大きく見送りの公算大 |
② 350m案 | 南側の約350m | 原形のまま | 約10億円前後と推定 | 新案。公費負担ゼロで現実的、6月3日会議で提案予定 |
③ モニュメント案 | 北東の約200m | 屋根なし記念構造物 | 民間負担を想定 | 現在の開発公募ベース。体験価値はほぼなし |
このうち、吉村洋文知事が提案していた600m案は、体験性・シンボル性の両面で理想的でしたが、国・経済界の費用負担への消極的姿勢により、現実的には困難と判断されました。
そこで、府と市が新たに打ち出したのが「350m案」です。これは、開発が遅れる南側のエリアを活用し、リングの原形を維持したまま、上部への登頂体験を可能とする保存方式です。周辺には野外イベントやドローンショーなどに対応できる多目的広場を整備し、レガシーと観光資源の両立を狙います。
費用は高い?むしろ“驚くほど安い”可能性

一部では「10年間で17億円もの維持費は高すぎる」といった声もありますが、実態はむしろ逆です。600m案の場合、年間費用は約1.7億円。保存対象は幅30m×600m=18,000㎡と広大で、1㎡あたり年間9,444円程度にすぎません。
さらに、仮に来場者が年間30万人訪れ、1人600円の収益を生めば年間収入は1.8億円。維持費を十分にカバーできる水準となります。今回の350m案なら維持面積は約10,500㎡と小さく、費用も抑えられるため、費用対効果の観点からも合理的な判断といえるでしょう。
また、今回の提案では公費は使わず、万博のチケット・協賛金などで生じた「余剰金」を財源とする方針であり、新たな税負担は発生しないとされています。
単なる保存ではなく、「都市の未来資産」へ
吉村知事は「今の形で残さなければ意味がない」と明言しています。これは単なる感情論ではなく、万博会期中の“空を歩いた記憶”を未来へ継承することの重要性を訴えるものであり、都市のレガシーとしての哲学が背景にあります。
夢洲は今後、統合型リゾート(IR)や国際観光拠点の整備が進みますが、その中で「大屋根リングの一部」が、都市と人々の時間をつなぐ装置として存在し続けることは、単なる記念碑以上の意味を持ちます。
大阪府と市は、6月3日に開催される万博協会・経済界・国との合同会議で350m保存案を正式に提示する予定です。その後、6月23日に予定される日本国際博覧会協会の理事会にて、最終決定が下される見通しです。
※出典:読売新聞、産経新聞、毎日新聞、NHK報道(いずれも2025年6月2日)など
しかも木造建築であれば伊勢神宮の式年遷宮のように繰り返し建て替える事により永遠の命を与える事も出来る。
そう考えると、一箇所だけではなく、離れた位置に二箇所を残し(南と北、あるいは西と東)、それぞれを10年〜20年毎に建て替えるのが良いのでは。
そうすれば「令和の伊勢神宮式建築、ここに爆誕」と相成り、大阪・関西万博のレガシーを永遠に遺せる事になる。
確かに羅城門跡、本能寺跡の石標を見ても全てが想像でしか思い浮かべないが、一部でも残れば
その大きさが感じ取れるし、歩いた人にとっても記憶が甦る。
IRの一部として取り込めないかなと思いますね。