CBER『ジャパンロジスティクスマーケットビュー2026年第2四半期』近畿圏の大型物流施設、空室率2.4%で4大都市圏最低 賃料は首都圏に迫る4,390円、西日本の「物流母艦」へ



近畿圏の大型物流施設市場が、2025年の大量供給を吸収し、再び需給の引き締まる局面に入っています。

CBREがまとめた2026年第2四半期の調査によると、近畿圏における大型マルチテナント型物流施設(LMT)の空室率は2.4%でした。前期から0.2ポイント上昇したものの、調査対象となる4大都市圏では最も低い水準です。

実質賃料は月額4,390円/坪まで上昇し、首都圏の4,600円/坪との差はわずか210円、約5%に縮まりました。近畿圏では中心部のまとまった空室がほぼなくなり、好立地・高スペック物件の希少性が一段と高まっています。

近畿圏は「最も空室が少なく、首都圏に次いで賃料が高い」


4大都市圏の大型物流施設市場

空室率順位 圏域 空室率 前期比 実質賃料 前期比 市場の状況
1 近畿圏 2.4% +0.2ポイント 4,390円/坪 +0.9% 低空室が続き、全域で賃料上昇
2 首都圏 7.8% ▲1.4ポイント 4,600円/坪 +1.5% 大型成約が進み、空室率が低下
3 福岡圏 11.4% +3.1ポイント 3,570円/坪 横ばい 新規供給の増加で空室率上昇
4 中部圏 15.9% ▲0.9ポイント 3,740円/坪 横ばい 既存物件の空室消化が進展
 

CBREの調査対象は、首都圏323棟、近畿圏107棟、中部圏62棟、福岡圏52棟です。首都圏と近畿圏は延床面積1万坪以上、中部圏と福岡圏は5,000坪以上の施設を対象としているため、比較条件が完全に同じではない点には注意が必要です。

また、近畿圏の賃料が首都圏平均に迫ったからといって、東京の中心部と同水準になったわけではありません。首都圏内でも東京ベイエリアは8,490円/坪、圏央道エリアは3,550円/坪と、立地によって大きな差があります。

注目すべきなのは、近畿圏の平均賃料が首都圏との差を約5%まで縮めたことです。その背景には、関西経済そのものが東京に追い付いたというより、西日本の物流を支える好立地・高機能な施設が不足していることがあります。

2025年の大量供給を吸収、今後1年の供給は約4分の1へ



近畿圏では2025年に38.9万坪の大型物流施設が供給されました。しかし、EC関連や物流企業を中心とする需要がその多くを吸収し、空室の消化が進みました。2026年第2四半期には3棟が竣工し、うち1棟は満床で稼働を開始しました。築浅物件でも空室が埋まったほか、長期間空室を抱えていた大阪府内の1棟も満床となっています。

大阪中心部では、まとまった空室を持つ物件がほぼなくなりました。2027年竣工予定の施設でも、完成前からテナントを確保するプレリーシングが本格化しています。
時期 供給・稼働状況
2025年 38.9万坪を新規供給
2026年Q2 3棟が竣工、うち1棟は満床
今後1年間 5棟・9.2万坪を供給予定
2027年竣工物件 プレリーシングが本格化
今後1年間の供給量は、2025年実績の約24%、およそ4分の1に縮小します。供給予定物件でもテナントの内定が進んでいるとみられ、CBREは空室率が引き続き低い水準で推移すると予測しています。

第2四半期の空室率は前期の2.2%から2.4%へ小幅に上昇しましたが、需要が弱まったというより、新築施設が市場に加わったことによる変動とみるのが自然です。

なぜ近畿圏の賃料は首都圏に迫ったのか



近畿圏の賃料上昇は、短期的な供給不足だけでは説明できません。

関西は大規模な地域内市場を持つ一方、東西物流の結節点であり、西日本の貨物を集約・再配分する広域拠点でもあります。首都圏とは異なる役割を担っているため、東京への一極集中が進んでも、関西の物流需要が失われにくい構造があります。
関西の構造的な強み 物流施設に生まれる価値
京阪神の人口・産業集積 関西圏内の消費と生産だけで大規模な需要が成立
西日本の広域拠点 中国・四国・北陸・九州方面への在庫と幹線輸送を集約
東西物流の結節点 首都圏・中部と西日本を結ぶ貨物を中継・仕分け
道路・港湾・空港の集積 陸上・海上・航空輸送を組み合わせやすい
ドライバー不足への対応 配送距離や拘束時間を短縮し、中継輸送を組みやすい
高機能施設の不足 都市近接・大区画・自動化対応物件の希少性が上昇

関西圏内の需要だけでも独立した市場が成立する

物流需要は、本社機能とは性格が異なります。

企業の本社や管理部門は東京へ集約できますが、食品、日用品、医薬品、工業部品、EC商品などは、消費者、店舗、病院、工場が存在する地域へ実際に運ばなければなりません。

大阪、兵庫、京都を中心とする近畿圏には、大規模な消費市場に加え、製造業、卸売業、食品、医薬品など多様な産業が集積しています。企業の本社が東京にあっても、関西圏への配送を首都圏の倉庫だけで担うのは非効率です。

このため、近畿圏の物流施設は東京を補完するだけの市場ではなく、地域内の需要だけでも成立する独立した市場となっています。

単なる「中間地点」ではなく、西日本の貨物を組み替える拠点

関西の強みは、東京と福岡の中間付近に位置することだけではありません。

東西を結ぶ幹線輸送と、中国、四国、北陸方面への物流網が交わり、地域内にも大量の貨物が存在します。首都圏や中部から届いた荷物を一時保管し、行き先別に仕分け、西日本各地へ送り出す機能を構築できる点に本質的な強みがあります。
近畿圏が担う機能 主な役割
京阪神向け配送拠点 店舗、企業、消費者への都市圏配送
西日本の母艦拠点 在庫を集約し、各地域の配送拠点へ供給
東西輸送の中継拠点 ドライバー、車両、荷台、貨物を引き継ぐ
輸出入物流拠点 阪神港・関西空港の貨物を保管・加工
製造業向け拠点 工場へ部品、資材、原材料を供給
BCP拠点 首都圏拠点の停止時に物流を補完
もっとも、関西が西日本全域の最終配送を一手に担うわけではありません。実際には、関西を在庫と広域輸送の「母艦」とし、岡山、広島、福岡などの地域拠点へ幹線輸送する形が合理的です。

関西と各地方の物流拠点は競合するのではなく、物流網のなかで異なる役割を分担します。

東京と近畿は競合よりも「東西を分担する関係」

オフィス市場では、本社を東京と大阪のどちらに置くかという競争が生じます。一方、物流施設は「東京か大阪か」という二者択一になりにくい市場です。
項目 オフィス・本社機能 物流施設
集約の効果 意思決定や人材を1カ所に集めやすい 過度に集約すると配送距離が伸びる
主な制約 賃料、人材、取引先との距離 輸送時間、燃料費、ドライバー拘束時間
全国展開の形 東京への集中が可能 東日本・西日本への複数拠点配置が必要
災害対応 本社機能の代替拠点を確保 在庫と配送網を地域分散する必要がある
首都圏から西日本全域へ直接配送すれば、走行距離だけでなく、燃料費、ドライバーの拘束時間、交通障害による遅延リスクも増加します。

全国規模で事業を展開する企業ほど、首都圏と近畿圏に基幹拠点を配置し、東日本と西日本を分担する方が効率的です。物流施設市場における東京と関西は、需要を奪い合う関係というより、全国物流を支える補完関係にあります。

物流を東京へ一極集中させにくいこと自体が、近畿圏の需要を支える構造的な強みです。

高い賃料でも「総物流コスト」が下がれば採算が合う

物流企業や荷主が重視するのは、倉庫の賃料だけではありません。

都市部に近い施設は賃料が高くても、配送距離を短縮し、トラック1台が1日に担当できる便数を増やせます。各階接車、ダブルランプウェイ、大区画、自動化設備、非常用電源などを備えた施設では、荷役時間、人件費、在庫量、拠点数を減らせる可能性があります。
高スペック施設の機能 テナント側の効果
都市・消費地への近さ 配送距離と所要時間を短縮
高速道路への接続 広域配送を効率化
ダブルランプウェイ 上下車両の動線を分離し、荷役を高速化
各階接車・大区画 拠点統合と大量処理に対応
自動化設備への対応 人手不足を補い、作業を省力化
非常用電源・免震性能 災害時の事業継続性を向上
空調・休憩施設 従業員の採用と定着を支援
近畿圏では全域で賃料が上昇し、特に中心部に立地するダブルランプウェイ付きの高スペック物件が上昇を牽引しています。

賃料が高くても、輸送費や人件費を含めた総物流コストを引き下げられれば、テナントにとっては十分に採算が合います。こうした判断が都市近接型・高機能施設への需要を強め、近畿圏の平均賃料を首都圏に近い水準まで押し上げています。

近畿圏の成長は続くのか



近畿圏の物流施設市場は、中期的にも成長する可能性が高いと考えられます。

地域内に大規模な消費・生産市場があり、西日本の広域物流を束ねられることに加え、ドライバー不足、拠点集約、自動化、BCPへの対応が、新しい物流施設への移転を促すためです。

当面は新規供給も大きく減少するため、好立地・高スペック物件を中心に、低い空室率と賃料上昇が続く可能性があります。

ただし、近畿圏のすべての物件が一様に伸びるわけではありません。
追い風 注意点
今後1年間の供給量が大幅に減少 供給が再び急増すれば需給は緩む
京阪神の大規模な消費・生産需要 景気や荷動きの影響は避けられない
西日本の広域物流拠点としての役割 西日本全域を関西だけではカバーできない
中継輸送・共同配送の拡大 岡山、広島、福岡などとの役割分担が必要
自動化・拠点統合需要 旧式施設は競争力を失う可能性がある
高速道路・港湾・空港の集積 交通渋滞や周辺労働力の確保が課題
都市近接物件の希少性 郊外や交通利便性の低い物件は選別される
今後も需要を集めやすいのは、大阪都市圏や高速道路、港湾に近く、大区画、各階接車、自動化、BCPに対応できる施設です。

一方、消費地やインターチェンジから遠く、設備更新が進んでいない物件は、同じ近畿圏内でも需要を取り込みにくくなる可能性があります。市場全体が成長する一方で、立地や設備による物件選別はさらに強まるとみられます。

近畿は東京の代替ではなく、全国物流を支える第2の基幹ハブ

近畿圏の実質賃料が首都圏平均に迫ったのは、一時的な供給不足だけが理由ではありません。

関西には、巨大な地域内市場、西日本の広域配送拠点、東西物流の中継拠点、阪神港・関西空港を起点とする輸出入拠点という複数の役割があります。物流を首都圏へ一極集中させると、距離、輸送時間、ドライバー不足、災害対応の面で非効率になるため、近畿圏には東京とは別の需要が生まれます。

近畿圏は、東京から物流機能を奪うことで成長する市場ではありません。東京一極集中では成立しない全国物流を、西日本側から支える第2の基幹ハブです。

今後1年間の供給量が2025年の約4分の1に減少するなか、中心部の高スペック施設では、完成前からテナントを確保する動きが一段と強まりそうです。低空室と賃料上昇が続く一方、立地や設備による物件選別も、これまで以上に鮮明になると考えられます。




出典

CBRE「ジャパンロジスティクス マーケットビュー 2026年第2四半期」

Visited 625 times, 625 visit(s) today