コクヨ旧本社跡をOsaka Metroが約50億円で取得 新深江駅前で住宅・商業開発、沿線価値の向上へ布石


出典:コクヨ

大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)が、大阪市東成区にあるコクヨ旧大阪本社跡を約50億円で取得することが分かりました。Osaka Metro千日前線・新深江駅の出入口に隣接する約5,333㎡の敷地で、食品スーパーなどを併設したマンションを開発する計画です。

取得額は50億1,000万円。売買契約は2026年9月末、物件の引き渡しは2027年9月末を予定しています。建物の規模や住宅戸数、店舗の運営事業者、着工・完成時期は明らかになっていません。

今回の取得は、万博輸送やインバウンド需要を追い風に業績を伸ばしたOsaka Metroが、交通事業への依存度を下げ、都市開発を都心部から沿線の生活圏へ広げる動きとして注目されます。

新深江駅前の約5,300㎡を住宅・商業拠点へ


出典:Google MAP


項目 内容
所在地 大阪市東成区大今里南6丁目
最寄り駅 Osaka Metro千日前線「新深江駅」
立地 駅出入口に隣接
敷地面積 約5,333㎡
取得額 50億1,000万円
売買契約 2026年9月末予定
引き渡し 2027年9月末予定
開発用途 マンション、食品スーパーなど
未公表 建物規模、戸数、店舗事業者、着工・完成時期
コクヨは1936年に大阪市東成区へ本社を移し、1969年に現在の本館を完成させました。本館は、自社のオフィス家具や働き方を顧客に紹介するライブオフィスとして活用され、「第4工場」と位置付けられた同社の象徴的な施設です。

その後、コクヨは本社機能をグラングリーン大阪へ移転しました。約90年にわたって企業活動を支えた本拠地は、住宅と商業施設を組み合わせた地域の生活拠点へ姿を変えることになります。

万博特需の先を見据え、都市開発を拡大



Osaka Metroの2025年度業績は、訪日客の増加と大阪・関西万博の輸送需要を背景に好調でした。営業収益は2,333億円、営業利益は528億円となり、民営化後の最高水準を記録しています。

一方、万博需要が剝落する2026年度は、営業収益2,130億円、営業利益400億円への減少を見込んでいます。2025年度は交通事業がグループの売上高、営業利益ともに約9割を占めており、収益構造は依然として鉄道・バスの利用動向に大きく左右されます。

足元の好業績は、都市開発へ投資する余力をもたらしました。しかし、中長期的には人口減少や生産年齢人口の縮小、働き方の変化により、通勤・通学を中心とした交通需要が伸び続けるとは限りません。好調な今のうちに、運賃収入以外の収益基盤を育てる必要があります。

住宅開発から超高層ビル取得まで、ノウハウを段階的に蓄積



Osaka Metroは、他のデベロッパーや鉄道会社と連携しながら、住宅、オフィス、商業施設へ都市開発の領域を広げてきました。
開発分野 主な取り組み 蓄積する機能
賃貸住宅 「Metrosa」シリーズ 長期保有、賃貸管理、安定収益
分譲マンション メトライズ森ノ宮中央 商品企画、販売、資金回収
タワーマンション メトライズタワー大阪上本町 共同開発、住宅・商業の複合化
オフィス・商業 Osaka Metroなんばビル テナント誘致、施設運営
大型既存物件の取得 Osaka Metro本町ビル 大規模収益物件の取得、賃貸経営
大規模複合開発 難波千日前地点 ホテル、オフィス、商業の一体開発
これまでの主要案件は、なんば、本町、森之宮など、御堂筋線や中央線沿線の都心部が中心でした。自社保有地の活用に加え、共同開発や既存オフィスビルの取得にも踏み込み、用地取得から企画、建設、販売、賃貸運営まで、デベロッパーとして必要な機能を段階的に蓄積しています。

今回の新深江駅前開発は、そうした取り組みを千日前線沿線の生活圏へ広げる案件です。

コクヨ旧本社跡が持つ四つの意味


観点 今回の案件が持つ意味
外部用地の取得 自社保有地の有効活用から、立地と採算性を見極めて土地を取得する開発へ進化
開発エリアの拡大 御堂筋線・中央線沿線の都心部から、千日前線沿線の生活圏へ展開
住宅・商業の複合化 住宅収益、店舗賃料、交通需要を組み合わせた事業モデルを構築
他駅への横展開 駅前用地を取得し、居住・商業・交通を一体化する開発手法を蓄積
特に注目されるのは、約50億円を投じて外部から用地を取得する点です。交通局時代から引き継いだ遊休地を開発する「保有地活用型」から、自ら土地を選び、用途や事業採算を組み立てる「デベロッパー型」へ、都市開発事業を一段深める動きといえます。

また、新深江は都心の大規模ターミナルではありません。だからこそ、駅出入口に隣接する5,000㎡超の敷地に住宅と食品スーパーを整備する意味があります。マンションによって定住人口を呼び込み、スーパーによって周辺住民の日常的な来訪を生み出せれば、駅前の利便性と地下鉄の利用機会を同時に高められます。

不動産収益だけでなく、鉄道需要そのものをつくる

今回の開発では、複数の収益と効果が期待されます。
収益・効果 内容
住宅収益 マンションの販売益、または賃貸収入
商業収益 食品スーパーなどからの店舗賃料
交通収益 居住者や来店客による地下鉄利用
沿線価値 駅前利便性の向上と地域評価の底上げ
開発能力 用地取得から施設運営までのノウハウ蓄積
Osaka Metroが進める都市開発は、鉄道と無関係な多角化ではありません。駅と路線網を基盤に住宅、オフィス、商業施設を配置し、不動産収益を確保しながら、新たな交通需要も生み出す取り組みです。

従来の鉄道会社は、沿線人口や通勤需要を前提に「乗客を運ぶ」ことで収益を得てきました。これに対し、今後は駅前に住む人、働く人、買い物に訪れる人を自ら増やし、需要そのものをつくる経営が求められます。

新深江で住宅・商業・交通を結ぶ事業モデルを確立できれば、同様の手法を他の地下鉄駅前へ展開できる可能性があります。今回の案件は、単体の開発利益以上に、沿線開発の再現可能なモデルを構築できるかが焦点となります。

万博特需を、将来の収益資産へ変えられるか



もちろん、今回の取得だけで、Osaka Metroの交通事業への依存が解消されるわけではありません。都市開発事業の規模は、鉄道・バス事業に比べればなお小さいのが実情です。

さらに、建設費や金利が上昇するなか、土地を取得してマンションを販売するだけでは、安定した収益基盤にはなりません。住宅を分譲するのか、賃貸として保有するのか。商業部分を継続保有するのか。駅出入口との動線やスーパーの集客力をどう設計するのか。完成後の運営方針が事業価値を大きく左右します。

それでも、コクヨ旧本社跡の取得は、万博輸送やインバウンド需要によって得た投資余力を、一過性の利益で終わらせず、中長期的な収益資産と沿線価値へ転換する案件です。

「乗客を運ぶ会社」から、「人が住み、働き、移動する都市環境をつくる会社」へ。新深江駅前の再開発は、Osaka Metroの都市開発戦略を、都心の大型プロジェクトから日常の生活圏へ広げる重要な一歩になりそうです。




出典・参考資料

  • 日本経済新聞「コクヨ旧本社跡、大阪メトロがマンションに 都市開発を拡大」(2026年8月5日)
  • コクヨ株式会社「固定資産の譲渡及び特別利益の計上に関するお知らせ」(2026年7月1日)
  • コクヨ株式会社「本社移転に関する発表」
  • コクヨ株式会社「コクヨの歴史・大阪本社と『第4工場』」
  • Osaka Metro Group「2025年度決算・2026年度事業計画」(2026年5月14日)
  • Osaka Metro Group「2025年度事業計画」
  • Osaka Metro Group「株主総会資料・都市開発事業に関する説明資料」
  • Osaka Metro各公式発表「Metrosa」「メトライズ森ノ宮中央」「メトライズタワー大阪上本町」「Osaka Metroなんばビル」「Osaka Metro本町ビル」「難波千日前地点再開発」

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