
大阪府と大阪市がとりまとめた「大阪都市魅力創造戦略2030」は、単なる観光振興計画ではありません。
その本質は、万博後の大阪を、観光・文化・エンターテインメント・MICE・IR・スポーツ・国際交流を束ねた “世界で稼ぐ都市” へ押し上げるための都市経営戦略です。
2030年度までに、世界の観光都市ランキングでトップ10入りを目指す。来阪インバウンドを、2025年の1,760万人から2030年度には2,300万人へ増やす。外国人延べ宿泊者数を3,000万人泊に伸ばし、外国人消費単価を16.0万円まで引き上げる。
目標は非常に明快です。
大阪府・市が見ているのは、国内の都市間競争だけではありません。パリ、ロンドン、ニューヨーク、ドバイ、シンガポール、バンコク、ソウル、香港といった世界都市が相手です。
首都ではない大阪が、世界観光都市のトップ10を狙う。しかも、それが単なる夢物語ではなく、現実的な射程に入っている。勝てる領域でまず勝ち抜く。ここに今回の戦略の明快さがあります。
観光客数ではなく、「都市の稼ぎ方」を変える

今回の戦略で注目すべきは、観光客の数だけを追っていないことです。
観光を入口にして、宿泊を増やす。消費単価を高める。MICEを呼び込む。世界水準のエンターテインメント公演を誘致する。夢洲IRを国際観光拠点に育てる。そして、その効果を大阪市内だけでなく、府域全体へ広げていく。
つまり大阪府・市は、観光を「人が来る産業」としてではなく、都市全体で稼ぐ仕組みとして捉えています。
2030年に向けた主な数値目標は、次の通りです。
| 指標 | 2030年目標 | 参考値・直近値 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 来阪外国人旅行者数 | 2,300万人 | 2025年 1,760万人 | インバウンドをさらに拡大 |
| 外国人延べ宿泊者数 | 3,000万人泊 | 2024年 2,539万人泊 | 通過型から滞在型へ |
| 外国人消費単価 | 16.0万円 | 2024年 9.2万円 | 人数だけでなく消費額を重視 |
| 日本人延べ宿泊者数 | 3,700万人泊 | 2024年 3,204万人泊 | 国内観光需要も取り込む |
| 日本人消費単価 | 5.2万円 | 2024年 3.0万円 | 国内客の高付加価値化 |
| 世界の観光都市ランキング | トップ10入り | 2025年 11位 | 世界都市間競争で上位を狙う |
| 世界の都市総合力ランキング・文化交流分野 | トップ10入り | 2025年 13位 | 文化・交流面の都市力を高める |
2025年に1,760万人だった来阪インバウンドを、2030年度には2,300万人へ増やす。単純計算で約540万人、約31%の上積みです。
ただし、今回の戦略は「もっと多く来てもらう」だけではありません。どれだけ長く滞在してもらうか。どれだけ消費してもらうか。その効果をどこまで地域に広げられるか。
大阪都市魅力創造戦略2030は、観光客数の拡大計画ではなく、万博後の大阪の稼ぎ方を再設計する戦略です。
めざす姿は「国際エンターテインメント都市OSAKA」

同戦略では、めざす姿として「国際エンターテインメント都市OSAKA」を掲げています。
ここでいうエンターテインメントは、ライブや劇場、テーマパークだけを意味しているわけではありません。大阪の食文化、まちなかの賑わい、水辺空間、文化芸術、スポーツイベント、MICE、府域の地域資源まで含めた、都市全体の体験価値を指しています。
戦略のキーワードを整理すると、次のようになります。
| キーワード | 内容 |
|---|---|
| 国際エンターテインメント都市OSAKA | 食、文化、芸術、スポーツ、MICE、国際交流を含む都市全体の体験価値を高める |
| 大阪全体で万博会場のような非日常体験 | 夢洲だけでなく、都心部、水辺、府域各地へ非日常の体験を広げる |
| 持続可能な観光 | 観光客と地域住民の双方に配慮し、安全・安心・快適な観光都市をつくる |
| 府内周遊 | 大阪市内への集中を緩和し、府域全体へ観光消費と人流を広げる |
| 世界第一級の観光都市 | 世界の観光都市ランキングでトップ10入りを目指す |
万博会場では、世界各国のパビリオン、食、文化、テクノロジー、夜間演出、イベントが集積し、来場者に非日常の体験を提供しました。大阪府・市は、その体験価値を夢洲だけで終わらせず、大阪全体へ広げようとしています。
梅田、難波、中之島、大阪城、天王寺、ベイエリア、堺、泉州、北摂。大阪の各エリアを、単なる観光スポットの集合ではなく、一つの巨大な体験空間として編集する構想です。
観光・文化・MICE・国際交流を一体で束ねる

2030戦略では、「国際エンターテインメント都市OSAKA」の実現に向けて、6つのテーマを設定しています。
| No. | テーマ | 目指す都市像 |
|---|---|---|
| 1 | 誰もが訪れたくなる世界第一級の観光都市 | 食、歴史、文化・芸術、スポーツなど大阪の強みに磨きをかけ、世界に通じる魅力を高める |
| 2 | 文化力を活用した世界に誇れる魅力あふれる都市 | 文化芸術を通じて、世界中から人々が集い交流する都市を目指す |
| 3 | スポーツによる活力あふれる都市 | 国際的なスポーツイベントやスポーツツーリズムを通じて都市の活力を高める |
| 4 | アジア・オセアニアでトップクラスのMICE都市 | 万博開催都市としての実績やIRのインパクトを生かし、世界水準のMICE都市を目指す |
| 5 | 国際交流を通じて持続的に成長する都市 | 海外ネットワークやグローバル人材の活躍を通じて新しい価値を生む |
| 6 | さらなる誘客を図る安心して楽しめる快適な都市 | 来阪者も地域住民も、安全・安心・快適に過ごせる持続可能な都市を目指す |
観光を入口にしながら、文化、スポーツ、MICE、国際交流、人材、受入環境までを束ねる。大阪の都市魅力を「見せる」「来てもらう」「泊まってもらう」「消費してもらう」「交流してもらう」「また来てもらう」という流れに組み替える戦略です。
いわば、観光を起点にした都市全体の営業戦略です。
夢洲IRとMICEを成長装置にする

今回の戦略の大きな軸になるのが夢洲です。
夢洲では、大阪・関西万博の跡地開発が進み、2030年秋にはIRの開業が予定されています。同戦略でも、IRや万博レガシーの発信拠点を核に、夢洲で国際観光拠点を形成する方針が示されています。
ただし、夢洲だけで完結させるわけではありません。
IRは強力な集客装置になりますが、夢洲に人を集めるだけでは、都市全体の成長にはつながりません。梅田、難波、心斎橋、中之島、大阪城、天王寺、築港・ベイエリアなどへ回遊させ、宿泊、飲食、買い物、文化体験、交通利用へ波及させる必要があります。

もう一つの柱がMICEです。
大阪は「アジア・オセアニアでトップクラスのMICE都市」を目指しています。国際会議開催件数は、ICCA基準で2022年の9件から、2023年は21件、2024年は31件へ増加しました。
IRには、国際会議場や展示場、エンターテインメント施設が一体的に組み込まれる予定です。これが本格稼働すれば、観光、ビジネス、エンターテインメントを連動させる大きな武器になります。
たとえば、国際会議で大阪を訪れた参加者が、都心に宿泊し、夜は食やエンターテインメントを楽しみ、翌日は大阪府内や関西各地へ足を延ばす。こうした流れをつくれれば、MICEは単なる会議誘致ではなく、都市全体に消費を生む装置になります。
大阪が目指しているのは、観光客だけを集める都市ではありません。国際会議参加者、ビジネス客、アーティスト、スポーツ観戦者、文化芸術関係者、留学生、高度外国人材まで引き寄せる、多層的な交流都市です。
課題は府内周遊と持続可能な観光

もちろん、課題もあります。
大阪には多くの観光客が訪れていますが、訪問先は大阪市内に集中しており、大阪市外への訪問率は低い状況です。人気スポットへの人流集中も指摘されています。
これは大阪観光の弱点であると同時に、伸びしろでもあります。
大阪には、百舌鳥・古市古墳群、万博記念公園、北摂の自然、泉州の海、河内の歴史資源、府内各地の農林水産物、ものづくり、商工業、インフラ景観など、多様な地域資源があります。これらを観光商品として磨き、広域周遊コースとして発信できれば、観光消費を大阪市内だけでなく府域全体へ広げることができます。
同時に、「持続可能な観光」も避けて通れません。
インバウンドが増えれば、混雑、交通、宿泊価格、地域住民の生活環境、マナー、環境負荷、人材不足などの課題も大きくなります。観光客が増えればそれだけで成功、という時代ではありません。
大阪が目指すべきは、単に人が多い観光都市ではなく、来阪者、地域住民、働く人のいずれにとっても快適で、府域全体に経済効果が広がる観光都市です。
大阪市内への集中をやわらげ、観光消費を府域全体へ広げながら、都市の快適性を保つ。ここが、2030戦略の実行段階で問われるポイントになります。
首都ではない大阪が、世界観光都市のトップ10を狙う

今回の戦略で最も象徴的なのは、「世界の観光都市ランキングでトップ10入り」という目標です。
これは、国内都市の中で上位を目指すという話ではありません。大阪が見ている相手は、世界の観光都市です。
サッカーでいえば、国内リーグではなく、ワールドカップ本大会です。首都ではない大阪が、世界観光都市のベスト10入りを目指す。しかも、それが現実的な目標として掲げられているところに、この戦略の痛快さがあります。
大阪には、食、商業、都心回遊、ウォーターフロント、テーマパーク、劇場文化、スポーツ、MICE、関西国際空港、そして夢洲IRという素材があります。
あとは、それらを個別の観光資源として終わらせず、都市全体の体験価値として編集できるかです。
大阪都市魅力創造戦略2030は、万博後の大阪を一過性のイベント都市で終わらせず、世界から継続的に人・消費・投資を呼び込む都市へ押し上げるための成長戦略です。
観光戦略というより、大阪の都市経営戦略です。
首都ではない大阪が、世界観光都市のワールドカップでトップ10入りを狙う。今回の数値目標は、単なる行政計画ではなく、挑戦的で、なおかつ現実味のある都市経営の宣言に見えてきます。
出典元
- 大阪府・大阪市「大阪都市魅力創造戦略2030」
- 大阪府市都市魅力戦略推進会議資料「大阪都市魅力創造戦略2030の策定について」
- 日本経済新聞「大阪府・市、世界の観光都市トップ10入りへ 2030年戦略で明記」2026年6月29日
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」
- 観光庁「インバウンド消費動向調査」
- 観光庁「旅行・観光消費動向調査」
- 森記念財団都市戦略研究所「Global Power City Index」
- Euromonitor International「Top 100 City Destinations Index」
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