ハイアット ホテルズ コーポレーションは2026年6月29日、ラグジュアリーブランド「Alila(アリラ)」を日本で初めて導入すると発表しました。開業地は神奈川県箱根町の仙石原。ホテル名は「アリラ 仙石原 箱根」で、2028年の開業を予定しています。
事業主は株式会社フジタです。フジタとハイアットの関連会社が締結した契約に基づき、ハイアットが運営します。所在地は神奈川県足柄下郡箱根町仙石原字六兵衛1246番1138他。箱根湯本駅から車で約25分の場所です。
客室数は全60室。このうち11室がスイートとなる予定で、全客室に天然温泉の浴室を備えます。施設内には温泉・スパ、レストラン・バー、ミーティング・イベントスペース、ヨガデッキなどを設ける計画です。
日本初のアリラは、箱根・仙石原の自然、温泉、景観、文化を、国際水準のラグジュアリーリゾートとして再構成するプロジェクトになります。
Alilaとは何者か?

出展:アリラ珠海東澳島
アリラは、ハイアットのラグジュアリー・ポートフォリオに属するブランド。ブランド名はサンスクリット語の「驚き」に由来します。自然環境、地域文化、持続可能性、コミュニティとの共生を重視し、その土地でしか得られない体験を滞在価値に変えるブランドです。
分かりやすく言えば、アリラは「豪華なホテルに泊まる」ことだけを目的にしたブランドではありません。自然や文化に深く入り込み、心身を整え、その土地との接点を記憶に残すブランドです。
アマンほど孤高ではなく、リッツ・カールトンほど格式張らず、シックスセンシズほどウェルネス一本槍でもありません。自然と文化に寄り添いながら、静かに高単価を取るハイアットの体験型ラグジュアリーブランド、と見ると理解しやすいでしょう。
アリラでは、文化や環境と一体になる唯一無二の瞬間を「アリラ モーメント」と呼びます。食、スパ、自然体験、地域文化、建築、景観。それらを束ね、旅の後も心に残る滞在をつくる考え方です。持続可能性もブランドの核にあります。1年以上運営しているアリラの全ホテルは、持続可能な旅行・観光に関する国際認証「アースチェック認証」を取得しています。
仙石原の自然に溶け込むホテル
「アリラ 仙石原 箱根」のコンセプトは、富士箱根伊豆国立公園の仙石原で地域と共生する「自然との融合・自然の恵みに感謝する」です。
設計陣も強力です。建築デザイン監修は隈研吾建築都市設計事務所、インテリアデザインはSIMPLICITY、ランドスケープデザインはプレイスメディアが担当します。建築、内装、庭園の各分野で、日本を代表するチームがそろいました。
敷地は、外輪山の連なりと金時山の稜線に囲まれた場所にあります。建物は約8メートルの高低差を持つ傾斜地に沿って配置され、高低2つのボリュームに分けられます。さらに平面的にもずらすことで、大きな建築の圧迫感を抑え、森や山並みに馴染ませる計画です。
エントランスには、箱根の山並みに呼応する曲線状の格子を重ねます。そこからこぼれる光は、森を歩くときの木漏れ日のような表情をつくるとされています。
インテリアを担うSIMPLICITYは、仙石原が火山活動によって形成されたカルデラの中にあり、かつて湖から湿原へ姿を変えてきた土地であることに着目しています。デザインコンセプトは「土の彫刻」。外輪山の稜線や地層の断面を思わせる空間構成によって、土地の記憶と自然の循環を現代的に表現します。
全客室に天然温泉、スパは西洋文化と融合
客室数は60室です。大規模リゾートではなく、限られた客室数で一室あたりの体験価値を高める小規模ラグジュアリーです。
注目すべきは、全客室に天然温泉の浴室を備える点です。箱根の高級リゾートとして、これは大きな意味を持ちます。温泉地でありながら、国際ホテルブランドの基準でプライベートな滞在を成立させるには、客室内で温泉を楽しめることが強い価値になります。
スパエリアでは、日本の温泉と西洋のスパ文化を融合します。露天風呂に加え、アロマを使用したスチームバス、水着着用で男女共に利用できるサーマルプールを設ける予定です。アリラの核となるスパトリートメントも提供されます。
仙石原のススキ、四季の草花、金時山の借景、天然温泉、スパ、地産地消の食。これらを組み合わせ、アリラらしい「自然と文化に沈み込む滞在」をつくります。
ターゲットは「静かな高単価」を求める富裕層

出展:アリラ珠海東澳島
Alilaが狙うのは、ブランドロゴの分かりやすさよりも、滞在の質や土地の物語を重視する旅行者です。主なターゲットは、欧米・アジアの高所得インバウンド、都市部の富裕層カップル、ウェルネス志向の旅行者、ハイアット上級会員、そして既にリッツ・カールトン、アマン、シックスセンシズ、LXRなどを比較対象にしているホテル上級者層と見られます。
「温泉に入って、食事をして、観光して帰る」だけではなく、森の中で時間を整え、地域文化に触れ、食やスパ、アクティビティを含めて滞在そのものを目的化する。Alilaは、そうした需要を取りにいくブランドです。
ライバルはリッツ、LXR、シックスセンシズ

出展:「LXRホテルズ&リゾーツ」
Alilaの競合を単純に「高級ホテル」とくくると、少し見えにくくなります。比較すべきは、マリオット、ヒルトン、IHGの中でも、土地性や体験価値に寄せたラグジュアリーブランドです。| グループ | 近い競合ブランド | Alilaとの違い |
|---|---|---|
| マリオット | Ritz-Carlton Reserve | より超富裕層向け。隠れ家感、格式、排他性が強い |
| マリオット | The Luxury Collection | 歴史ある名門ホテルや土地性の強いホテルのコレクション型ブランド |
| ヒルトン | LXR Hotels & Resorts | 独立性の高い高級ホテルを束ねるブランド。土地の物語や個性を重視 |
| IHG | Six Senses | ウェルネス、サステナビリティ、自然との一体感がより前面に出る |
| IHG | Regent | 王道ラグジュアリー寄り。Alilaより格式とサービス演出が強い |
箱根に入る場合、LXR箱根強羅とはかなり分かりやすい競合関係になります。
なぜ箱根なのか?
箱根は、日本を代表する温泉観光地でありながら、東京圏からの近さという圧倒的な強みを持っています。都心から短時間で移動でき、温泉、森、山岳景観、美術館、芦ノ湖、富士山眺望、別荘文化がそろう。インバウンド富裕層にとっても、「東京から行きやすい日本的リゾート」として売りやすい立地です。箱根町の令和7年入込観光客数は2,112.2万人。内訳は宿泊客414.8万人、日帰り客1,697.4万人です。観光客数は大きい一方で、日帰り客の比率が非常に高い。ここに、ラグジュアリーホテルが狙う余地があります。
つまり、箱根はすでに巨大な観光地ですが、まだ「高単価な滞在型リゾート」として伸ばせる余地が残っています。外資ラグジュアリーが見ているのは、まさにこの部分です。
2026〜2028年、箱根ラグジュアリー競争が動く

出展:HOTEL THE MITSUI HAKONE
Alilaの進出報道が面白いのは、単独のニュースではなく、箱根で高級ホテル計画が一気に重なってきている点です。まず、三井不動産グループは「HOTEL THE MITSUI HAKONE」を2026年に開業する予定です。箱根・小涌谷の約4万坪の森に囲まれた敷地に、126室のラグジュアリーホテルを計画。全客室とサーマルスプリングに天然温泉を引き込む構想で、マリオット・インターナショナルの「ラグジュアリーコレクション」とも提携します。
ヒルトンは、LXR Hotels & Resortsを箱根・強羅に2028年夏開業予定です。ヒルトンにとって箱根初進出で、自然、温泉文化、ローカル体験を前面に出したラグジュアリーリゾートとなる見込みです。
さらにハイアットは、Kirakuと共同で温泉旅館ブランド「吾汝 ATONA」も展開します。由布、箱根、屋久島などが計画地に含まれており、各施設は30〜50室規模、天然温泉、割烹、バー、ウェルネス体験などを備える構想です。
ここにAlilaが加わるなら、箱根は2026〜2028年にかけて、国内外のラグジュアリーブランドが真正面から競う市場になります。
ハイアットは箱根をどう見ているのか

出展:ハイアット リージェンシー 箱根 リゾート&スパ
ハイアットはすでに、強羅で「ハイアット リージェンシー 箱根 リゾート&スパ」を展開しています。全80室、56〜93㎡のゆとりある客室を持つ高原リゾートで、長く箱根における外資系ホテルの代表的存在でした。そこに、旅館型のATONAと、自然派ラグジュアリーのAlilaが加わる可能性が出てきました。
この動きは、ハイアットが箱根を単なる既存ホテルの運営地としてではなく、複数ブランドを重ねられる高級滞在市場として見ていることを示しています。リージェンシーは国際標準のリゾートホテル、ATONAは現代的な温泉旅館、Alilaは自然・文化・ウェルネスに寄せた体験型ラグジュアリー。うまく棲み分ければ、ハイアットは箱根でかなり厚いブランドポートフォリオを持つことになります。
箱根は「日帰り温泉地」から「国際級ウェルネスリゾート」へ
今回のAlila進出報道は、ホテル好きにとってはブランドニュースですが、都市・観光市場の視点で見ると、もう少し大きな意味があります。箱根は、古くからの温泉観光地です。しかし、外資ラグジュアリーブランドが見ている箱根は、昔ながらの団体旅行地ではありません。東京から短時間でアクセスでき、自然と温泉と文化を持ち、インバウンドにも説明しやすい、国際級のウェルネスリゾートです。
観光客数をさらに大きく増やすというよりも、1人あたりの滞在単価を上げる。日帰り中心の観光地から、宿泊そのものを目的にするリゾートへ引き上げる。Alila、LXR、HOTEL THE MITSUI、ATONAの動きは、その方向をはっきり示しています。
これからの箱根で起きるのは、ホテルの数を増やす競争だけではありません。どのブランドが、箱根という土地の物語を最も魅力的に翻訳できるか。その競争です。
Alilaが本当に箱根に開業すれば、箱根のラグジュアリーホテル市場は一段階、上に進むことになります。
出典・参考
・日本経済新聞/Nikkei Asia・Hyatt Hotels Corporation
・World of Hyatt
・Hilton
・三井不動産
・箱根町「令和7年入込観光客総評」


