プロジェクトの概要:復刻ラッピングと記念列車運行

JR西日本は2025年5月16日、特急「くろしお」60周年を祝う記念事業として、ラッピング列車の導入を発表しました。今回のラッピングは1989年に登場した「スーパーくろしお」のデザインを再現し、現行の287系車両に施されます。対象は6両編成1本で、1号車および6号車の先頭部に当時を彷彿とさせるカラーリングと、60周年限定のヘッドマークが掲出されます。
●運行概要
- 運行開始:2025年7月5日(土)
- 運行終了(予定):2026年2月28日(土)
- 運行区間:新大阪駅〜新宮駅(紀勢本線)
- 使用車両:287系(6両編成/うち両先頭車にラッピング)
初便は特別団体列車として運行

復刻ラッピングの初便は、神戸発〜白浜行〜天王寺着という特別行程で団体専用列車として運行されます。旅行商品『くろしお60周年記念号で行く白浜への旅』として、2025年5月19日(月)13時より「tabiwa by WESTER」内で発売開始。日帰りで特急旅と沿線の魅力を満喫できる内容です。
参加者には、記念弁当、アクリルキーホルダー、ラバー製ヘッドマークキーホルダー、懐かしの硬券記念乗車証などが配布されるほか、車内ではツアー限定グッズ販売やゲーム大会も実施され、各号車1位にはピンバッジが進呈される予定です。
「スーパーくろしお」とは?──平成初期、紀勢本線を駆けた高速エース
「スーパーくろしお」は、平成元年(1989年)に登場した特急列車で、従来の381系「くろしお」を大幅に改造して誕生しました。最大の特徴は、グリーン車の「サロ381」を先頭車化し、大きな前面展望窓を備えたパノラマグリーン車の存在です。側面窓も拡大され、内装も一新。いわゆる“アコモ改善”が図られ、快適性と眺望性の向上が強調された構成となりました。
外観も従来の国鉄色から脱却し、白地に赤とオレンジをあしらった明るい塗装へと変更。これは“民営化後のJRらしさ”を視覚的に伝えるものであり、登場時の6両編成は後に増結され、最大9両での運用が行われました。
関西の私鉄王国に挑んだ「イメージ刷新戦略」

民営化後のイメージリーダーとなった221系
「スーパーくろしお」の背景には、1987年の国鉄分割民営化があります。各地でJRは次々に新型特急を投入し、東日本では「スーパーひたち」、九州では「ハイパーサルーン」などが話題となりました。一方、阪急や近鉄など私鉄の勢力が強い関西エリアでは、アーバンネットワークの改善が最優先され、通勤型221系を大量導入、特急用の新造車両は後回しとなっていました。そんな中、既存の車両をベースに「パノラマ化」「塗装変更」「ヘッドマーク刷新」を行うことで、特急の魅力を再定義した列車が登場します。
それが「スーパー雷鳥」と「スーパーくろしお」でした。いずれも最新鋭とは言えない車両ながら、リデザインによって革新性を打ち出し、関西圏でのJR特急のブランド力を再構築する試金石となったのです。
地域観光と鉄道の再接続──観光特急としての役割

381系くろしお
紀勢本線は、大阪と和歌山・南紀を結ぶ重要な鉄道路線で、沿線には白浜温泉や熊野古道など、国内外から観光客を惹きつける名所が点在しています。特急「くろしお」は、そうした観光地と都市部をつなぐ交通手段であると同時に、旅そのものを楽しむ“移動の魅力”を提供してきました。今回のラッピング列車の導入は、かつての特急に親しんだ世代には懐かしさを、若い世代には新たな鉄道体験を提供する機会となります。観光特急としての魅力を再び発信することで、地域経済や観光振興にも寄与することが期待されています。
結びに:記憶と共に走る復刻ラッピング

「くろしお」は、長年にわたって都市と地域、観光と日常をつないできた存在です。今回の60周年記念ラッピングは、その歩みを視覚的に再提示することで、鉄道のもつ文化的側面や観光資源としての魅力をあらためて伝える試みといえるでしょう。
過去のデザインや列車の記憶を共有するこの取り組みが、紀勢本線沿線の魅力再発見につながることを期待したいところです。 60年の歴史を誇る「くろしお」の過去は、復刻というかたちで現代に可視化されます。記憶を走らせる列車は、単なる懐古趣味ではありません。そこには“未来に残すべき風景”があり、“文化を語るプロダクト”としての力が宿っています。
2025年、走り出すスーパーくろしおラッピングは、鉄道が都市と地域、世代と世代をつなぐものであることを、あらためて私たちに思い出させてくれるはずです。
【出典】
- 西日本旅客鉄道株式会社「特急くろしお60周年記念ラッピング列車運行開始!」(2025年5月16日発表)
- KATO公式サイト「381系 スーパーくろしお」解説ページ
- Wikipedia「381系電車」「くろしお」「スーパーくろしお」項目
ラインカラーと、あて昔の特急シンボルマークとヘッドマークを復元させるんですね。
最近奈良線で運行された臨時特急『いにしへ』もヘッドマーク付きにでしたけど、こちらは文字だけでしたね。