大阪府は2025年5月16日から、咲洲庁舎(さきしまコスモタワー)の7階〜17階部分を対象に、新たなホテル事業者の募集を始めました。大阪湾岸エリアは、2025年の大阪・関西万博を機に再び注目が集まっており、今回の公募はその玄関口ともいえる咲洲の今後を左右する動きとして注目されています。
ホテル跡地、11フロアを一括で貸し出しへ
今回募集されているのは、咲洲庁舎の7階から17階までの全11フロアで、延べ面積は5,391.77坪(約17,819㎡)にのぼります。以前は「さきしまコスモタワーホテル」がこの区画に入居していましたが、2019年11月の開業から間もなく2020年春頃から賃料滞納が始まりました。
大阪府は2022年に訴訟を提起し、2023年6月には大阪高等裁判所が未払い分の支払いと明け渡しを命じる判決を下しました。最終的に滞納額は約43億円に達し、同年10月にはホテルが閉館。現在、該当区画は空きフロアとなっています。
募集の条件と選定方法、信頼性を重視
募集期間は2025年5月16日から7月7日までで、応募には5月28日または30日に開催される現地説明会への参加が必要です。貸付期間は10年以上15年以内で、賃料は基準坪単価月額6,430円(約21,257円/㎡)と設定されています。
選定方法については、これまでの高額入札方式から見直しが行われています。今回は、資金計画やホテル運営の実績、経営の安定性などを重視し、信頼性を評価軸とした審査方式が導入されました。審査は、外部の有識者で構成される「咲洲庁舎入居事業者選定委員会」によって実施され、7月中に入居予定事業者が決定される予定です。
吉村洋文大阪府知事は記者会見で、「今回は訴訟の経緯を踏まえて、専門家の意見を聞きながら慎重に進める」と述べています。
咲洲庁舎のこれまで──建設から“空きビル化”までの経緯

咲洲庁舎はもともと、1995年に完成した「ワールドトレードセンタービル(WTC)」として第三セクター方式で整備されました。しかしバブル経済の崩壊などで経営が行き詰まり、2010年に大阪府が約85億円でビルを取得しました。
府は当初、このビルを「第2庁舎」として活用する構想を掲げましたが、2011年の東日本大震災の際に、長周期地震動による大きな揺れが観測され、耐震性に対する懸念が高まりました。その結果、府庁の全面移転は断念され、多くのフロアが空いたままの状態が続いています。
現在も一部の府庁機能が入居しており、防災拠点や避難施設としての機能は維持されていますが、庁舎全体としての活用は限定的です。ホテルフロアも含めて空室が目立ち、「活用が進まないビル」として長く課題視されてきました。
イベント需要に対応、中価格帯ホテルの整備がカギ
咲洲エリア周辺には、ATCホールやインテックス大阪などの展示会施設が集積しており、ビジネスイベントや見本市の会場として利用されています。しかし、近隣の宿泊施設は「グランドプリンスホテル大阪ベイ(旧ハイアットリージェンシー大阪)」など、高価格帯のホテルに限られている状況です。
そのため、今回の公募で中価格帯のホテルが整備されれば、イベント参加者が会場周辺で宿泊できる環境が整い、利便性が大きく向上することが期待されます。また、こうした取り組みは、MICE(Meeting, Incentive, Convention, Exhibition)分野での都市競争力を高める一因にもなります。
公募の成否が問われる今後、エリア活性化の足がかりに
今回の公募は、咲洲庁舎の未活用区画を活かす取り組みとして、実務的な意味合いの強いプロジェクトです。ホテル事業者が安定して入居し、長期間にわたって運営が続けば、庁舎全体の稼働率向上につながり、咲洲のイメージや実用価値にも変化が出てくる可能性があります。
また、近隣の展示会場との連携が進めば、ビジネスユースにおける宿泊の選択肢が広がり、大阪湾岸エリアの活性化にも一定の効果が期待できます。
今後、どのような事業者が選ばれ、どのようなホテルが整備されるのか。咲洲という場所の活かし方に対する一つの試金石として、今回の公募の行方に注目が集まります。
■出典元
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大阪府「咲洲庁舎7階から17階の賃貸借に係る入居事業者の募集について」
https://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=49996
(※ホテル跡地の公募概要・面積・賃料条件・選定方法など公式情報) -
日本経済新聞「大阪府、咲洲庁舎のホテル跡を再公募 信頼性重視で審査」
(※ホテル事業者の選定方法の変更や吉村知事の会見発言に関する報道) -
読売テレビ「かんさい情報ネットten.」
(※ホテル閉館までの経緯と滞納額に関する報道) -
毎日放送(MBS)「VOICE」
(※旧WTC時代からの経緯や、湾岸エリア再開発に関する背景解説) -
NHK大阪放送局ニュース「咲洲庁舎ホテル跡、公募へ」
(※庁舎の耐震問題、災害拠点としての現状などを含む解説)