日鉄興和不動産が、アジア・パシフィック・ランド(APL)が推進する「九州デジタルゲートウェイファンドPJ」に参画し、福岡県北九州市で大規模データセンター(DC)開発に乗り出します。本件は同社にとって初のデータセンター事業であり、北九州・糸島を軸とした“第3の国内DCハブ”形成を目指す、戦略的なプロジェクトです。
1. 日鉄興和不動産がDC事業に本格参入
日鉄興和不動産は、物流施設「LOGIFRONT」などの産業用不動産を展開してきましたが、産業構造の変化に合わせて事業領域を研究施設・工場へ拡大しています。今回はさらにデジタル社会の基盤となるデータセンター事業に初参入し、APLが推進する九州エリアのDC開発に参加します。
本事業は、地域未来投資促進法を活用し、地域の産学官連携によるデジタル人材育成まで視野に入れた広域プロジェクトで、九州を次世代デジタルインフラの拠点へ成長させる構想です。
2. 九州が「第3のDCハブ」に選ばれる理由
(1) 東京×大阪に続く“地理的冗長性”を確保できる
日本の主要DCは東京圏と大阪圏に集中しています。しかし、
-
地震などの広域災害リスク
-
電力・用地の逼迫
-
BCP(事業継続)要件の厳格化
によって「第3拠点」の必要性が高まっています。
特に重要なのは、東京・大阪・北九州がそれぞれ約500km離れているという点です。この距離は「同時被災リスクを大幅に下げる」のに最適であり、AI用途のDCは超低遅延を必須としないため、遠隔地でも十分成立します。
(2) 九州は“太陽光発電のメッカ”であり、再エネ調達が容易
海外クラウド企業(Amazon、Google、Microsoftなど)は、データセンターの電力を100%再エネで調達することを経営方針にしています。
九州はこれに応える明確な優位性を持っています。
日射量が多く、太陽光発電に適した気候条件
九州は全国でも日照時間が長く、雪の影響も少ないため、年間を通じて安定した太陽光発電が可能です。
導入量は全国トップクラス
太陽光導入量は2012年比で約10倍の 1100万kW(2022年末)。電力需要が全国約10%であるのに対し、太陽光比率は全国の約17%という突出した数字です。
需要を上回り「出力制御」が必要なほど普及
九州では晴天時に電力が余りすぎ、太陽光出力を抑制する例が頻発するほど再エネが豊富です。
再エネ前提のDCを求める海外企業のニーズと一致
例えば福岡県では、太陽光からの直接給電+FIT非化石証書で「100%再エネDC」を実現した事例もあります。
この“再エネ調達のしやすさ”は、海外クラウド企業が立地を決める際の最優先事項であり、九州が極めて高い競争力を持つ理由となっています。
(3) 海外ネットワークとの接続性:アジアと最短でつながる
九州北部は、
-
韓国・釜山
-
東アジア主要都市
への海底ケーブルで直接接続されており、信頼性の高い国際ネットワークを確保できます。
特にAPLは、九州を「東京・大阪に次ぐ東アジア DC ゲートウェイ」として位置づけています。
(4) 電力コストが全国最安クラス
九州電力エリアは、電力料金が日本で最も安い水準と言われ、データセンターの運営コストを大幅に抑えられます。AIデータセンター(GPUクラスター)は電力消費が莫大なため、コスト差は数十億円規模のインパクトを生みます。
3. 北九州で何を“なし得たい”のか?
本プロジェクトが目指す姿は次の5点に整理できます。
① 東京・大阪に依存しない「第3デジタル心臓」をつくる
災害、電力逼迫、地価上昇を背景に、国内DCの冗長化は急務です。北九州はその最適解であり、国家レベルのBCP強化に貢献します。
② 再エネベースの“カーボンニュートラル型DCクラスター”を構築
大量の太陽光+非化石証書をセットで活用し、海外クラウド企業誘致の競争力を獲得します。
③ 東アジアと日本の「データ回廊」を構築
韓国・釜山へ最短距離で接続できる立地は、国際DCハブとしての拡張余地を意味します。
④ 地域経済の高度化:デジタル人材の育成・雇用創出
地域未来投資促進法を活用し、
-
大学
-
研究機関
-
企業
が連携することで、データセンター運用・AI人材の育成につながります。
⑤ 国内AI開発の基盤強化
AI学習用データセンターは消費電力が非常に大きいため、北九州の電源余力+再エネ供給能力が国内AI産業の持続的成長を支えます。
4. プロジェクトの概要:VOLTA(ヴォルタ)計画
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 福岡県北九州市若松区ひびきの北 |
| 面積 | 約6ha |
| DC規模 | 120MW(超大規模DC) |
| 稼働時期 | 2029年予定 |
| 事業主体 | APL(アジア・パシフィック・ランド) |
| 参画 | 日鉄興和不動産 |
120MW級のDCは国内でもトップクラスの規模であり、明確にAI・ハイパースケール企業向けです。
5. まとめ:北九州DCは「地理×再エネ×国際ケーブル」の三拍子が揃う
北九州が選ばれた理由は、単なる地価の安さや土地確保のしやすさではありません。
① 地理的冗長性(大阪と500km間隔)
② 再エネの豊富さ(太陽光の圧倒的導入量)
③ 国際ネットワーク接続
④ 電力コスト
⑤ AI時代のDC要件との親和性
という複数の要素が噛み合った結果です。
日鉄興和不動産がこの成長市場に参入したことは、「国内デジタルインフラの再編が次のステージに入った」ことを示すシグナルと言えます。
出典元
-
APL(アジア・パシフィック・ランド)資料
-
九州電力グループ公開資料
-
経済産業省 地域未来投資促進法







