南海電気鉄道は12月4日、新今宮駅に日本初となるハッシュタグ付き副駅名「#まいど通天閣」を導入しました。通天閣観光を子会社化して1年となる節目に合わせた施策で、駅構内のデザイン刷新や車内アナウンスの更新を含め、南海沿線と新世界エリアとの一体的な観光振興を図ります。
当日は通天閣でお披露目セレモニーを開催し、お笑いコンビ「エルフ」荒川さんが新今宮駅の1日駅長を務めました。駅名標には通天閣のイラストを配置し、駅ホームや改札付近には“ビリケンだるま”による案内表示を掲出。南海電鉄は「通天閣最寄り駅としての役割がより明確になり、観光客の迷いを防ぐ導線設計となる」と説明しています。
南海電鉄はこれまで、新今宮駅と通天閣を結ぶ回遊性向上に向けて、企画乗車券「Let’s Go!通天閣チケット」の販売、通天閣を巡るハイキングイベント、ラッピング列車の運行、デジタルスタンプラリーなどの取り組みを展開してきました。今回の副駅名は、こうした一連の施策をさらに後押しする“認知インパクト”を持つといえます。
通天閣観光の高井隆光社長は「新今宮駅と通天閣を結びつけることで、国内外から訪れる方に新世界の魅力をさらに感じてもらいたい」とコメント。南海電鉄の梶谷知志・鉄道事業本部長も「地域とのつながりを強め、親しみやすいターミナルづくりを進める」と述べました。
SNSでも導入直後から話題が広がり、「駅の看板が変わっている」「英語アナウンスが面白い」「大阪らしいネーミング」などの反応が相次ぎました。南海によれば、副駅名の「#(ハッシュタグ)」部分は案内放送では読み上げないものの、視覚的な効果を重視して駅名標やポスターで積極的に用いていくとしています。
超考察:副駅名は“難波エリアの吸引力を再設計する”都市戦略である
今回の副駅名導入は、一見すると話題性のある観光施策に見えます。しかし実際には、南海電鉄が直面する中長期の環境変化、特になにわ筋線開業後の交通動線再編に対応するための戦略的布石と捉えるべきです。
本稿では、ビジネスの視点から南海の意図を読み解きます。
なにわ筋線開業で“難波の吸引力が弱まる”可能性
2031年開業予定のなにわ筋線によって、関西国際空港から梅田への直通ルートが確立され、新大阪・京都方面への利便性が大きく向上します。訪日客・観光客は「最短・最速」で都市中心部へ向かう傾向が強く、難波を経由しない導線の選好が高まることが予想されます。
これにより、南海の最重要資産である“難波ターミナルの吸引力”が相対的に低下するリスクが生じます。南海にとって梅田への乗り入れは「悲願」でしが、同時に難波が「目的地」ではなく「通過点」化することは、同社の収益構造に多大な影響を及ぼす可能性があります。
天王寺に起きた“吸引力の低下”は南海の警鐘となっている
天王寺エリアは、
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くろしおの新大阪直通
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関空・紀州路快速の環状線乗り入れ
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おおさか東線のによる迂回ルートの形成
といった変化で、「天王寺を経由する必然性」が減少しました。その結果、エリアの商勢圏や回遊性は弱まり、近鉄は「あべのハルカス」という巨大開発で戦略的に対抗する必要がありました。
同じ構造変化は、難波にも起こり得ます。南海が通天閣買収や副駅名導入に踏み切った背景には、この“警鐘”が強く反映されていると考えられます。
通天閣の買収と副駅名は“吸引力の再構築”
南海が通天閣観光をグループ化した目的は、鉄道会社の範囲を超えて「難波〜新世界〜通天閣を一体とした観光回廊」を構築することにあります。
今回の副駅名はその中核施策であり、
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新今宮を“通天閣の玄関口”として再定義
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訪日客が南海新今宮駅を起点に観光行動を開始
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回遊動線がJR側ではなく南海側に固定化
といった効果が期待されます。
駅名は都市の認知を左右する強力な要素であり、副駅名の付与は“都市の地図に書き込む”行為そのものです。
SNS時代の“認知戦”としてのハッシュタグ活用
「#」を駅名に用いるのは、日本で初めてです。これは自然発生的なSNS投稿を利用し、南海圏を“情報空間上の観光起点”として定着させる狙いがあります。
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検索性向上
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投稿の統一タグ化
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口コミの増幅
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訪日客の心理的誘導
など、マーケティング投資を最小限に抑えつつ、難波エリアの“情報上の存在感”を先取りする戦略といえます。
南海が得たい効果は?
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難波エリアの吸引力を維持・強化し、梅田シフトを緩和する
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新今宮〜新世界〜通天閣の回遊圏形成により、南海沿線の価値を高める
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観光ブランドを活用し、非運輸分野の収益機会を拡大する
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グレーター難波構想を現実の都市空間へ落とし込む
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なにわ筋線開業を見据え、“情報空間の主導権”を確保する
まとめ

南海電鉄の副駅名「#まいど通天閣」は、通天閣買収を起点とした広域都市戦略の一部であり、難波エリアの吸引力を再設計する取り組みの1つです。
鉄道ネットワークの再編が進む中で、同社は「移動の起点」を取り戻すために、観光ブランド・都市認知・SNS・駅のデザインといった“都市の構成要素”を総動員し、未来の難波圏のあり方を先回りして描こうとしています。副駅名をめぐる取り組みは、南海の都市経営が次のフェーズに入ったことを象徴する施策といえるでしょう。
出典元
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南海電気鉄道・通天閣観光 共同プレスリリース(2025年12月4日)
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日本経済新聞(2025年12月4日)
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産経ニュース(2025年12月4日)
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MBS NEWS(2025年12月4日)
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PDF資料より(駅装飾写真・駅名標デザイン等)








