JR畝傍駅リニューアル 駅舎と駅前広場活用計画 カフェ化の先にある「公共資産の事業化」という本質とは?



奈良県橿原市は、昭和15年(1940年)に完成した社寺風木造建築のJR畝傍駅駅舎および駅周辺について、具体的な活用方針案を初めて公表しました。本計画では、駅舎内の待合室をカフェレストランとして活用し、駅を地域に開かれた賑わいの場へと転換する構想が示されています。

歴史的駅舎・JR畝傍駅とは

JR畝傍駅は、紀元2600年記念事業の一環として建設された社寺風意匠の木造駅舎です。瓦葺き平屋建てで、改札や待合室に加え、皇族や要人利用を想定した貴賓室を備えています。駅舎面積は約700㎡で、全国的にも希少性の高い鉄道建築と評価されています。現在は無人駅となっており、老朽化や耐震対応、維持管理費の負担が長年の課題となっていました。

無償譲渡提案から民間活用へ

2017年度、JR西日本から橿原市に対し、駅舎の無償譲渡が提案されました。市はサウンディング型市場調査などを行ったものの、耐震補強や将来的な維持管理コストの大きさから、当時は活用を断念しています。

その後、新型コロナウイルス感染症の5類移行を経て社会活動が回復したこと、民間事業者から具体的な活用提案が複数寄せられたことを背景に、市は改めて活用検討を再開しました。JR西日本の了承を得たうえで、民間の知見を取り入れる事業者公募に踏み切ったのが現在の計画です。

提案募集と最優秀提案者

橿原市は2024年8月、JR畝傍駅舎および駅周辺を対象とした活用事業の提案募集を実施しました。


  • 現地見学会参加:10団体

  • 企画提案書提出:7団体

ヒアリング審査の結果、香芝市の建築会社である 株式会社STUDIO_C が総合評価82.3点で最優秀提案者に選定され、事業の交渉権者となりました。

公表された活用方針案(令和7年12月時点)


駅舎活用事業エリア

※市が整備し、指定管理者制度により運営

駅舎内


  • 鉄道駅として必要な機能(設備室等)

  • 待合室・談話室などの公共的機能

  • カフェレストランなどの収益機能

駅舎外


  • 駐輪場

  • 駅利用者や地域住民が憩える広場

待合室と一部屋外空間は「賑わい創出エリア」と位置付けられ、カフェレストランの導入が想定されています。運営事業者は、STUDIO_C側が選定する予定です。


駅前広場エリア

※市が整備し、市道として管理


  • ロータリー、乗降スペース

  • 歩行者に配慮した安全な動線計画

  • 駅舎活用事業エリアと連動した広場整備

市有地活用事業エリア

※事業者が施設整備・運営、市は有償で土地活用を許可


  • フェーズ1:暫定的な貸駐車場として整備・運営

  • フェーズ2:ワークショップ等で地域ニーズを把握したうえで施設整備・運営

貴賓室と展示空間の位置付け

貴賓室は、まちづくりや地域活動に関する会議、イベントを行うワークショップルームとして活用する方針です。また、その他のスペースでは地域産品のサンプル展示などを行い、情報発信の拠点とする構想が示されています。いずれも、今後の設計や協議によって内容が変更される可能性があります。

事業スケジュールと役割分担


橿原市は2025年3月までにSTUDIO_Cと協定を締結、役割分担と事業スケジュールを確定させる方針です。


  • 建物改修:橿原市

  • 運営事業:民間事業者

利用開始は令和10年10月頃を目標としています。





【考察1】この事業の本質は「保存」ではなく「事業化」

本計画を俯瞰すると、単なる歴史的駅舎の保存事業ではないことが分かります。橿原市が本質的に取り組んでいるのは、公共資産を固定費の塊として抱え続ける構造からの転換です。

指定管理者制度の採用、公共機能と収益機能の併存、フェーズ制による段階的展開。これらはすべて、「維持できる形で残す」ための制度設計といえます。

【考察2】STUDIO_Cの狙いと思想

STUDIO_Cは、単なる建築会社というよりも、公共事業を成立させる構造を設計するプロデューサー的立場を取っています。


  • 建築・改修だけでなく、運営事業者選定の入口を握る構図

  • 貴賓室を地域の会議・編集空間として位置付ける発想

  • カフェを観光向けではなく、日常利用を前提とした低単価・高頻度の課金装置として捉える視点

駅舎そのものは目的ではなく、「公共×収益」の再生モデルを成立させた実績を獲得するための媒体と見るのが自然です。

【考察3】駐車場フェーズが示す現実的な戦略

市有地活用事業エリアにおけるフェーズ1の貸駐車場は、収益装置というよりも時間を稼ぐための装置です。需要が読めない段階で大きな投資を行わず、実績と合意形成を積み重ねたうえで次の展開へ進む。行政と民間双方にとって、極めて現実的なリスク管理といえます。

まとめ

JR畝傍駅の活用事業は、


  • 歴史的建築の保存

  • 公共性の確保

  • 民間活力による事業化

この三点を同時に成立させようとする取り組みです。

待合室のカフェ化は象徴的な要素に過ぎず、その背後には「公共資産を持続可能な都市装置へ転換する」という明確な思想があります。成否を分けるのは、運営段階において日常利用をどこまで定着させられるか、そしてフェーズ2へ進む覚悟と設計力が維持されるかにかかっています。






出典

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