岐阜県、旧県庁舎利活用プロポでワールドヘリテージミュージアムJVを優先交渉権者に選定!歴史的建築を「保存」ではなく「稼ぐ文化装置」へ転換する官民リスク移転モデルの全体像

岐阜県は、旧岐阜県庁舎(岐阜市司町)の利活用事業に関する公募型プロポーザルについて、ワールドヘリテージミュージアムJVを優先交渉権者に選定しました。2026年1月6日および8日に発表されたもので、今後は利活用事業に関する基本協定の締結に向け、同JVと協議を進めます。

本事業は、1924(大正13)年に竣工した旧岐阜県庁舎という、国内に現存するRC造県庁舎としては最初期にあたる歴史的建築を対象に、民間活力を導入して再生する取り組みです。単なる保存や展示にとどまらず、宿泊・飲食・交流機能を組み込んだ複合施設として再構築する点が大きな特徴です。

優先交渉権者と提案内容の概要


優先交渉権者に選定されたワールドヘリテージミュージアムJVは、一般財団法人ワールドヘリテージ財団を代表構成員とし、フィットイージー株式会社を構成員とする体制です。提案名称は「Heritage Hotel & Craft Museum(ヘリテージホテル&クラフトミュージアム)」で、旧県庁舎を活用し、以下の機能構成が示されています。


  • 1階:ミュージアム、企画展示場、カフェ

  • 2階:ジム、ガーデンテラス、ホテル

  • 3階:ホテル、レストラン、バンケット、バー

 供用開始は2029年4月を目標としています。博物館機能とホテル機能を核に、観光客、地元利用者、法人需要を同時に取り込む多層的な施設運営を想定しています。

旧岐阜県庁舎の建築概要と利活用条件

旧岐阜県庁舎は、RC造地下1階・地上3階建て、延床面積約5,110㎡、敷地面積は約5,532~5,533㎡です。2012年度に閉庁し、2013年度には本館棟南側部分を除いて解体されました。

 本事業では、


  • 対象用地を無償で貸付(貸付期間は10年以上30年以下、事業者提案)

  • 対象建物を無償で譲渡

という条件が設定されています。一方で、利活用事業者は、必要な許認可の取得、改修工事、運営、維持管理を自らの責任と費用負担で行うことが求められます。

保存要件と改修義務が示す行政側の設計思想

利活用にあたっては、旧県庁舎の歴史的・文化的価値を損なわないことが厳格に求められています。
外観、正面玄関、中央階段ホール(1~3階)、旧正庁、旧知事室、ステンドグラスは原則保存とされ、増改築についても歴史的価値を損なわない範囲に限定されています。

一方で、安全対策やバリアフリー対策は必須条件であり、耐震改修を行う場合はIs値0.6以上を満たす必要があります。県の試算では、耐震化やバリアフリー対応など、最低限の改修工事費だけでも30億円を超えるとされています。

この条件設定は、歴史的建築の象徴性を確実に守りつつ、巨額の改修費と長期的な運営リスクを民間に委ねる、明確な官民リスク分担モデルを形成しています。

【超考察】ワールドヘリテージミュージアムJVは、この事業で何を成し得ようとしているのか

本事業は、旧県庁舎という一施設の再生にとどまるものではありません。ワールドヘリテージミュージアムJVが成し得ようとしているのは、地方都市における文化財利活用の「成立モデル」を確立することだと考えられます。


文化財を「守る対象」から「運用できる資産」へ


全国の自治体にとって、旧庁舎や旧公会堂といった歴史的建築は、壊せば反発を招き、保存すれば多額の維持費がかかる存在です。本件では最低限の改修だけでも30億円超とされ、行政単独での対応は現実的ではありません。

JVはこの条件下で、「保存要件が厳しくても、民間事業として成立させることは可能である」という実証に挑んでいます。文化財を“公費で守る負債”ではなく、“民間が回し続ける運用資産”へ転換できるか。その答えを示そうとしています。


ホテル単体では成立しない地方市場への現実解


地方ホテルの最大の課題は、平日や閑散期の稼働率です。本提案では、


・観光客による宿泊需要
・ジムやカフェによる地元住民の日常利用
・バンケットやレストランによる法人・団体需要
・ミュージアムや企画展示による文化的来訪


を一体化することで、「泊まらなくても人が訪れる施設」を成立させる構造が取られています。稼働率を単一需要に依存しない設計思想が明確です。


無償譲渡・長期運営が意味するもの

建物の無償譲渡、用地の無償貸付、10~30年の長期運営という条件は、初期投資リスクが大きい一方で、地代負担を排し、時間をかけた回収を可能にします。JVが獲得しようとしているのは、旧岐阜県庁舎そのもの以上に、この条件下でも事業が成立するという前例です。


「文化が分かる民間」という希少な立ち位置

本JVは、文化・展示を担う財団と、日常利用や運営ノウハウを持つ民間企業で構成されています。
文化を語れるが事業が弱い存在でもなく、事業はできるが文化的正統性に欠ける存在でもない。その中間に位置する「文化と事業を両立できる民間」という希少なポジションを、この事業で確立しようとしています。

設計思想に見る「保存」から「編集」への転換

設計は建築家・山下泰樹氏が担当しています。公開されたイメージパースでは、旧庁舎の外観や中央階段ホールといった象徴的空間を主役に据えつつ、現代的な要素を慎重に挿入する構成が示されています。

これは建築を単に残す保存ではなく、使われ続けるために意味と価値を再編集するアプローチです。旧正庁や旧知事室、ステンドグラスといった要素は、ホテルやイベント空間として再定義され、新たな体験価値を生み出す装置となります。

岐阜はゴールではなく、モデル構築の起点

旧岐阜県庁舎利活用事業は、ワールドヘリテージミュージアムJVにとってゴールではありません。ここで成立させようとしているのは、地方都市に共通する課題に対する一つの解答です。


 文化財は、民間が回して守ることができるのか。
 保存と収益は両立し得るのか。


本事業は、その可否を実証する試金石であり、成功すれば全国展開を見据えた象徴的プロジェクトとして位置付けられることになります。






出典

  • 岐阜県発表資料「旧岐阜県庁舎(岐阜市司町)の利活用事業に関する優先交渉権者選定について」(2026年1月6日)

  • 建設・工事系業界紙「岐阜県/旧庁舎利活用プロポ/ワールドヘリテージミュージアムJVに」(2026年1月8日)

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