ワールド本社移転が示す転換点。ポートアイランドは「終わった」のか、「役割を変える」のか?企業移転から読み解く神戸の構造変化

出展:Wikipedia


 

アパレル大手のワールドは2026年1月7日、神戸市中央区港島中町(ポートアイランド)にある本社ビルと土地を売却し、2028年をめどに神戸市内の別の場所へ本社を移転する方針を発表しました。売却後もリースバック契約により約2年間は現本社を使用し、その後に移転する計画です。

この動きは、老朽化した建物の整理やROIC(投下資本利益率)経営の導入といった企業側の合理的判断として説明されています。一方で、ポートアイランドという都市空間の役割が変化しつつあることを示す事例としても注目されます。

1.ワールドはなぜポートアイランドを選んだのか

出展:Wikipedia

ワールドが現在の本社ビルを建設したのは1984年です。当時のポートアイランドは、神戸市が港湾・展示・業務・研究機能を集約する「未来型人工島」として整備を進めていた時期でした。

ポートアイランド博覧会(1981年)後の都市開発の流れの中で、同島は以下のような特性を備えていました。


  • 都心(三宮)から比較的近距離

  • 大規模かつ一体的な敷地確保が可能

  • 高層オフィスビルの建設が容易

  • 港湾・物流との親和性が高い

アパレル企業であるワールドにとって、本社・企画・管理部門を集約できる大規模自社ビルを構えることは、当時の経営環境において合理的な選択でした。実際、同社本社ビルは「神戸ファッションタウン」の象徴的存在として機能してきました。

2.なぜ今、ポートアイランドから離れるのか

再開発が進む三宮

今回の移転で重要なのは、ワールドが神戸から撤退するのではなく、神戸市内で移転する点です。これは都市構造と働き方の変化が背景にあります。


(1)都市機能は「分散」から「再集約」へ

1980~1990年代は、都心機能を外縁部へ拡張する都市モデルが主流でした。しかし現在は、人口減少や都市間競争の激化を背景に、都心回帰や拠点集約が進んでいます。神戸市でも、三宮再整備を軸に都市機能の再集中が明確になっています。この流れの中で、ポートアイランドは相対的に「都心から一段離れた業務地」という位置付けになりました。


(2)働き方の変化と固定資産の評価

近年は、リモートワークの定着やプロジェクト型組織の拡大により、巨大な本社ビルを自社保有する必要性が低下しています。ワールドが進めるROIC経営の観点では、築40年を超える延床約35,000㎡の自社ビルは、象徴的資産から資本効率を圧迫する資産へと評価が変わったと考えられます。

3.ワールド移転が示すポートアイランドの役割変化

ワールドの移転は、ポートアイランドが不要になったことを意味するものではありません。むしろ、求められる役割が変わりつつあると捉える方が適切です。

次の役割① 大学・研究拠点の受け皿

神戸学院大学ポートアイランドキャンパス

少子高齢化と18歳人口の減少により、大学、とりわけ郊外立地のキャンパスは競争力低下という課題に直面しています。一方、三宮中心部は用地が細分化されており、大学キャンパスに必要な面積や拡張性を確保しにくい状況です。

ポートアイランドは、


  • 都心に近い立地

  • 大規模かつ一体的な敷地確保が可能

  • 学部・研究施設・学生寮を一体整備できる

といった条件を備えており、大学の都心回帰ニーズの受け皿として適した環境にあります。大学集積は、学生・教職員という常時人口を生み、島内の賑わい創出にも寄与します。

次の役割② 神戸空港国際化の前庭

ポートアイランドのもう一つの重要な要素が神戸空港です。今後、国際化が進展すれば、関西空港の補完にとどまらず、実質的に関空の第三滑走路的な役割を担う可能性があります。

空港利用者数が現在の約3倍、年間1,000万人超規模に増加するシナリオも想定され、その際、ポートアイランドは空港関連業務、研究、滞在機能を受け止める都市的な緩衝地帯としての役割を強めることになります。

5.最大の制約となるポートライナーの輸送力

一方で、ポートアイランド再編の最大の制約は交通です。ポートライナーはすでに朝夕を中心に混雑が常態化しており、大学誘致や空港利用者増が重なれば、輸送力不足はさらに深刻化する可能性があります。

ただし、この課題は同時に、


  • ポートライナー増強

  • 新たな中量輸送機関の導入

  • BRTや水上交通との組み合わせ

といった交通再設計を進めるための合理的な根拠にもなります。

6.まとめ:ワールド移転は都市機能再編の一断面

ワールドの本社移転は、


  • 神戸からの撤退ではない

  • ポートアイランド否定でもない

企業が都心へ立地を最適化し、同時にポートアイランドが別の都市機能を担う方向へ移行する、都市全体の再編プロセスの一部と位置付けられます。

かつて「企業本社と展示の島」だったポートアイランドは、今後、大学・研究拠点や空港関連機能を軸とした新たな役割を担う可能性があります。ワールドの移転は、その転換点を示す事例と言えるでしょう。






出典・参考資料

  • 神戸新聞(2026年1月7日)

  • 日本経済新聞(2026年1月7日)

  • FASHIONSNAP(2026年1月7日)

  • ワールド株式会社 プレスリリース

  • 神戸市都市計画・港湾関連公開資料

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