ヤンマー、尼崎臨海部に舶用水素エンジン新工場 !「勝ちに行く」より「退場しない」ヤンマーのマルチパスウェイ戦略

出展:ヤンマーホールディングス

ヤンマーホールディングスは2026年2月16日、グループ会社であるヤンマーパワーソリューション(YPS、兵庫県尼崎市)が、舶用水素エンジンの試運転を担う新工場「(仮称)尼崎臨海工場」を建設すると発表しました!

建設地は兵庫県尼崎市東海岸町沖地区のフェニックス事業用地B-1ブロック。敷地面積は33,898.27㎡(約3.4ha)で、兵庫県から34億1,000万円で取得、操業開始は2029年3月頃を予定しています。

新工場の概要と役割

出展:ヤンマーホールディングス

新工場の延床面積は約8,000㎡(2029年3月時点予定)です。主用途は舶用水素エンジンの試運転・評価であり、計画初期の時点では量産工場ではありません。

整備予定設備は以下の通りです。


  • 水素燃料貯蔵タンク

  • 水素燃料供給設備

  • 舶用水素エンジン試験ベンチ(将来的に最大4基)

設備を含む総投資額は非公表ですが、YPSは環境省・国土交通省の「ゼロエミッション船等の建造促進事業」に採択されており、補助金活用も見込まれています。

生産体制の再編と能力強化

今回の投資は水素エンジン開発だけを目的とするものではありません。既存の尼崎工場(舶用エンジンのマザー工場)を含めた生産体制の再編と能力強化を同時に進めます。

YPSは外航船向け補機で世界シェアトップを有していますが、造船市場の活況を背景に、


  • 稼働率:約120%

  • 年間生産能力:約2,000台が逼迫

という状況にあります。今後3年間をかけて物流・生産体制を再編し、生産能力の増強を図る計画です。

実用化ロードマップ

舶用水素エンジンは燃焼時にCO₂を排出しない技術です。YPSはすでに陸上試験を開始しており、


  • 2028年度:実船試験

  • 2030年前後:内航船向け実用化

を目標としています。

開発は川崎重工業、ジャパンエンジンコーポレーションと共同で進められています。

水素に限定しないマルチ燃料戦略

舶用業界では2050年カーボンニュートラル実現に向け、脱炭素技術の実装が急務です。YPSは水素に加え、


  • メタノール

  • アンモニア

にも対応するパワートレイン開発を進めています。特定燃料に依存しない全方位型戦略を採用している点が特徴です。

 尼崎臨海部という立地の意味

フェニックス事業用地は阪神工業地帯の中核に位置する臨海部産業集積地です。危険物取扱や港湾アクセスに適した環境を備えています。

また、尼崎・西宮・芦屋エリアには化学プラントが集積しており、副生水素を含む供給ポテンシャルがあります。さらに、大阪・関西万博を契機に整備される水素インフラが、万博後に産業用途へ転用される可能性もあります。

本工場は「水素を使う側」と「生む・運ぶ側」を結節する位置に立地している点で、将来的に水素サプライチェーンの一部を担う拠点となる可能性があります。

【考察】量産ではなく“不確実性対応能力”を工場化

出展:ヤンマーホールディングス

今回の投資で特徴的なのは、量産拠点ではなく試運転・評価拠点である点です。

舶用脱炭素は、水素・メタノール・アンモニアなど複数の燃料が並走する段階にあります。どの燃料が主流になるかは、エンジン性能だけでなく、燃料供給網、港湾インフラ、規制、コスト構造など外部要因に左右されます。その中でヤンマーが選択したのは、特定技術に全振りすることではなく、複数の選択肢に対応できる体制を整備することです。水素対応でも燃料電池ではなく水素内燃エンジンを軸にしている点は、同社が長年蓄積してきた内燃機関技術を活用しながら脱炭素へ接続する判断といえます。

この姿勢は、トヨタがEV一本槍ではなくマルチパスウェイ戦略を取っている構図と重なります。技術トレンドを断定せず、どの方向に進んでも対応可能な状態を維持する考え方です。

さらに、試運転拠点の整備は、新造船だけでなく既存船のエンジン換装(レトロフィット)市場とも接続します。大阪湾岸の造船所と連携することで、脱炭素対応を新造船限定にしない現実的な展開が可能になります。

本質は「勝ちに行く」より「退場しない」

今回の尼崎臨海工場は、短期的な収益確保を目的とするものではありません。


  • 規制が変わっても

  • 燃料が変わっても

  • 技術潮流が揺れても

舶用エンジンの中核プレイヤーであり続けるための投資です。

量産ではなく、不確実性に対応し続ける能力そのものを物理的な拠点として構築する。その意味で、本工場は「舶用水素エンジン工場」というより、脱炭素時代における内燃機関メーカーの生存戦略を具体化した設備といえます。

 新工場概要


  • 工場名:(仮称)尼崎臨海工場

  • 所在地:兵庫県尼崎市船出28番2外7筆(B-1ブロック)

  • 敷地面積:33,898.27㎡(約3.4ha)

  • 延床面積:約8,000㎡(2029年3月時点予定)

  • 主用途:舶用水素エンジンの試運転

  • 操業開始予定:2029年3月

  • 土地取得価格:34億1,000万円

  • 総投資額:非公表





■ 出典

  • ヤンマーホールディングス News Release(2026年2月16日)

  • ヤンマーパワーソリューション発表資料

  • 兵庫県発表資料(フェニックス事業用地B-1ブロック事業計画)

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