なぜANAは関空国内線を大幅縮小するのか?世界有数の京阪神大都市圏で進む上級需要・法人需要の海外ハブ流出は、日本にとって正解なのか

ANAホールディングスは、2026年度の航空輸送事業計画において、関西国際空港における国内線ネットワークを大幅に見直す方針を示しました。

これにより、全日本空輸(ANA)本体は関空国内線を縮小し、グループLCCであるPeach Aviationが運航規模を拡大する構図が明確になります。今回の動きは単なる減便ではなく、ANAグループの収益構造・ブランド戦略・国内航空市場の構造変化を踏まえた、戦略的な再配置と位置づけられます。

1.関空国内線は「ANA縮小+Peach増便」へ

ANAは2026年夏ダイヤ以降、関西国際空港発着の国内線のうち、羽田線を除く以下の4路線を原則運休します。


  • 新千歳(札幌)

  • 那覇

  • 宮古

  • 石垣

一部期間での限定運航は残るものの、定期便としての位置づけは大きく後退します。これにより、ANA本体による関空発の国内線ネットワークは、実質的に羽田線のみとなります。

一方、Peach Aviationは、関空を拠点に国内線・国際線ともに運航規模を拡大します。特に国内線では、関空~新千歳線、関空~那覇線を中心に増便が予定されており、ANAが縮小した供給の一部をグループ内で補完する形となります。

2.数字で見るグループ方針


ANAは98%、Peachは112%へ――明確な再配分

2026年度の計画では、ANAグループ内での輸送量配分が数値として示されています。


  • ANA国内線:前年度比 約98%

  • Peach全体:前年度比 約112%

ANA本体は国内線全体をやや縮小する一方、Peachは2桁成長を前提とした計画です。この数字は、国内需要を放棄するのではなく、ブランドごとに最適な市場へ再配分する方針を明確に示しています。

3.グループ全体の設計思想


関空で徹底されるデュアルブランド戦略

ANAホールディングスは、ANAとPeachを併用するデュアルブランド戦略を中核に据えています。これは、同一グループ内で市場を二層に分け、それぞれに適したコスト構造とサービス水準で対応する考え方です。


  • ANA本体
    高単価・ビジネス需要・プレミアム需要・乗り継ぎ価値を重視

  • Peach
    価格感度の高いレジャー需要・インバウンド需要を重視

関西国際空港は、LCC比率が高く、24時間運用が可能で、インバウンド需要との親和性が高い空港です。この特性を踏まえると、関空をPeachの主戦場としてLCCハブに純化させる判断は、グループ設計として合理的といえます。

4.なぜ「関空縮小」と「東京シフト」が同時に進むのか


ANA本体が追うKPIの変化

今回の再編の背景には、ANA本体が重視する指標(KPI)の変化があります。判断軸は、以下のような考え方へ移行しています。


  • 同一の機材・クルー・発着枠を、どこに投入すれば利益率が最も高いか

  • 価格競争が激しい市場で、フルサービスキャリアが戦う合理性はあるか

  • 単価と需要の確実性を両立できる路線はどこか

この視点で見ると、関空発の札幌・沖縄系路線は、「需要は大きいが価格弾力性が高く、FSCの収益性が低い市場」に分類されます。その結果、ANA本体ではなく、コスト競争力の高いPeachに委ねる判断につながっています。

5.関西は需要がないのか


巨大経済圏と収益ロジックのミスマッチ

京阪神地域は世界有数の大都市圏であり、京都・奈良といった世界的な観光資源を擁しています。実際、外資系航空会社は関空路線を積極的に拡充しており、関西の需要自体が小さいわけではありません。

ただし、ANAの判断軸は需要の有無ではなく、東京ベースの事業構造のなかで、「ANA本体が高単価で取り切れる形に変換できるか」にあります。


  • 伊丹空港が国内線のビジネス需要を吸収している

  • 関西三空港体制によりネットワークが分散している

  • 関空はLCC優位の競争環境にある

これらの条件下では、関西需要をANA本体の高付加価値モデルに最適化することは難しい、という判断が働いています。

6.国の航空政策との関係


「国内航空の採算限界」を先取りした動き

国土交通省は、国内航空市場が需要構造の変化やコスト増により、従来型の路線維持が困難になっていることを公式に認識しています。その一環として、「国内航空のあり方に関する有識者会議」が設置され、路線維持の新たな枠組みが議論されています。

この文脈で見ると、ANAの関空再編は地域軽視ではなく、採算構造の限界を企業レベルで先行してPLに落とし込んだ事例と捉えることができます。

7.短期的な合理性と中長期の論点

今回の再編は、短期的にはグループ全体の収益性と運航効率を重視した判断です。ANA本体は高単価路線へ集中し、関空の価格感度の高い需要はPeachでカバーすることで、グループとしての供給力は維持されます。

一方で、中長期的には以下の論点が残ります。


  • 関西発着の上級需要・法人需要を、他社が先行して取り込む可能性

  • 外資系FSCや他グループ航空会社が、


    • 上級需要の時間帯・曜日

    • 収益性の高いクラス構成を実運航で蓄積していくリスク

  • 将来、ANAが関空で再展開を図る際、後発参入による競争不利に陥る可能性

これらは、短期合理性と引き換えに生じうる構造的リスクといえます。

まとめ


関空再編が示すANAグループの到達点

今回の関空国内線再編は、「関西を捨てた」という単純な話ではありません。
ANAグループは、


  • ANA本体を高付加価値・幹線・国際プレミアムに純化

  • 関西のボリューム市場はPeachで獲り切る

  • 関空をFSCハブではなくLCCハブとして最適化

という設計を明確な形で実行しました。

一方で、京阪神という世界有数の経済圏における上級需要や法人需要を、今後どのような形で継続的に把握・活用していくのか、またその需要を海外キャリアが吸い上げ、自国のハブ空港で乗り継がせたうえで遠方へ輸送する状況をどのように捉えるのかについては、引き続き注視すべきテーマです。

また、日本の航空ネットワーク全体としても、首都圏空港への機能集中が進むなかで、災害時や需給変動時における柔軟性や代替性をどのように確保するのかという課題が、改めて問われる局面にあると考えられます。






出典・参考資料

  • ANAホールディングス
    「2026年度 ANAグループ航空輸送事業計画」

  • 国土交通省
    「国内航空のあり方に関する有識者会議」関連資料

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