鹿児島市、新サッカースタジアムを鴨池庭球場に事実上一本化 約215億円・最速2036年、複合開発から「競技基盤」優先へ



鹿児島市の新サッカースタジアム計画が、候補地探しから事業化を詰める段階へ移ります。

市は2026年8月24日の市議会産業観光企業委員会で、県立鴨池庭球場敷地等を今後の候補地として検討し、鹿児島サンロイヤルホテル敷地等を検討対象から外す方針を報告しました。正式な建設地決定ではありませんが、鴨池案への事実上の一本化です。

決め手はコストと時間でした。鴨池案の概算整備費は約215億円で、サンロイヤル案より約78億円安く、供用開始も約2年早い最速2036年ごろを見込みます。

一方、敷地の制約から、商業・飲食施設などを併設する「複合化」は断念します。計画の重心は、スタジアムを核とした大規模な都市開発から、鹿児島ユナイテッドFCの競技基盤と県内スポーツ環境を確保する実現優先型の整備へ移りました。

約78億円の差は、スタジアムではなく土地代


項目 鴨池庭球場案 サンロイヤルホテル案
概算整備費 約215億円 約293億円
スタジアム関係費 約187億円 約187億円
土地取得費 見込まず 約106億円
庭球場移設費 約28億円 不要
観客席 約15,600席 約15,600席
延床面積 約29,055㎡ 約29,055㎡
供用開始 最速2036年ごろ 2038年ごろ
約78億円の差は、スタジアムの仕様を落として生まれるものではありません。スタジアム関係費は両案とも約187億円で、規模も約1万5,600席、延床約2万9,000㎡と同等です。

最大の違いは、サンロイヤル案では約106億円の土地取得費が必要なのに対し、鴨池案では土地取得費を見込まないことです。鴨池案では既存庭球場の移設に約28億円が必要ですが、それを加えても総額を大きく抑えられます。

市が選んだのは、安価なスタジアムではなく、同規模の施設を土地取得費なしで整備できる立地です。

なお、約215億円は2026年時点の概算です。2018年の庭球場改修に使われた国庫補助金については、移設に伴う返納の取り扱いを今後整理する必要があります。

誰が、いつ、何のために造るのか


項目 現時点での整理
検討主体 鹿児島市
主な関係者 鹿児島県、鹿児島ユナイテッドFC、県サッカー協会、県ラグビー協会、民間事業者など
整備・所有・運営 事業主体、所有者、運営方式とも未決定
費用負担 国庫補助や民間資金を活用し、県、市、民間などによる「オール鹿児島」を想定
想定工程 新庭球場整備後に現庭球場を解体し、新スタジアムを建設
供用時期 必要な合意・手続きが円滑に進んだ場合、最速2036年ごろ
政策検討の主体は鹿児島市ですが、県立鴨池庭球場の移設を伴うため、鹿児島県との合意が欠かせません。県・市・民間の費用分担や、完成後の所有・運営方式も決まっていません。

工程は、文化公園周辺などに新たな庭球場を整備した後、現在の県立鴨池庭球場を解体し、その跡地にスタジアムを建設する「玉突き型」です。都市公園、地区計画、県・市の条例改正なども必要で、2036年は開業を約束した時期ではなく、最速で手続きが進んだ場合の想定です。

造る目的は「サッカー場の更新」だけではない



新スタジアムで実現したいことは、大きく五つあります。
なしえたいこと 期待される効果
Jリーグ基準に対応するホームを確保 ライセンス問題を解消し、鹿児島ユナイテッドFCが上位カテゴリーを目指せる
白波スタジアムの利用を分散 サッカー、ラグビー、陸上、アマチュア大会の日程競合を緩和できる
観戦環境とクラブ収益を改善 集客、飲食、物販、VIP席、スポンサーなどの収益拡大につながる
大会・キャンプ・県外客を誘致 宿泊、交通、飲食、観光など地域消費を生み出す
鹿児島を代表するスポーツ拠点を形成 子どもの競技参加、地域への愛着、市民・県民の一体感を高める
現在の白波スタジアムは陸上競技場との兼用で、座席数や屋根などJリーグの施設基準に課題があります。サッカーだけでなく陸上、ラグビー、各年代の大会も集中し、芝生の養生を含めて年間日程の調整が難しい状態です。

鹿児島ユナイテッドFCは、新スタジアム整備を前提とした例外措置の下でライセンス交付を受けています。計画が長期停滞すれば、将来のライセンス判定やクラブの成長戦略に影響する可能性があります。

2026年1月には、県サッカー協会、県ラグビー協会、鹿児島ユナイテッドFCが県と市に整備を要望し、100,302筆の署名を提出しました。

したがって新スタジアムは、単に「試合を見やすくする施設」ではありません。クラブの活動基盤を守り、白波スタジアムに集中する競技利用を再編し、プロスポーツを交流人口や地域消費につなげる社会インフラとして位置付けられています。

商業「複合化」を断念し、政策の優先順位を変更



鹿児島市が当初掲げた「多機能複合型スタジアム」には、二つの機能が含まれていました。
方針 内容 鴨池案
多機能化 ピッチ、ラウンジ、コンコースなどを会議、イベント、飲食、市民活動にも活用 継続
複合化 商業、ホテル、オフィス、フィットネスなどを別用途施設として併設 断念
旧構想は、スタジアムを中心市街地やウォーターフロントの集客拠点とし、試合のない日にも商業・交流機能で人を集める「365日型」の都市開発を目指していました。

2022年の旧需要予測では、スタジアムと複合施設を合わせた年間来場者を約67万9,000人と試算。このうち約39万人を多機能・複合施設の利用が占め、県内の年間経済波及効果を約67億円、市内を約48億円と見込んでいました。

しかし、これらは商業・交流施設を併設する旧構想を前提とした数字です。複合化を断念した鴨池案に、そのまま当てはめることはできません。
当初構想 現在の鴨池案
都市開発・中心市街地活性化を重視 クラブと競技基盤の確保を重視
商業施設を含む年間集客 スタジアム内部の多用途利用
新たな街の拠点を形成 既存スポーツ施設と連携
最大限の経済波及効果を追求 コスト、完成時期、実現可能性を優先
今回の一本化は、約106億円の土地取得費を回避する一方、商業施設が生み出す日常的な集客や収益源を手放す選択でもあります。

今後はピッチ、ラウンジ、コンコース、会議室などを試合以外にも使う「多機能化」に加え、周辺の店舗、宿泊施設、公共交通と連携し、スタジアムの外側に消費を波及させる仕組みが必要になります。

最大の関門は財源と運営モデル


課題 今後詰める内容
費用負担 県、市、国、民間、クラブなどの負担割合
庭球場移設 移転先、約28億円の費用、国庫補助金返納、条例・都市計画手続き
建設費 2030年代の資材費・人件費上昇による事業費上振れ
所有・運営 公共所有、指定管理、民間参画などの事業スキーム
収益確保 非試合日の利用、飲食、VIP、広告、命名権、イベント誘致
地域への波及 公共交通、周辺店舗、観光地への回遊をどう生み出すか
候補地が事実上絞られたことで、最大の論点は「どこに造るか」から、誰が負担し、誰が運営し、年間を通じてどう使うかへ移ります。

約215億円を投じる以上、クラブライセンスの確保だけでは事業効果の説明として十分ではありません。非試合日の稼働率を高め、県外客の宿泊・飲食・観光消費へつなげ、既存の鴨池スポーツ施設全体を効率的に運用する仕組みが求められます。

スタジアム建設ではなく、鹿児島のスポーツ基盤を再構築する計画



今回のニュースの核心は、鹿児島市が約215億円のサッカー場を造ることではありません。

市が最終的になしえたいのは、鹿児島ユナイテッドFCがライセンス問題を抱えずに成長でき、白波スタジアムに集中していた競技利用を分散し、県内外から試合や大会、キャンプ、人と消費を呼び込める環境をつくることです。

そのために市は、商業複合型の理想案を追い続けるのではなく、土地取得費を抑え、完成時期を早められる鴨池案を選びました。

一方、複合化を断念したことで、当初期待した都市開発効果は縮小します。新スタジアムが地域の成長装置になるか、単体の競技施設にとどまるかは、今後の財源、運営、非試合日の活用、周辺への回遊設計にかかっています。

鹿児島の新スタジアム計画は、長く続いた立地論争を抜け、施設を造る段階ではなく、約215億円の投資を地域の価値へ変える事業モデルを構築する段階に入りました。




出典

・鹿児島市「多機能複合型スタジアムの整備検討」
・鹿児島市「スタジアム候補地調査業務」
・鹿児島市「多機能複合型スタジアム整備検討支援業務 中間報告」
・鹿児島テレビ(KTS)2026年8月24日、26日報道
・Jリーグ「クラブライセンスに関する発表」
・鹿児島県サッカー協会、鹿児島県ラグビーフットボール協会、鹿児島ユナイテッドFC要望書

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