近鉄・大阪上本町再開発に「大学誘致」が浮上 近鉄百貨店・シェラトン都ホテルを段階再編へ、2019年の「観光拠点構想」から文教・住宅都市型ターミナルへ戦略転換



近鉄グループホールディングスの若井敬社長は、大阪・上本町エリアの再開発について、大学やエンターテインメント施設の誘致に意欲を示しました。大阪上本町駅、近鉄百貨店上本町店、シェラトン都ホテル大阪を対象に、百貨店の建て替えも視野に入れ、2028年度までに具体構想をまとめる方針です。

今回の新情報は「大学」です。エンターテインメント施設は2019年の構想にも盛り込まれていましたが、これまで「文教機能の強化」とされてきた教育分野について、近鉄トップが大学という具体的な施設に踏み込みました。

現時点で判明している内容は次の通りです。

区分 内容
近鉄の公式方針 駅、百貨店、ホテルを含む上本町ターミナルを再編。住宅、教育・文化、交通、商業、医療、エンターテインメントを複合化
今回の新情報 大学誘致を具体的な選択肢として明示。百貨店の建て替えも視野
構想策定時期 2028年度まで
日本経済新聞の報道 2030年以降に百貨店の建て替えを先行し、ホテルも刷新。総投資額は1,300億円超
近鉄の保有地 ターミナル周辺に約3万㎡超
未決定事項 大学名、建物規模、高さ、用途構成、事業費、共同事業者、着工・開業時期
1,300億円超という事業費と2030年以降という時期は報道ベースで、近鉄の正式決定ではありません。近鉄はその後、建設費と金利の上昇を踏まえ、開発規模や事業手法を再検証すると説明しています。

上本町再開発、40年の経緯

今回の計画は、1985年に完成した上本町ターミナルを約半世紀ぶりに更新する長期プロジェクトです。
時期 主な動き
1985年 都ホテル大阪、近鉄劇場、近鉄小劇場が開業。駅、百貨店、ホテル、劇場を一体化
2008年 上本町を「交通拠点・文教地区」と位置付け、「文化の発信拠点」を目指す再整備を発表
2010年 上本町YUFURA、新歌舞伎座が開業
2019年 万博・IRを見据え、ホテル、MICE、交通、エンターテインメント、オフィスなどを構想
2023~2025年 大阪上本町駅やバスターミナルを改良。交通機能の再編を先行
2025年 上本町を「定住人口型・文教住宅エリア」と再定義。グループ横断のプロジェクトチームを設置
2026年 暮らし、交通、教育・文化、都市機能・エンターテインメントを再開発の柱に設定。大学誘致を表明
注目したいのは、大規模建て替えに先立って駅やバスターミナルの改良が進められている点です。大阪上本町駅ではホーム・改札動線を見直し、バスターミナルも再整備されました。

これらは再開発本体とは別事業ですが、将来のターミナル再編に向けて、交通機能を先行して整えていると見ることもできます。

「観光拠点」から「文教・住宅」へ



現在の構想で最も大きく変わったのは、再開発が取り込もうとしている需要です。
2019年構想 2025~2026年構想
主な需要 万博、IR、インバウンド、観光客 周辺居住者、学生、家族、来街者
街の役割 沿線観光へのゲートウェイ 文教・住宅都市型ターミナル
中核機能 ホテル、MICE、観光、交通 住宅、教育、文化、医療、生活サービス
開発範囲 上本町とあべの・天王寺の連携 谷町九丁目、上本町、鶴橋まで面的に連携
収益基盤 観光・宿泊・交流需要 住宅・賃貸・日常消費を中心とする複合需要
2019年構想では、大阪・関西万博やIRを契機に、上本町を近鉄沿線へ観光客を送り出す拠点とする色彩が強く、ラグジュアリーホテル、MICE、都市型エンターテインメント、オフィス、インキュベーション施設などが想定されていました。

一方、2025年以降の近鉄は、上本町を「定住人口型・文教住宅エリア」と明確に位置付けています。

これは単なる計画縮小ではありません。外部から大量の観光客を呼び込む発想から、もともと存在する住宅・教育・医療需要を強化する方向へ、戦略の軸足を移したと考える方が自然です。

上本町には、高所得のファミリー層、教育機関、学習塾、医療施設、上町台地の住宅地、奈良方面への交通結節点という独自の強みがあります。

近鉄によると、駅から500m圏には30~50歳代が7,000人以上居住し、年収1,000万円以上と推計される世帯数は大阪の他の主要駅周辺の3倍以上あります。

梅田や難波と商業規模で競うのではなく、上本町固有の文教・住宅需要を核に、生活・教育・文化・交通を重ねる。現在の構想は、その方向へ収束しつつあります。

なぜ「大学」を誘致するのか

大学は、オフィスや高級住宅ほど高い賃料を期待できる用途ではありません。それでも誘致する価値は、平日昼間の安定した人流と、文教都市としてのブランドを同時につくれる点にあります。
大学機能 再開発への効果
学生・教職員の通学 平日昼間の安定した人流
公開講座・社会人教育 幅広い世代の来街
産学連携・共同研究 企業、研究者、スタートアップの集積
図書館・講堂・イベント 地域に開かれた文化機能
文教ブランド 住宅・商業を含むエリア価値の向上
若年層の流入 飲食、物販、交通など周辺消費を下支え
特に興味深いのは、若井社長が大学とエンターテインメント施設を同時に挙げていることです。

大学は平日昼間、エンターテインメント施設は夜間と休日、住宅は日常、ホテルは域外客を取り込みます。時間帯の異なる需要を組み合わせることで、街全体を一日、一週間を通して稼働させることができます。

つまり大学は、再開発そのものの主要な収益源ではなく、商業、住宅、ホテル、交通の価値を底上げするアンカー施設と考えると理解しやすくなります。

教育・文化機能には、大規模な民間再開発に公共性を付加する効果もあります。大学、図書館、講堂、公開講座などを地域へ開けば、単なる商業ビルや高層住宅の建て替えではなく、都市機能そのものを更新するプロジェクトとして位置付けやすくなります。

誘致先は近畿大学??

大学誘致の報道から連想される候補の一つが近鉄沿線に所在する近畿大学です。
近畿大学説を補強する材料 慎重に見るべき材料
東大阪キャンパスが近鉄沿線に立地 近鉄、近畿大学ともに誘致を公表していない
大阪上本町が都心側の主要ターミナル 東大阪キャンパスから学部を丸ごと移す合理性は乏しい
近鉄百貨店と包括連携協定を締結 他大学や複数大学による共同拠点もあり得る
産学連携、起業支援、情報発信に積極的 現時点で具体的な大学名は完全に未定
大学としての知名度・学生規模が大きい 東大阪キャンパスへの既存投資との整合性が必要
近畿大学の東大阪キャンパスは、近鉄大阪線・長瀬駅や近鉄奈良線・八戸ノ里駅を利用する近鉄沿線の大規模キャンパスです。近鉄百貨店と近畿大学は包括連携協定も締結しており、関係性という点では一定の接点があります。

ただし、既存学部を上本町へ大規模移転する可能性は高くないでしょう。近畿大学は東大阪キャンパスへ大規模な投資を続けており、本体キャンパスを空洞化させる合理性は乏しいためです。

仮に参画するとすれば、大学院・専門職教育、社会人向けリスキリング、産学連携・共同研究、スタートアップ支援、国際交流、公開講座、一部学部の都心型授業などを束ねた都心型サテライトキャンパスの方が現実的です。

一つの大学を丸ごと誘致するのではなく、複数大学、企業、研究機関が共同利用する教育・イノベーション拠点という形も考えられます。

百貨店は「複合高層化」へ?



近鉄百貨店上本町店を建て替える場合、現在と同じ多層型の百貨店をそのまま再現する可能性は低いでしょう。

近鉄百貨店は地域店について、百貨店機能を低層部へ集約し、中・上層階に専門店や外部テナントを導入する方向を進めています。建設費が高騰するなか、衣料品や家具などを多数の階に並べる従来型百貨店を新築する採算性は乏しいためです。

そこで考えられるのが、百貨店を低層部へ圧縮し、その上に教育、業務、住宅、ホテルなどを積み上げる複合開発です。
建物部分 有力な用途
地下・低層部 駅、バスターミナル、食品、化粧品、飲食、医療、生活サービス
低中層部 大学、図書館、講堂、文化・エンターテインメント施設
中高層部 オフィス、研究施設、都市型住宅、ホテル
周辺街区 広場、歩行者動線、谷町九丁目・鶴橋方面との接続
第2期 シェラトン都ホテル大阪の建て替え・再編
これは公表された計画ではありませんが、近鉄が示している戦略とは整合します。

高層化する最大の理由も、ランドマーク性そのものではなく土地利用効率です。駅直結の一等地に百貨店だけを再建するより、住宅やオフィスなど収益性の高い用途を重ねた方が、巨額の建設費を回収しやすくなります。

一方、現時点で建物の高さや階数は公表されていません。「第2のあべのハルカス」と呼べる規模になると決めつけるのは早計です。

1,300億円超、最大の壁は資金調達

上本町再開発の最終規模を決める最大の要因は、完成予想図ではありません。建設費、金利、資金調達、投資回収です。
指標・状況 内容
報道された総投資額 1,300億円超。ただし近鉄の正式決定額ではない
純有利子負債 2026年6月末で約1兆1,318億円
自己資本比率 23.8%
事業環境 建設費と金利が上昇。近鉄は開発規模と手法を再検証
不動産賃貸 2027年3月期第1四半期の営業利益は前年同期比27.8%増
ホテル事業 同期の営業利益は69.7%減
近鉄は2026年5月の資料で、外部資金の活用を含む「あらゆる手法」を検討するとしています。

この状況で、グループが全額を自己負担し、駅、百貨店、ホテルを一括して建て替える可能性は高くありません。

考えられるのは、共同事業者の参画、SPCの活用、住宅・ホテル部分への外部資本導入、完成後の一部持分売却などです。土地とターミナルの主導権は近鉄が維持しながら、投資負担を外部と分担する形が現実的でしょう。

足元では不動産賃貸事業の収益が伸びています。百貨店を効率化し、住宅やオフィスなどの長期収益を厚くすることは、再開発の採算性を高めるうえでも重要になります。

百貨店先行、ホテルは第2期か



開発順序も重要です。日本経済新聞は、百貨店の建て替えを先行し、その後にシェラトン都ホテル大阪を刷新すると報じています。

この順序には合理性があります。百貨店街区で新しい床を先に確保できれば、既存施設の営業を続けながら機能を移転し、その後にホテル街区を再整備できます。一帯を一度に閉鎖する必要がなく、営業面・資金面双方のリスクを抑えられます。
時期 想定される動き
2026~2028年度 用途構成、大学・事業者、共同事業者、資金調達方式を決定
2029~2030年代前半 都市計画、基本・実施設計、移転計画、解体準備
2030年代半ば以降 百貨店街区を中心とする第1期開業
2030年代後半以降 ホテル街区など第2期整備
2028年度は開業時期ではなく、具体構想を固める期限です。

今後、都市計画や設計、テナント交渉、既存施設の移転などが必要になることを考えると、本格的な開業は2030年代半ば以降となる可能性があります。

上本町はどんな街に変わるのか

上本町再開発で最も可能性が高いのは、百貨店を低層部に残し、大学と文化・エンターテインメントで人流をつくり、住宅、ホテル、オフィスなどの不動産で採算を確保する、文教・住宅都市型の複合ターミナルです。

その基盤にあるのは、近鉄がターミナル周辺に保有する約3万㎡超の土地、駅直結の交通利便性、上町台地の住宅ブランド、周辺の高所得世帯、そして長期的な賃貸需要です。

2019年には、万博・IRを追い風に観光客を近鉄沿線へ送り出す「ゲートウェイ」を目指していました。現在は、住民、学生、企業、来街者が日常的に滞在する都市へと、構想の重心が移っています。

今後の焦点は、どの大学・教育機能を導入するのか、百貨店とホテルをどの順序で建て替えるのか、誰が資金を出すのかの3点です。

今回の「大学誘致」発言は、長年構想段階にあった上本町再開発が、単に建物の規模や高さを議論する段階から、「上本町をどのような街に変えるのか」を具体化する段階へ進み始めたことを示しています。




主な出典

  • 共同通信「近鉄HD、上本町に大学誘致意欲」
  • 近鉄グループホールディングス「近鉄グループ経営計画」2019年資料
  • 近鉄グループホールディングス「長期ビジョン2035・中期経営計画2028」
  • 近鉄グループホールディングス 2025年11月決算説明資料
  • 近鉄グループホールディングス 2026年5月決算説明資料
  • 近鉄グループホールディングス 2027年3月期第1四半期決算説明資料
  • 近畿大学・近鉄百貨店「包括連携協定」関連資料

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