
大阪のハイグレードオフィス市場が、新たな価格水準に到達しました。
不動産サービス大手のCBREが2026年10月27日に公表した「ジャパンオフィスマーケットビュー2026年第3四半期」によると、大阪のグレードAオフィスの想定成約賃料は月額坪3万150円となり、調査開始以来初めて3万円を突破しました。
建設資材や人件費の高騰によって、全国各地で大型再開発の採算性が悪化しています。こうした状況でのオフィス賃料上昇は、単なる不動産市況の変化にとどまりません。大阪の再開発が今後も続くための、重要な条件になり得る動きです。
大阪のグレードAオフィス賃料、1年間で16%上昇

CBREの調査では、大阪のグレードAオフィスの賃料が前年同期の2万6,000円から3万150円へ上昇しました。前年同期比16.0%、前期比3.4%の上昇です。
| 指標 | 2025年7〜9月期 | 2026年7〜9月期 | 変化 |
|---|---|---|---|
| グレードA賃料 | 26,000円/坪 | 30,150円/坪 | +16.0% |
| グレードA空室率 | 2.9% | 2.6% | −0.3ポイント |
| 大阪全体の賃料 | 14,760円/坪 | 15,940円/坪 | +8.0% |
| 大阪全体の空室率 | 2.3% | 2.0% | −0.3ポイント |
ここで注意したいのは、3万円突破が大阪のオフィス全体を示すものではない点です。
CBREの「グレードA」は、立地、規模、築年数、建物性能などを基準に独自選定したハイグレードオフィスです。2026年9月末時点の大阪の対象は34棟。今回の数字は、大阪のオフィス市場の中でも上位に位置する物件群の賃料水準を表しています。賃料上昇を牽引しているのは、築浅の大型ビルが集まる梅田エリアです。企業のオフィス環境改善や拠点集約への需要が、高額賃料を支えています。
ただし、2026年第3四半期は新しいビルへの移転に伴う二次空室も発生し、グレードAの空室率は前期の2.4%から2.6%へわずかに上昇しました。賃料は力強く上昇しているものの、すべてのビルが同じように好調というわけではありません。
建設費高騰で、従来の再開発モデルが成立しなくなっている

今回の賃料上昇を考えるうえで欠かせないのが、建設コストの急騰です。野村不動産ソリューションズと不動産経済研究所が実施した建築費調査では、回答企業の認識を基に算出したオフィスビル建築費が、4年前と比較して76.9%上昇しました。
建築費の最も回答が多かった価格帯は、坪240万〜260万円です。労働力不足による人件費や設備工事費の上昇が、開発事業の大きな負担となっています。
実際に、全国では大型再開発の中止や見直しが相次いでいます。
| 都市・プロジェクト | 建設費高騰による影響 |
|---|---|
| 福岡・博多駅空中都市 | 線路上空という施工条件の難しさに工事費高騰が重なり、事業採算が成立せず2025年9月に計画中止 |
| 名古屋駅地区再開発 | 人材確保難による施工予定者の入札辞退や工事費増大を受け、2025年12月に着工・竣工時期を未定へ変更 |
| 東京・中野サンプラザ再開発 | 物価・人件費高騰で事業費が増大し、2024年に施行認可申請を取り下げ。従来計画を見直し、再整備方針を再検討 |
建設費の上昇を、将来の賃料収入や不動産価値の上昇によって回収できるか。 これが現在の再開発を左右する大きな判断材料になっています。
東京は別格。高額賃料でも新築オフィスが埋まる

その一方、東京の都心一等地では、高額賃料を受け入れる企業需要が非常に強い状況です。CBREが調査した2026年7〜9月期のグレードAオフィス市場を比較すると、東京と大阪の違いが鮮明になります。
| 指標 | 東京 | 大阪 |
|---|---|---|
| グレードA賃料 | 47,550円/坪 | 30,150円/坪 |
| 前年同期比 | +19.6% | +16.0% |
| グレードA空室率 | 0.6% | 2.6% |
| 今後1年間の賃料上昇予測 | +12.1% | +8.0% |
賃料を大幅に引き上げても入居企業を確保できる。こうした需要の厚さが、東京の大型再開発を支えています。
東京・八重洲では、竣工前から大手企業の移転が決定

その具体例が、東京駅周辺で進む八重洲の再開発です。2026年2月には、東京駅に直結する地上51階建ての「TOFROM YAESU TOWER」が竣工しました。
さらに、2029年度竣工予定の「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業」では、2026年10月29日、トヨタ不動産が約1万3,000㎡のオフィスフロアを取得することを発表しました。同時に豊田通商は、2030年度を目途に東京本社を同地区へ移転することを決定し、賃貸借契約を締結しています。
| プロジェクト | 進展 |
|---|---|
| TOFROM YAESU TOWER | 2026年2月竣工。地上51階の大規模複合ビル |
| 八重洲一丁目北地区 | 2029年度竣工予定。トヨタ不動産がオフィス約1万3,000㎡の取得を決定 |
| 豊田通商の東京本社移転 | 2030年度を目途に移転。2026年10月に賃貸借契約を締結 |
東京でも中野のように計画が見直される一方、丸の内・大手町・八重洲・日本橋といった都心の優良立地では、大型オフィスへの投資と企業集積が続いています。
坪3万円突破は、大阪の再開発を支える力になるか

それでは、大阪の賃料上昇は今後の再開発にどの程度の効果をもたらすのでしょうか。
オフィス開発では、賃料が上がるほど将来の収入が増え、事業採算を改善させる方向に働きます。
例えば、賃貸可能面積1万坪のオフィスビルで、平均賃料を月額坪1,000円引き上げられた場合、年間の賃料収入は単純計算で1億2,000万円増加します。
| 条件 | 数値 |
|---|---|
| 賃貸可能面積 | 10,000坪 |
| 月額賃料の上昇幅 | 1,000円/坪 |
| 月間収入の増加 | 1,000万円 |
| 年間収入の増加 | 1億2,000万円 |
不動産の価値は、将来得られる収益によって評価されます。賃料が安定的に上昇すれば、ビルの収益力だけでなく資産価値の向上も期待できます。もちろん、今回の16%という賃料上昇率だけで、建設費高騰の影響を吸収できると判断することはできません。土地取得費、建設期間、金利、施工会社の確保なども採算性を左右します。
それでも、収入の前提となる賃料水準が上がることは、開発事業者にとって明確なプラス材料です。
大阪は新規供給が細る時代へ。再開発の選別が進む可能性

今後の大阪では、新規オフィスの供給量が減少する見通しです。JLLの2026年第3四半期レポートでは、同社の定義する大阪のグレードAオフィスについて、2027〜2030年に新規供給予定がないとしています。
日本不動産研究所も、供給減少を背景として、大阪のオフィス賃料が2026年に前年比5.5%、2027年以降も年3%前後上昇するとの予測を公表しています。
新規供給が少なければ、既存のハイグレードオフィスの希少性は高まります。一方で、将来の再開発が成立するためには、上昇した建設費を賄える賃料水準と、確実なテナント需要が必要になります。
今後は、梅田や淀屋橋などの優良立地を中心に、十分な賃料収入が見込める案件が優先され、収益性の低い計画は規模・用途・時期の見直しを迫られる可能性があります。
大阪の再開発は、これからが正念場

私はこれまで、建設費や人件費の急騰によって、大阪の大型再開発が失速するのではないかと危惧してきました。実際に、福岡や名古屋だけでなく、東京の中野サンプラザでも計画の見直しが起こっています。これまでと同じ発想で大規模な建物を計画し、従来の賃料水準を前提に事業を成立させることは、ますます難しくなっています。
一方、東京の都心部では、高額な賃料でも企業が入居し、再開発が続いています。建設コストが上がっても、それに対応する収益を見込める巨大な市場が存在するためです。
大阪は東京ほどの市場規模や賃料水準を持っていません。しかし、今回のグレードAオフィス賃料の3万円突破は、大阪でも建設コストの上昇を賃料に転嫁できる可能性が広がっていることを示しています。
すべての再開発が従来どおり進むとは考えていません。それでも、立地や用途を厳選し、十分な収益を確保できる案件については、東京ほどのペースではないにせよ、大阪でも再開発は続いていくと予想しています。
重要なのは、ビルを建てられるかどうかだけではありません。高い建設費を負担してでも、その場所に新しいオフィスを供給する経済的な価値があるのか。
今回の坪3万円突破は、大阪のハイグレードオフィス市場がその問いに一つの答えを示し始めた、重要な節目だと捉えています。
出典・参考資料
- CBRE「ジャパンオフィスマーケットビュー2026年第3四半期」
- CBRE「2026年第3四半期レポート全文(PDF)」
- 野村不動産ソリューションズ「高騰する建築費の実態と今後の見通し」
- JR九州「博多駅空中都市プロジェクトの計画中止に関するお知らせ」
- 名古屋鉄道「名古屋駅地区再開発計画等のスケジュール変更・見直し」
- 中野区「中野駅周辺のまちづくりに関するQ&A」
- 東京建物「TOFROM YAESU TOWER竣工」
- トヨタ不動産「八重洲一丁目北地区のオフィスフロア取得決定」
- 豊田通商「東京本社を八重洲一丁目北地区へ移転」
- JLL「オフィスマーケットダイナミクス2026年第3四半期」
- 日本不動産研究所「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測」
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