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東映アニメーション株式会社は、2025年8月26日付けのニュースリリースで、大阪市内に新たな制作拠点「大阪スタジオ」を設立すると発表しました。1956年の創立以来、同社は東京・大泉スタジオやフィリピン子会社を拠点に「ドラゴンボール」「ONE PIECE」「プリキュア」シリーズなど数々の作品を制作してきました。新拠点は梅田1丁目の イーマ (E-ma)ビル14階に開設。制作事業の拡充、関西圏での人材獲得、教育機関や地域との連携強化を目的としています。まずは背景美術部門を立ち上げ、将来的に大泉スタジオと同等の機能を備えることを目標にしています。常務取締役・製作本部長の山田喜一郎氏は「地方拠点の開設は急務。大阪スタジオには新しい挑戦を積極的に受け入れる文化を育みたい」と語っています。
なぜ大阪なのか?

東京に集中していた人材市場は競争が激化し、生活コストも高まっています。大阪に新たな拠点を置くことで、関西の厚い人材プールに直接アクセスできるようになります。梅田や難波から30分圏内には美術大学や専門学校が集積しており、若手を現地で育て、定着させやすい条件がそろっています。
背景美術からのスタート

出典:東映アニメーション
大阪スタジオが背景美術を中心に始動するのは、制作体制を安定させやすい領域だからと考えられます。背景は作品の世界観を規定する基盤であり、標準化やリモート制作との相性が良いからです。また、大阪や関西の都市景観・歴史建築・自然環境といった多様なビジュアル資産を直接取り入れやすい点も大きな利点といえるでしょう。
体験経済との接続

2025年の万博や2030年開業予定のMGM大阪など、関西は大規模な集客装置を抱えます。大阪スタジオの存在は、こうしたイベントや施設と連動してコンテンツを現地で「体験」として展開し、そのまま世界に発信していく流れと親和性が高いと見られます。制作と体験が地理的に近い場所で結びつくことで、都市そのものがアニメーションの発信拠点になる可能性があります。
インバウンドと大阪発コンテンツ

訪日客の増加によって、体験したことをSNSで発信し、それが再訪や新規来訪につながる構造が強まっています。大阪に制作拠点を構えることで、街並みや文化を即時に作品化し、世界へ届ける回路が強化されると考えられます。大阪発の情報発信は、これからさらに意味を持ってくるかもしれません。
少子高齢化を見据えた人材育成

日本全体でクリエイター人材の確保は難しくなっています。大阪スタジオは教育機関との連携を打ち出しており、学習から就業、生活までを一体的にサポートする仕組みが構築される可能性があります。関西圏の若者を現地で育て、そのまま定着させる仕組みは、将来的に人材流出を防ぐ役割を果たすと考えられます。
分散制作と事業継続性
災害やパンデミックといったリスクを踏まえると、東京に依存する体制は不安定です。大阪に背景美術を中心とした拠点を置くことで、制作の冗長化と事業継続性が高まり、安定的に作品を届けられる体制づくりにつながります。
まとめ
東映アニメーションの大阪スタジオは、
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東京一極集中を補完する制作拠点
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関西圏の人材育成と囲い込み
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MGM大阪や万博と連動する体験経済への接続
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インバウンド需要に応じた大阪発コンテンツの強化
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少子高齢化を見据えた長期的な人材確保
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分散制作による事業継続性の確保
こうした複数の要素を重ね合わせた拠点として構想されています。ニュースとしての事実は「大阪に新スタジオができる」という一点ですが、その背景を読み解くと、アニメ制作と都市戦略が重なり合う大きな動きが透けて見えてきます。