名古屋港管理組合は、名古屋港水族館の機能向上に向けた基本計画素案をまとめました。設備の老朽化、観覧環境の陳腐化、展示機能の更新不足を踏まえ、主要施設の改修と新設を段階的に進める方針です。事業手法には、複雑な設備更新を確実に進めるためECI(施工予定者事前協議)方式を採用。市民意見は12月16日まで受け付け、2026年3月に最終案を取りまとめる予定です。
計画の背景:老朽化の進行と展示環境の課題
名古屋港水族館は1992年に南館、2001年に北館が開館し、開業から20年以上が経過しています。水族館は特殊な冷却・空調・浄化設備を恒常的に稼働させており、老朽化が進むと故障が生体に影響するリスクが高まります。特に南極エリアでは凍結・結露が発生しており、適切な飼育環境の維持が難しくなっていました。
こうした状況から、
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設備の計画的更新
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展示の高度化
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安全と福祉の確保
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来館者の利便性向上
が急務となっていました。
再整備の中核:極地ペンギン飼育展示施設の新設
基本計画素案の中心には、極地ペンギン飼育展示施設の新設が位置づけられています。
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延床面積:約3,500㎡
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水量:約350トン
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対象種:エンペラー、アデリー、ジェンツー、ヒゲペンギン
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最新の飼育基準に基づく環境を整備
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行動特性に対応した立体構造
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陸上・水中の双方向観察が可能な展示形式
既存の南極エリアの課題を抜本的に解消し、将来的な繁殖にも対応する設計とします。
既存館の改修:南館3階・北館2階などを段階的に刷新
ペンギン移設後の南館3階は、南極や気候変動を学ぶ教育エリアとして再構築されます。体験型展示やデジタルコンテンツを組み合わせ、環境教育の強化を図ります。
北館2階の水中観覧席は、防水性能の改善、観覧環境の改良、授乳室やキッズスペースの整備などを実施します。館内の動線も見直し、混雑の緩和と利便性の向上を進めます。改修工事は閉館せずに進行し、完成したエリアから順次供用を開始します。
事業方式:ECI方式を採用する理由
今回の改修にはECI方式が採用されます。これは、設計段階から施工予定者が参画し、技術的提案を行う手法です。水族館の場合、
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生体への影響を抑えながら工事を進める必要がある
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専門的な設備設計が多く、設計と施工の連携が不可欠
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建設費高騰期に入札不調リスクを避ける必要がある
といった事情から、ECI方式が適した方式と判断されています。
考察:この整備が持つ都市戦略上の意味
1. 名古屋が抱えてきた「観光の弱点」を補う動き
名古屋は「観光資源が弱い」と評価されがちですが、実際には以下の施設が安定した来訪者数を持っています。
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名古屋港水族館(約240万人)
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名古屋城(約223万人)
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熱田神宮(年間約700万人)
課題は「都市を象徴する体験を外部に伝えきれていない」点にあります。大阪の海遊館のような“象徴化されたコンテンツ”が弱かったともいえます。
今回の計画で、極地ペンギンの新設と南極展示の更新は、名古屋港水族館の象徴性を強化する投資と位置付けられます。
2. 「極地ペンギン」による差別化
世界でもエンペラーペンギンの繁殖に成功している施設は多くありません。
名古屋港水族館が研究成果を積み上げれば、
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極地生物の研究拠点
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気候変動教育の先進施設
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国内外からの学術的評価の向上
といった独自のポジションが形成されます。
海遊館が「ジンベエザメ」で世界的知名度を獲得したように、名古屋は「極地ペンギン」で差別化を進める方向性が見えます。
3. ECI方式は「モデルケース化」を狙う動き

営業しながら水族館を改修するのは非常に難しく、ECIを使った成功例は業界の重要なプラットフォームとなり得ます。
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生体管理を維持
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巨大水槽の防水更新
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バックヤード機能の段階更新
これらを安全に実現できれば、今後全国で老朽化を迎える水族館の「参考モデル」として価値が生まれます。
愛知県は製造業・建設業が強く、技術成果を国内で展開できる可能性があります。
4. 名古屋港エリアの価値向上
名古屋港は単体施設が点在する構造で、魅力が“分散したまま”になりがちでした。
水族館の再整備は、周辺施設との回遊性を強め、エリアとしての滞在価値を高める効果があります。
大型テーマパークのような派手さはないものの、「点を面に変える」実務的な改善として評価できます。
将来の施設運営:民間活力の導入も検討
施設の運営や維持管理については、民間活力の導入も視野に入れています。指定管理者制度の活用や、包括的な委託手法などを検討し、適切な運営体制を構築する方針です。
名古屋港水族館の概要
出展:名古屋港水族館
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所在地:名古屋市港区港町1−3
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敷地面積:約56,000㎡
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南館:延べ約20,100㎡(1992年開館)
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北館:延べ約21,700㎡(2001年開館)
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メインプール:長さ60m・幅30m・最大水深12m
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総水量:約13,400トンの国内最大級プールを保有
まとめ:老朽化更新と都市戦略を兼ねた再整備
今回の再整備計画は、施設の課題解消だけでなく、
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動物福祉の向上
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教育拠点としての再定義
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名古屋港エリアの回遊性向上
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観光都市としての競争力強化
を同時に達成する内容となっています。
水族館の価値を次世代へ引き継ぐための、総合的な再構築が進められようとしています。
【出典元】









