出展:北陸放送(MRO)
金沢市本多町に位置する北陸放送(MRO)本社跡地の再開発が大きく動き始めました。12月9日の取締役会にて、三井不動産が優先交渉権者に選定されたことが報告され、歴史的庭園「松風閣庭園」を生かした富裕層向けラグジュアリーホテル構想が本格的に進みます。金沢の都市ブランド向上、北陸全体で不足する高級宿泊施設の補完、そして本多町文化ゾーンの価値強化。複数の課題を同時に解決する、地域の将来を左右する再開発となります。
1. 三井不動産を優先交渉権者に決定 官民連携で“文化 × 観光 × 都市再生”を推進
出展:Googleマップ
再開発の協議には、北國新聞社、北國新聞とCCIグループが設立した「地域未来創造」が参加し、行政との調整や事業スキームの策定を共同で進めます。さらに、赤坂再開発プロジェクトを進めるTBSホールディングスにも助言を求める方針で、メディア・都市開発・文化施設が連携する枠組みが形成されつつあります。
北陸放送の現社屋は築57年と老朽化が進み、放送設備更新期となる2030年をめどに解体。跡地はホテル建設地として活用され、新社屋は別途立地・規模を検討します。
2. 「松風閣庭園」という唯一無二の価値 金沢文化の中枢に位置する再開発地
出展:金沢市
再開発地は、金沢城公園・兼六園・21世紀美術館という金沢文化の中心エリアに隣接し、敷地内には市指定文化財の名勝 「松風閣庭園」 が現存します。
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加賀藩重臣・本多家の由緒ある名園
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政財界の迎賓空間として活用された歴史
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市民の文化的記憶が刻まれた場所
この庭園の存在こそが、今回のホテル構想の核であり、「金沢らしさ」を宿泊体験として昇華するための最重要資産です。三井不動産は、庭園景観を保全しながら、“庭園 × 宿泊 × 文化体験” を統合した高付加価値型ホテルを計画する方針です。
3. 北陸で進む宿泊施設不足 2030年に最大378室のラグジュアリーホテルが不足へ
日本政策投資銀行(DBJ)の調査では、北陸三県は国際水準のラグジュアリーホテルが著しく不足しており、2030年までに最大378室不足と推計されています。DBJが定義するラグジュアリー(LH)は、
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5スターホテル(リッツ、コンラッド、パークハイアット等)
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4スターホテル(マリット、ヒルトン等)
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高級旅館
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ユニーク体験型宿泊施設
金沢中心部は旅館が多い一方、ホテル型のLHは極めて少数です。
結果として、
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富裕層旅行者の“滞在地選択”で京都や東京に劣後
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地域経済の機会損失
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長期滞在化が進まない
などの課題が発生しており、今回の再開発はその「構造的空白」を埋める役割を担います。
4. 三井不動産のラグジュアリーホテル戦略
HOTEL THE MITSUI KYOTO:筆者撮影
三井不動産は国内外で複数のトップブランドと組み、ラグジュアリーホテルを展開しています。代表的なものは以下の通り:
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HOTEL THE MITSUI KYOTO(マリオット「ラグジュアリーコレクション」)
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HOTEL THE MITSUI 箱根(計画中)
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ハレクラニ沖縄
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ブルガリホテル東京
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フォーシーズンズホテル東京大手町
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アマネム(伊勢志摩)
ここに共通する三井不動産の戦略は、「文化・歴史・自然という土地固有の価値を、世界水準の宿泊体験に変換する」というものです。
特にHOTEL THE MITSUIは、
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京都=二条城の借景と庭園
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箱根=温泉地と自然景観
といった「場所性」を強みにしており、“庭園一体型ラグジュアリー”を最も得意とするブランドです。
金沢がHOTEL THE MITSUIに“最適”といえる理由

HOTEL THE MITSUI KYOTO:筆者撮影
松風閣庭園の存在は、京都・箱根と並ぶ特性を備えています。
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庭園を核としたホテル体験の設計が可能
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金沢文化の中心地という立地的価値
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北陸唯一のラグジュアリーコレクション級ホテルとして成立
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小規模で高品質という市場特性と一致
これらを踏まえると「金沢は HOTEL THE MITSUI が最も有力」と思われます。北陸初のラグジュアリーコレクションが生まれる可能性は十分にあります。
5. 高単価ホテルがもたらす地域経済効果 宿泊単価だけでなく文化・飲食・交通へ波及
ウォルドーフアストリア大阪:筆者撮影
富裕層旅行者は訪日客全体の数%に過ぎませんが、旅行支出は平均 136万〜162万円 と一般客の9~12倍に達します(JNTO・DBJ)。
ラグジュアリーホテルは、
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滞在期間の長期化
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地元料亭・工芸・文化体験との連携強化
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雇用の質的向上
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文化施設とのイベント創出
といった波及効果をもたらし、地域経済を底上げする存在になります。
6. 金沢の未来を描く新ランドマークへ
今回の再開発は、「文化資産の継承 × 観光再構築 × 都市ブランド向上」を同時に実現する、金沢にとって象徴的なプロジェクトです。松風閣庭園を守りながら、新しい価値を創出する三井不動産の開発手法は、本多町を“文化と滞在の中心地”へと押し上げる可能性を秘めています。ホテルブランド、設計コンセプト、開業時期など、今後の発表が大きく注目されます。
出典元
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日本政策投資銀行(DBJ)宿泊施設調査
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日本政府観光局(JNTO)富裕層旅行者調査








