観光庁は17日、カジノを含む統合型リゾート(IR)の残り2枠について、2027年5月から11月にかけて区域整備計画の申請を受け付けると発表しました。
IR整備法では最大3カ所の整備が認められていますが、2023年に大阪・夢洲地区が認定されて以降、残る2枠は空席のままとなっていました。今回の再公募は、停滞していた制度を再び動かす転換点となります。
IR残り2枠の再公募決定
IR整備は、都道府県や政令指定都市が民間事業者と共同で区域整備計画を策定し、国の認定を受ける仕組みです。今回の政令改正案では、申請期間を「令和9年(2027年)5月6日から同年11月5日まで」と定め、2026年1月16日までパブリックコメントを実施します。形式的には制度運用の延長ですが、実質的には「次のIRをどう位置づけるのか」という政策判断が問われる局面に入ったと言えます。
大阪のみ認定、長崎は不認定 一度止まった制度の経緯
前回の公募は2021年から2022年にかけて実施され、大阪府・市と長崎県の2件が申請しました。2023年4月に大阪が認定された一方、長崎は資金調達や事業規模の不透明さを理由に、同年12月に不認定となりました。
結果として、最大3区域とされた制度は、大阪1区域のみが残る形となり、IR整備は事実上の足踏み状態が続いてきました。今回の再公募は、この停滞を解消するための再起動でもあります。
地方IRの現実「関心」はあっても越えられない壁
IR誘致に関心を示す自治体は依然として存在します。北海道では苫小牧市や函館市が関心を再表明し、道知事も前向きな姿勢を示しています。しかし、巨額の投資負担、環境問題、住民合意の形成といった課題が重くのしかかります。
一方、和歌山県や沖縄県は、住民合意や資金面の問題から既に撤退しました。地方自治体にとって、IRは「やりたい事業」であっても、「成立させる事業」としては極めて難易度が高いのが実情です。
首都圏向けに最適化された制度設計
この背景には、IR整備法の制度要件があります。同法では、ホテルの客室延床面積10万平方メートル以上、国際会議場(MICE)の併設などが求められています。
これらの要件は、理念上は全国共通であるものの、実際には大都市圏でなければ満たしにくい基準です。制度は地方創生を掲げながら、構造的には大都市向けに最適化されている。この矛盾が、これまでの結果にそのまま表れています。
建設費高騰が浮き彫りにする「収益立地」重視
さらに近年は、建設費の高騰が大規模開発全体に影響を及ぼしています。名鉄名古屋駅の再開発が建設費高騰を理由に延期されるなど、コスト増は全国共通の課題となっています。
建設費は都市部と地方で大きな差が生じにくいため、同じ投資をするなら、より収益が見込める立地が選ばれる傾向が強まります。この環境下では、地方よりも市場規模の大きい都市圏が相対的に有利になります。
首都圏浮上「後発参入」という戦略的優位
出展:東京ベイエリアビジョン 官民連携チーム
こうした条件を踏まえると、専門家の間では首都圏、特に東京が後発として参入する可能性が指摘されています。東京は市場規模、国際空港へのアクセス、インフラ整備の面で、IR事業の収益性において最も有利な条件を備えています。
加えて、大阪IRの進展を見極めた上で参入できる点は、後出しで制度と市場を分析できる戦略的優位とも言えます。もっとも、ギャンブル依存症への懸念や住民合意の形成といった政治的ハードルは依然として高く、実現の可否は不透明です。
分岐点に立つIR制度。理念と現実をどう埋めるか
2027年の再公募は、単なる追加募集ではありません。地方創生という理念と、首都圏集中という現実のどちらを制度として選び取るのかが、改めて問われる局面です。
IR整備は日本の観光立国政策の柱の一つと位置づけられていますが、その推進には経済合理性と社会的合意をいかに両立させるかという難題が残されています。残り2枠の行方は、IR制度そのものの「本音」を映し出す試金石となりそうです。
【出典元】
→観光庁>「特定複合観光施設区域整備法第九条第十項の期間を定める政令の一部を改正する政令案」に関するパブリックコメントを実施します







