2025年12月17日、関西エアポート株式会社は、関西国際空港における国際貨物地区改修プロジェクト「Cargo Next→~次の30年を動かす。~」を開始すると発表しました。1994年の開港から31年を迎えた同空港が、将来の貨物需要拡大を見据え、貨物分野で過去最大規模の投資に踏み出します。
20年以上続いた「伸びない」貨物取扱量
関西国際空港の国際航空貨物取扱量は、2000年代半ばまで拡大したものの、その後は年間70万トン~80万トン前後で長期的に横ばいの状態が続いてきました。2006年には75.4万トンを記録しましたが、それ以降は大きな成長が見られず、近年も月間約6万トン、年換算で70万トン台という水準にとどまっています。
外部環境を見れば、Eコマースの拡大や医薬品物流の高度化など、航空貨物にとっては追い風が続いてきました。それにもかかわらず関空の取扱量が伸びなかった点は、長年の疑問でもありました。
「貨物上屋はほぼ満床」公式資料が示した構造的制約
今回公表されたプロジェクト資料では、その理由が明確に示されています。「貨物上屋はほぼ満床」という現状認識です。
つまり、関空の貨物が伸びなかったのは需要がなかったからではなく、物理的に受け入れる余地がなく、新規需要を取り込めない状態が続いていたという構造的問題があったことになります。実際、貨物施設は開港以来30年以上が経過し、老朽化も進行していました。上屋面積が固定されたままでは、EC向けの大量処理や、厳格な温度管理が求められる医薬品貨物への対応にも限界があったと考えられます。
「潜在需要40%」が示す機会損失
さらに注目されるのが、「関西で発生する貨物の約60%しか関空で取り込めていない。残り約40%が潜在需要」という分析です。
これは、キャパシティ不足を背景に、関西発の貨物が成田空港や海外ハブ空港へ流出していた可能性を示唆しています。過去20年以上続いた横ばいは、「市場が成長しなかった」のではなく、「施設が足りず、需要を取りこぼしていた」結果だったと読み取れます。
課題解消に向けた5つの戦略的柱
こうした状況を踏まえ、Cargo Next→は以下の5つの柱で構成されます。
1.上屋面積の拡張・施設リノベーション
段階的な投資により、上屋面積を最大50%拡張することを目指します。
短期的にはまず約5%の増床を実施し、同時に施設のリノベーションも検討します。
2.効率性の向上
DXや自動化技術の導入を進め、貨物処理の高度化を図ります。
エリア内での上屋再配置も行い、オペレーション全体の効率化を目指します。
3.KIX Cargo Communityの強化
航空会社、物流事業者、荷主などステークホルダーとの連携を強化し、
ユーザーフレンドリーな貨物地区の形成を進めます。
4.労働環境の改善
慢性的な人手不足を背景に、通勤・食事環境などを改善し、
「KIXで働きたい」と思える職場環境づくりに取り組みます。
5.持続可能でエコフレンドリーな運営
電動トラック用の充電設備整備など、脱炭素化を推進します。
水素を活用した環境対策の検討も進める方針です。
医薬品・ECという成長市場を見据えて
高齢化や生活様式の変化を背景に、医薬品物流とEコマース物流は今後も成長が見込まれる分野です。関西国際空港は、今後10~15年の優先事項として、
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西日本の航空貨物ゲートウェイの実現
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医薬品輸送における日本最高品質のサービス提供(KIX Medica機能の強化)
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EC需要を含む主要市場でのポジション強化
を掲げています。航空機から上屋まで一貫したクールチェーンを構築し、多様な貨物ニーズに対応していく考えです。
「横ばい」の時代から次の30年へ
今回の国際貨物地区改修プロジェクトは、関空の貨物事業が長年抱えてきたキャパシティ制約というボトルネックを解消するための再スタートと位置づけられます。
20年以上続いた取扱量の横ばいは、結果として“停滞”に見えていましたが、その実態は物理的限界に縛られた状態でした。施設更新と機能強化によって、関西国際空港が貨物分野でどこまで存在感を取り戻せるのか。「次の30年」を見据えた取り組みの行方が注目されます。
【出典元】
→関西国際空港 国際貨物地区改修プロジェクト~Cargo Next→次の30年を動かす。~





