【後編】香港国際空港をじっくり見学!世界第一級のターミナルを歩いて解った『エアサイド(セキュリティエリア内)』の完成度を見る


トップティアの世界都市を見学するシリーズ。前編では、香港国際空港T1の出発・到着ロビーを中心に、ランドサイド空間の完成度を見てきました。後編では、ボディチェックと出国手続きを抜けた先のエアサイド(セキュリティエリア内)を、利用者の動きに沿って見ていきます!

巨大ハブ空港にとって、このエリアは単なる搭乗待合ではありません。乗継客を含む多くの利用者が、移動し、食事をし、休み、買物をしながら搭乗を待つ場所です。言い換えれば、空港の使いやすさが最もよく表れる部分でもあります。

香港国際空港は2025年に旅客数6,100万人、発着回数394,730回、航空貨物取扱量507万トンを記録しました。これだけの規模になると、セキュリティ後の空間がどこまで機能的に整っているかで、体験の質は大きく変わってきます。

ハブ空港の価値、エアサイドに求められる事は?



ハブ空港のエアサイドエリアに求められる条件は、はっきりしています。

1:保安検査から搭乗までが速く、わかりやすいこと。
2:短時間乗継でも迷いにくく、遠いゲートにも確実に移動できること。
3:長時間滞在する旅客に、食事、休憩、シャワー、仕事の場を用意できること。


さらに、24時間動く空港では、時間帯を問わず一定水準の飲食やサービスが維持されていることも欠かせません。香港国際空港T1のエアサイドは、こうした条件をかなり丁寧に満たしています。ここを単なる制限区域としてではなく、乗継空港として必要な機能を束ねた空間として見ると、特徴がかなり理解しやすくなります。

顔パス導入で出発手続きの摩擦が小さい設計


セルフチェックイン、手荷物預け、保安検査、搭乗を顔パスで行える (出展:香港国際空港) 

香港T1の出国体験は、手続きの段階から良い印象でした。香港国際空港は、顔認証を活用する「Flight Token」を導入しており、対象旅客は手荷物預け、保安検査、搭乗までを顔パスでシームレスに進めることができます。出発案内でも、e-Boarding Gatesを使った搭乗が示されており、チェックインから搭乗までの流れを、顔パスでできるだけ途切れさせない仕組みが整備されています。

巨大空港では、行列の長さそのものよりも、途中で流れが止まることのほうが強いストレスになります。何度も立ち止まり、判断し、進路を探す構造だと、それだけで空港は使いにくくなります。香港T1は、この「止まりにくさ」をかなり意識して整備されています。

保安検査ではスマートセキュリティの導入も進められており、保安検査のスピードアップも図られています。Skytraxが到着・出発・乗継の効率性を高く評価しているのも、この点と重なります。

保安検査を抜けると、空港の本番が始まる

香港T1の実直さは、保安検査を抜けたあとに、よりはっきりしてきます。多くの空港では、ここから先は搭乗までの待ち時間を過ごす空間になりがちです。しかし、香港T1の制限区域は、飲食店、物販、ラウンジ、休憩設備が連続的に配置され、さらに遠く離れたコンコースへ向かうAPM(Automated People Mover)まで一体的に組み込まれています。

エアサイドに着いてまず感じるのは、出国後の時間が「退屈な空白の時間」ではなくなることです。何もない場所で搭乗を待つのではなく、飲食、休憩、買物、移動という複数の選択肢が目の前に並んでいます。

ハブ空港にとって重要なのは、速く通すことだけではありません。以前から評価の高い空港には、エアサイド側の施設が充実しているという共通点があり、近年はその傾向がさらに強まっています。大きなハブ空港では、通過後の時間を楽しみに変えられるかが特に重要になります。

多くの富裕層を引きつける香港という都市の一面を映す鏡

香港T1のエアサイドで特に象徴的なのが、East Hallのラグジュアリーゾーンです。ここにはCHANEL、Hermès、Louis Vuittonの2階建て店舗が並び、香港国際空港は、この3ブランドのデュープレックスストアを1つの空港内にそろえた世界初の空港と紹介されています。制限区域内にありながら、都心の高級商業施設にかなり近い空気感を備えている点は、多くの富裕層を引きつける香港という都市の一面を映す鏡のようです。

エアサイドにあるシャネルの2階建て店舗の様子です。もう、すごすぎます。並の大都市の都心でも見かけないハイブランドのデュープレックス店舗が、CHANEL、Hermès、Louis Vuittonと3ブランドそろい踏み。本当に圧倒されます。その他にも、心斎橋や銀座にあるハイブランドの多くが香港国際空港に勢ぞろいしていました。

フードコートは、都市の余韻を出発前にもう一度感じさせる場

一方で、香港T1の魅力は高級ブランドだけではありません。飲食の核となるフードコートゾーンにはYung Kee、Nippon Ramen、Burger King、Popeyes、Crystal Jadeなど、香港らしさと実用性を兼ね備えた店が並びます。特にNippon Ramenは短時間での提供を打ち出しており、待ち時間が限られる場面でも使いやすいです。

しかもEast Hallの飲食空間は、改装を通じて雰囲気の向上、料理ジャンルの多様化、座席数の増加が進められてきました。フードコートは、高い実用性を備え、待ち時間を快適にしながら、食を通じて香港という都市の余韻を出発前にもう一度感じさせる場になっています。

一方で、日本の先進性を取り込んでいるような感覚もありました。巨大なイオンモールのフードコートに通じる雰囲気やつくりを感じる場面があったからです。日本が先行してきた空間運営の要素を、世界第1級のハブ空港が学び直し、磨き上げて展開している。その点も興味深く感じられました。

空港の断面設計の巧さに驚く

商業空間を抜け、APM(Automated People Mover)乗り場へ向かうあたりで、香港T1のもう一つの特徴が見えてきます。本館エアサイドの重層構成です。香港T1は平面的に広いだけではありません。断面方向にもかなり巧みに整理されています。

上層には自然光が入る明るい出発空間が広がり、その下の層に到着処理や手荷物関連機能が収まり、さらに下層に交通機能が潜り込む構成です。Foster + Partners は主コンコース下に手荷物処理、設備、交通機能を統合したと説明しており、Mott MacDonald も東端部を出発ホール、到着ホール、手荷物処理などを収めた多層建築として紹介しています。

出展:bachy-soletanche.com

実際、到着案内ではT1の到着ホールはLevel 5、Midfield Concourse到着客はLevel 1のAPMでEast Hallへ移動したうえでLevel 5へ進む流れとなっています。上の明るい出発空間と、その下で処理される到着・移動機能が明確に分かれています。

面白いのは、この複雑さが利用者にはあまり重く感じられないことです。香港T1は、複雑な空港機能を断面の中にのみ込み、利用者にはシンプルに見せる設計を採っています。これが、「巨大なのにわかりやすい」と感じる理由の一つです。

APMは、巨大空港の弱点をそのまま弱点にしない

この重層構成のわかりやすい象徴が、APM(Automated People Mover)です。APMはT1本館、Midfield Concourse、SkyPier Terminalを結び、空港公式では時速約60km、毎時約7,200人を運ぶ仕組みとして案内されています。巨大空港では、ゲートが遠いこと自体は避けにくいですが、問題はそれを旅客の負担として残すかどうかです。香港T1は、その部分をかなり丁寧に処理しています。

香港T1は、広い空港でありながら、その広さをそのまま利用者の負担にしていません。APMや階層ごとの明快な動線計画によって、巨大空港にありがちな移動の長さやわかりにくさを抑えています。


(出展:香港国際空港) 

極めつけは、Sky Bridgeです。これは単なる連絡通路ではなく、空港景観そのものを楽しめる空間として整備されています。

Sky Bridgeは、第1ターミナル(T1)と第1サテライトコンコース(T1S)を結ぶ歩道橋で、エスカレーターと自動歩道を備えています。全長200m、幅20m、地上28mの高さに位置し、世界最長のエアサイドブリッジとされています。橋の下は、最大級の旅客機であるA380(コードF)が通過可能です。

外装ガラスやガラス床も設けられており、足元を航空機が通過するという、空港ならではの体験ができます。さらに、空港全体を見渡せるパノラマビューも広がっており、空港内でも特に印象に残る場所の1つになっています。展望デッキや飲食店、ショップも段階的に整備されており、移動の途中にも楽しみを持たせる構成になっていました。

つまり香港T1は、広さを負担として感じさせるのではなく、移動そのものをできるだけ快適で印象的な時間に変えるように空間がつくられているように感じました。

搭乗待合エリアまで、明るく整理されている

そして最後に効いてくるのが、搭乗待合エリアまで空間の質が落ちないことです。巨大空港では、ターミナル中心部は立派でも、ゲート周辺へ行くほど空間が単調になったり、閉塞感が強くなったりすることがあります。

香港T1では、出発空間から制限区域、移動空間、搭乗待合エリアに至るまで、明るさと整理された印象が続きます。だからこの空港は、単に処理能力が高いだけでなく、最後まで「使いやすい空港」として記憶に残りやすいのだと思います。

この後編から見えてくること

まず見えてくるのは、空港の評価は保安検査前よりも、むしろ保安検査後の空間に表れやすいということです。出発ロビーが立派な空港は少なくありませんが、セキュリティ後の空間まで丁寧に設計されているかどうかで、利用者が受ける印象は大きく変わります。

また、巨大空港の価値は「広いこと」そのものではなく、その複雑さを利用者に感じさせにくいことにあるように思います。「早く通れる」ことと「その先が快適である」ことは別の価値であり、その両方がそろってこそ、空港全体の完成度は高まります。

ラグジュアリーゾーンとフードコートは、空港の商業施設が単なる売店ではなく、都市の魅力を凝縮して伝える場にもなり得ることを示しています。そしてAPMやSky Bridgeの存在は、空港の広さそのものではなく、広さをどう負担なく乗りこえられる形にしているかが差になることを感じさせます。

香港国際空港T1を歩いてみると・・・


良いエアサイドとは何か。
ハブ空港は何で競っているのか。
巨大なのにわかりやすい空港は、どう設計されているのか。



そうした判断軸そのものが見えてきました。

香港T1が乗継空港として選ばれる理由

香港T1のセキュリティエリア内は、手続きの摩擦を減らし、その先に飲食、休憩、買物、乗継移動といった選択肢を厚く配置することで、待ち時間そのものを価値に変える空間として機能しています。しかも全体は、平面だけでなく断面でも整理されており、複雑な機能を内部に抱え込みながら、利用者にはわかりやすく見えるよう工夫されています。

前編で見たランドサイドのわかりやすさは、後編のエアサイドにおける滞在価値や内部移動のしやすさへとつながっていました。香港T1は、巨大空港に必要な複雑な機能を内部で処理しながら、利用者にはシンプルに感じさせる。その意味で、完成度の高いハブ空港の1つだと感じました。






出典

  • Hong Kong International Airport 2025年実績リリース
  • Hong Kong International Airport 公式サイト・出発案内・Flight Token・24時間営業案内・Resting Lounges・Airline Lounges・APM案内
  • Hong Kong International Airport 商業・ラグジュアリーゾーン紹介
  • Skytrax Ratings

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