「(仮称)箕面船場東一丁目賃貸ラボプロジェクト」東京建物初の賃貸ラボ事業が示す、ライフサイエンス拠点戦略の現在地


東京建物は2026年2月7日、大阪府箕面市において、同社初となる賃貸ラボ・オフィス事業「(仮称)箕面船場東一丁目賃貸ラボプロジェクト」を着工しました。本プロジェクトは、大学発スタートアップ企業や、製薬・化粧品・食品メーカーなどの研究開発拠点を主な入居対象とし、実験ラボとオフィス機能を一体で提供する研究開発特化型施設です。

政府が2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付けて以降、日本国内ではスタートアップ振興策が加速しています。その中でも、創薬・再生医療・バイオテックを含むライフサイエンス分野は、高度な実験設備や厳格な安全基準が求められることから、参入障壁が高い分野とされてきました。

こうした背景を踏まえると、賃貸型ラボ施設の整備は、大学発シーズの事業化や研究成果の社会実装を進める上で不可欠な基盤といえます。東京建物も公式に「大学発シーズの事業化支援やスタートアップ・エコシステムの強化」を掲げており、本計画は研究環境とビジネス交流の双方を包括的に支援することを目的とした取り組みと読み取れます。

優れた交通利便と都市政策の追い風


北大阪急行延伸がもたらした立地価値の転換

計画地は、北大阪急行線の延伸によって新設された「箕面船場阪大前」駅から徒歩約8分の場所に位置しています。同路線は大阪メトロ御堂筋線と直通運転を行っており、同駅から「新大阪」駅まで約16分、「梅田」駅まで約23分と、大阪都心部へのアクセス性が大きく向上しました。

大阪府および箕面市も、この延伸効果について「大阪の大動脈である御堂筋線と直結することで南北軸が強化され、大阪全体の活性化につながる」と位置付けており、本事業は交通インフラ整備と都市政策の追い風を同時に受けるタイミングで進められています。

箕面船場エリアの変化と「知の集積地」としての成熟

箕面船場エリアは、昭和40年代に繊維卸商団地として基盤整備された業務系エリアですが、近年は再開発が進行しています。北大阪急行線延伸を契機に、駅周辺では住宅、商業施設、劇場などを含む複合開発が進み、公共・文化インフラも段階的に整備されてきました。

特に駅前では、PFI事業として文化芸能ホール、市立図書館、生涯学習センターが整備され、図書館には大阪大学の蔵書約60万冊が収蔵されています。これらの施設は、大学関係者、研究者、地域住民が日常的に交わる拠点となっており、研究・学習・交流が重なり合う環境が形成されつつあります。

このような背景は、本賃貸ラボ事業にとっても追い風です。大学の知的資源や研究拠点が周辺に集積していることで、日常的な情報交換や知見の共有が起こりやすく、箕面船場エリアは**「知の集積地」としての優位性**を高めています。

東京建物の事業戦略と地域への関与

東京建物は本プロジェクトを、2030年を見据えた長期ビジョン「次世代デベロッパーへ」における新規事業戦略の一環に位置付けています。近年同社は、データセンター開発、都市公園PFI、都市型スポーツ施設、空間メディア事業など、従来のオフィス・住宅開発にとどまらない分野へ事業領域を拡張しています。

本件は、その中でもインフラ・産業領域に踏み込む象徴的な取り組みといえます。さらに東京建物は、箕面市内で本物件に続く第2号賃貸ラボ事業用地もすでに確保しており、エリア内での継続展開を視野に入れています。

同社はこれまでにも、箕面船場エリアで分譲マンション「Brillia Tower 箕面船場」「W TOWERS 箕面船場」の開発や、文化施設のネーミングライツ取得(「東京建物Brillia HALL 箕面」)など、住宅・文化・都市機能の各分野で投資を重ねてきました。本プロジェクトは、これら既存資産とのシナジーを通じて、エリア全体の価値を引き上げる役割を担うものと考えられます。

施設仕様と提供サービスの特徴


研究開発に特化した「即時稼働型」設計

本計画では、研究開発型企業の多様なニーズに応えるため、細やかな施設設計が採用されています。

貸室面積は最小約20坪から最大約240坪まで対応可能で、創業初期の小規模利用から、成長後の増床までを想定しています。実験室仕様としては、BSL2対応、局所排気装置設置スペース、給排水配管、電気容量300VA/㎡(一般的なオフィスの約3倍)を備える予定です。

また、1階には共用ラウンジを設置し、産学官交流やスタートアップ支援イベントの開催を想定しています。館内にはラボ用品の取扱店舗も併設予定で、日常的な実験機器や消耗品を迅速に調達できる環境が整えられます。

これらの設計は、大学発ベンチャーや研究者が**「すぐに研究を始められる」ことを重視したもの**であり、賃貸ラボが持つ即時稼働性や柔軟な増床対応といった利点を最大限に活かしています。

スタートアップ支援と「摩擦最小化」という視点

賃貸ラボ事業が注目される背景には、研究型スタートアップが直面する構造的課題があります。実験設備への初期投資、人材確保、研究拠点の分散といった負担は、事業立ち上げ期の大きな障壁です。

本物件のように研究拠点とオフィス機能を集約することで、こうした物理的・経済的・時間的摩擦を低減する効果が期待されます。交通利便性の高い立地は研究者の移動コストを抑え、レンタル形式による設備利用は初期投資を抑制します。さらに共用ラウンジを通じた交流機会は、情報やアイデアの流動性を高め、オープンイノベーションを後押しします。

これらは総合的に見ると、「摩擦最小化」を意識した研究開発環境の設計と捉えることができます。

立地の三次元最適化という考え方

本計画の立地戦略は、単なる地理的条件にとどまりません。


  • 水平方向では、大阪都心部や大学キャンパスへの近接性

  • 垂直方向では、13階建て建物内で研究室とオフィスを重層的に配置する高密度利用

  • 時間軸では、北大阪急行延伸やバイオ関連投資促進といった政策・社会動向との同期

これらを同時に成立させることで、立地・建物・開発時期を統合的に最適化しています。この「三次元的な立地最適化」は、近年の研究拠点戦略や都市開発論において重要視される考え方であり、本プロジェクトはその具体例といえます。

今後の展望

東京建物は、箕面エリアでの賃貸ラボ事業を中長期的に拡大する姿勢を示しています。周辺には北大阪健康医療都市(健都)や彩都ライフサイエンスパーク、大阪大学吹田キャンパスなど、既存の研究拠点が点在しており、本施設を起点とした広域連携も期待されます。

政府が推進する「バイオコミュニティ関西(BiocK)」構想の文脈においても、本事業は関西圏のライフサイエンス競争力を底上げする役割を担う可能性があります。大阪・関西万博後を見据えた都市の成熟期において、研究開発拠点としての箕面船場の存在感は、今後さらに高まることが予想されます。






出典・参考資料

  • 東京建物株式会社 プレスリリース(2026年2月9日)

  • 北大阪急行電鉄 延伸関連資料

  • 箕面市 都市整備・PFI事業資料

  • 内閣府 スタートアップ支援政策資料

  • 関西圏バイオコミュニティ(BiocK)関連資料

Visited 450 times, 452 visit(s) today