
尼崎市が阪急武庫之荘駅南側で進める「新図書館整備等事業」が、事業者選定の段階に入りました。市は2026年8月27日、設計・開館準備・管理運営を担うDO事業者の参加表明受付を開始し、11月下旬に優先交渉権者を決定する予定です。
新図書館は、大井戸公園約2.65haの北東部に整備します。延床面積は約4,000㎡で、現在の北図書館約2,477㎡の約1.6倍。トレピエの貸館機能も取り込み、公園や広場、一部周辺道路と一体的に再編します。
これは老朽化した図書館の建て替えにとどまりません。読書、学習、子育て、市民活動、創作、飲食、公園利用を結び付け、武庫之荘駅から大井戸公園、新図書館へ続く公共空間を再構築するプロジェクトです。
| 計画の核心 | 内容 |
|---|---|
| 何を造るのか | 図書館、公園、貸館、カフェ、ホールを組み合わせた複合型公共拠点 |
| なぜ今なのか | 北図書館、トレピエ、公園、周辺道路が同時に更新期を迎えたため |
| 移転の契機 | 大井戸公園内のスポーツクラブ「WOODY」閉館・解体で、北東部を活用できるようになったため |
| 市の狙い | 子育て世帯の転入・定住促進と「武庫之荘ブランドの共創」 |
| 供用開始 | 2030年度予定 |
「静」と「動」が共存する4,000㎡の新図書館

新館は3階以下を基本とし、地下階は想定しません。児童閲覧スペース、多目的ホール、カフェなどは、公園と連続利用しやすい1階への配置が求められています。
館内全体を静寂で統一するのではなく、音環境にグラデーションを設けるのが特徴です。一般閲覧室では通常の会話を認める一方、集中して読書・学習できる約100㎡のサイレントルームを別に設けます。
| エリア | 主な機能 |
|---|---|
| 閲覧・学習 | 一般開架、YA、参考図書、個人学習60~70席以上、サイレントルーム約100㎡、グループ学習室3室 |
| 児童・親子 | 650~700㎡以上、キッズスペース約100㎡、お話し室、屋外のお話しテラス |
| 市民活動・創作 | クリエイティブスタジオ、多目的室5~7室程度。楽器、料理、運動、動画編集などに対応 |
| 多目的ホール | 350~400㎡、収納可能な約200席の平土間型 |
| 共用空間 | 屋内広場、ギャラリー、読書テラス、飲食・休憩スペース |
| カフェ | 専用部分約50㎡を想定 |
| 環境・防災 | ZEB Ready認証を取得し、津波等一時避難場所への指定を予定 |
| 開館時間 | 必須条件は9~21時。日曜・祝休日は9~18時。これを上回る提案も可能 |
大井戸公園も「図書館の外側」として再編

大井戸公園は26,479㎡。約130品種・約2,000本のバラで知られる一方、開園から40年以上が経過し、園路、トイレ、管理施設、樹木の老朽化やバリアフリー対応が課題となっています。
今回の事業では、既存の樹木やバラ園を生かしながら、公園と図書館を一体的に使える空間へ更新します。
| 対象 | 再整備内容 |
|---|---|
| 図書館前 | 屋内広場やホールと連続利用できる屋外広場 |
| 公園 | 園路、トイレ、管理施設の更新、植栽再編、防災機能強化 |
| 児童エリア | 読み聞かせや親子利用を屋外テラスへ展開 |
| 周辺道路 | 街路樹の根上がりによる段差や歩道幅員を改善 |
| トレピエ | 貸館機能を新図書館へ移し、男女共同参画・相談・就業支援機能は現在地で再整備 |
なぜ建て替えが必要なのか

背景には、複数施設が同時に更新期を迎えた事情があります。
| 対象 | 現状と課題 |
|---|---|
| 北図書館 | 1979年開館。建物・設備老朽化、旧耐震基準、バリアフリー、蔵書収納、職員作業スペースなどに課題 |
| トレピエ | 1974年建築。老朽化、耐震性、バリアフリーなどに課題 |
| 大井戸公園 | 園路、トイレ、管理施設、樹木などが老朽化 |
| 周辺道路 | 街路樹の根上がりで段差が生じ、歩道の有効幅員も減少 |
| WOODY跡地 | 閉館・解体により、新図書館を配置できるまとまった空間を活用可能に |
さらに市は、北図書館再整備を「子ども・子育てアクションプラン」に組み込み、ファミリー世帯の転入・定住促進策として位置付けています。
図書館整備を文化政策だけでなく、居住地としての武庫之荘の魅力を高める都市政策として扱っている点が、この計画の重要な特徴です。
問題は現図書館のサービスではなく「器」
現在の北図書館が使われていないわけではありません。現館は約18万7,000冊を所蔵し、その約3分の1が児童書です。30~49歳の利用割合が高く、2024年度には読み聞かせや朗読会などを97回開催し、延べ4,154人が参加しました。児童・障害者サービスや市民協働事業も定着しています。
一方、建物は1979年開館。利用実態に対して、施設の容量と仕様が追い付かなくなっています。
| 現館の強み | 建物の限界 |
|---|---|
| 児童・障害者サービスが定着 | 建物・設備が老朽化 |
| 子育て世帯の利用が多い | 児童・学習・滞在空間が不足 |
| 市民・ボランティア活動が活発 | バリアフリー対応に制約 |
| 約18.7万冊を所蔵 | 蔵書収納・職員作業スペースが不足 |
開館時蔵書は、現館より約2.4万冊少ない想定
新図書館の性格を象徴するのが蔵書計画です。| 現北図書館 | 新図書館 | |
|---|---|---|
| 延床面積 | 約2,477㎡ | 約4,000㎡ |
| 蔵書数 | 約18.7万冊 | 開館時約16.3万冊 |
| 収蔵能力 | ― | 20万冊以上 |
市は、その理由を明示していません。ただし施設構成を見ると、拡張した面積を児童、学習、創作、ホール、カフェ、市民活動などにも配分する設計思想がうかがえます。
つまり新館は、蔵書量の拡大だけを追うのではなく、本を媒介に人の活動を広げる方向へ重心を移す図書館と見ることができます。
一方、市は「蔵書・開架環境の拡充」も掲げ、収蔵能力20万冊以上と将来の書架増設にも対応します。資料の選定や除籍、開館後の蔵書充実策は、今後の重要な論点です。
設計と運営を一体化するDO方式
事業には、設計と管理運営を一括して選定する**DO方式(Design+Operate)**を採用します。施工会社は市が別途選定します。狙いは、完成後に施設を運営する側のノウハウを設計段階から取り込み、利用者動線、書架、貸室、イベント、公園との接続などに反映することです。
| DO方式 | 内容 |
|---|---|
| 利点 | 運営者のノウハウを計画・設計段階から反映し、開館準備も早期に進められる |
| 課題 | 施工者が別発注となるため、施工性、工事費、工程の調整が複雑になる |
| 市場調査 | DBOを望ましいとする意見が13者、DOなどを望ましいとする意見が6者から示された |
| 市の採用理由 | 設計者と運営者を一括選定し、双方の視点と創意工夫を設計・運営計画へ反映する |
工事費の目安は約58億円
| 工事区分 | 金額 |
|---|---|
| 新図書館本体、家具・什器・備品 | 48億8,400万円 |
| 外構、大井戸公園、一部周辺道路など | 9億1,740万円 |
| 合計 | 58億140万円 |
2030年度の供用開始へ

| 時期 | 予定 |
|---|---|
| 2026年8月27日~9月4日 | 参加表明受付 |
| 9月14~30日 | 提案書受付 |
| 11月19日 | ヒアリング |
| 11月下旬 | 優先交渉権者決定 |
| 2026年12月 | 基本協定・設計契約 |
| ~2027年9月 | 基本設計 |
| ~2028年9月 | 実施設計 |
| 2028年度以降 | 建設・開館準備 |
| 2030年度 | 供用開始予定 |
成否は「にぎわい」だけでは測れない
新図書館は、公園、カフェ、ホール、創作室を備えた地域の公共拠点を目指します。ただし、来館者数やイベント数が増えれば成功というわけではありません。
問われるのは、本を探しやすくなったか、静かに読書・学習できるか、子どもや障害のある人が使いやすいか、蔵書やレファレンスが充実したかです。そのうえで、公園や市民活動との連携が図書館の価値を広げている必要があります。
2030年度に誕生するのは、現在の北図書館をそのまま大型化した施設ではありません。
図書館としての質を土台に、学習、子育て、創作、市民活動、公園利用まで受け止める新たな公共拠点へ転換する。
今回の計画が成功するかどうかは、「にぎわう施設」を造れるかではなく、図書館としての価値を高めた結果、人が集まる場所をつくれるかにかかっています。
出典・参考資料
- 尼崎市「新図書館整備等事業に係る募集要項等について」
- 尼崎市「尼崎市新図書館整備等事業 募集要項(令和8年8月26日修正版)」
- 尼崎市「別冊1 要求水準書(設計業務編)(令和8年8月7日修正版)」
- 尼崎市「別冊2 要求水準書(管理運営等業務編)(令和8年8月7日修正版)」
- 尼崎市「別紙3 事業工程表」
- 尼崎市「新図書館整備等基本計画 本編・概要版」
- 尼崎市「新図書館の整備等に係るサウンディング結果」
- 尼崎市「(参考)北図書館における直近3年の事業実績」
- 尼崎市「あまがさき子ども・子育てアクションプラン」
- 尼崎市「バラが見られる公園」
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