
大阪市内の高層ビル屋上にある「Hマーク」が、空飛ぶクルマの新たなインフラとして活用される可能性が出てきました。
Osaka Metro、SkyDrive、大阪府・大阪市で構成する事業共同体は2026年10月1日、内閣府のスーパーシティ関連事業に採択され、既存ビル屋上の緊急離着陸場を、空飛ぶクルマの「代替空港」などとして活用できるか調査を開始すると発表しました。
大阪市内には現在、こうした緊急離着陸場が146カ所存在します。ただし、146カ所すべてを空飛ぶクルマの乗降場へ転用する計画ではありません。まずは目的地に着陸できなくなった場合などに利用する「代替空港」として活用できるか、空域、風況、騒音、建物強度、旅客動線、充電設備、消防との運用ルールなどを検証します。調査期間は2027年3月までです。
この動きは、本サイトで2023年から取り上げてきた「都市部で空飛ぶクルマを運航する際、離着陸場をどう確保するか」という課題が、具体的な調査段階へ進んだものです。
2023年に取り上げた「Hマークはそのまま使えるのか」という課題

本サイトでは2023年5月の記事で、空飛ぶクルマの普及には多数の「バーティポート」が必要になる一方、都市中心部では新たな用地を確保しにくく、高層ビルの屋上が有力な候補になると取り上げました。
そこで注目したのが、すでに多くの高層ビルに整備されている「Hマーク」です。
Hマークはヘリコプターが着陸できる緊急離着陸場ですが、本来は災害時の救助活動などを目的とした施設です。日常的に旅客を運ぶ交通施設として整備されているわけではないため、空飛ぶクルマに活用する場合は、建物側の設備や運用方法を改めて確認する必要があります。
2023年の記事では、主に次のような課題を挙げていました。
| 課題 | 2023年の記事で取り上げた内容 |
|---|---|
| 発着場所 | 都市部では新規用地が少なく、屋上利用が候補になる |
| 建物 | 常用のバーティポートとして利用できるか確認が必要 |
| 旅客動線 | 屋上と館内を結ぶ一般利用者向け動線が必要 |
| 電力 | 急速充電設備や受変電設備の検討が必要 |
| 待合機能 | 搭乗待合室など旅客向け施設が必要 |
| 法制度 | 航空法、建築規制、消防との整理が必要 |
2023年当時は可能性と課題を整理する段階でしたが、今回の調査によって、既存ビル屋上を実際に活用できる条件を具体的に確認する段階へ進みます。
大阪市内には「Hマーク」が146カ所

今回の調査対象となる背景には、大阪市内にすでに多数の緊急離着陸場が存在することがあります。
大阪市内には、高層ビルの屋上を中心に146カ所の緊急離着陸場(Hマーク)があります。SkyDriveによると、これらは消防基準に基づいて設置され、床面や消火設備、夜間照明など一定の設備を備えています。
一方で、現在は災害救助などの緊急用途を前提としており、旅客輸送を行う空飛ぶクルマが利用するには、航空法上の扱い、消防との両立、ビル側の設備要件、旅客の安全確保などを整理する必要があります。
今回の調査では、次の項目が確認されます。
| 調査分野 | 主な検証内容 |
|---|---|
| 空域 | 周辺空域、制限表面、航空法上の設定可否 |
| 風況 | 周辺高層ビルによるビル風を解析 |
| 騒音 | 離着陸・飛行時の音をシミュレーション |
| 建物 | 実機の接地に耐えられる床面強度 |
| 旅客 | ダイバート時の屋上からビル内部への動線 |
| 機体 | 故障した機体を屋上からどう移送するか |
| 電力 | 充電設備、受変電設備の改修・新設 |
| コスト | 転用に必要となる概算費用 |
| 消防 | 災害救助用途と空飛ぶクルマ利用の両立 |
まず想定するのは「乗降場」ではなく「代替空港」

今回の発表で注目したいのが、Hマークの用途です。Osaka Metroは「代替空港」を、目的地へ着陸できない場合など、緊急時の備えとなる離着陸場と説明しています。
例えば将来、あるバーティポートへ向かっている途中に、強風や設備トラブルなどで目的地が使用できなくなった場合、機体は別の場所へ着陸する必要があります。従来の航空機でいう「ダイバート先」にあたります。
空飛ぶクルマを都市交通として運航する場合、出発地 → 目的地 だけでなく、出発地 → 目的地が利用できない → 別の安全な着陸場所 という選択肢も必要になります。
大阪市内にすでに存在するHマークの一部を利用できれば、新たにすべての代替離着陸場を整備する場合と比べて、既存インフラを活用したネットワーク形成につながる可能性があります。
大阪港、森之宮に続く新たな検討項目

本サイトでは2026年9月12日の記事で、大阪の空飛ぶクルマについて、万博での実証から実際の運航を見据えた路線・環境条件の検討へ進みつつあるとお伝えしました。
現在進んでいる取り組みを整理すると、役割の違いが見えてきます。
| 場所・取り組み | 主な役割 |
|---|---|
| 大阪港バーティポート | 本格的な運航・旅客拠点 |
| 森之宮 | 都市中心部での離着陸条件を検証 |
| 大阪ダイヤモンドルート | 新大阪・梅田、森之宮、天王寺・阿倍野、ベイエリアを結ぶネットワーク構想 |
| 市内146カ所のHマーク | ダイバート先などバックアップ拠点候補 |

一方、Osaka MetroとSkyDriveは「新大阪・梅田」「森之宮」「天王寺・阿倍野」「ベイエリア」の4エリアを結ぶ大阪ダイヤモンドルート構想を掲げ、まず2028年を目途に森之宮エリアでのサービス開始を目指しています。
今回のHマーク調査は、これらの施設や路線構想を支えるバックアップ側の検討と位置付けられます。
大阪港や森之宮が主な乗降拠点となる一方、Hマークについてはまず、目的地が利用できない場合の代替着陸場所として使えるかが調査されます。
「点」の整備からネットワークの設計へ

出展:(PS&S image)
大阪における空飛ぶクルマの動きを時系列で整理すると、検討対象が徐々に広がっています。| 時期 | 主な動き |
|---|---|
| 2023年5月 | 本サイトで既存Hマーク転用の可能性と課題を整理 |
| 2024年12月 | Osaka Metro・SkyDriveが「大阪ダイヤモンドルート構想」を発表 |
| 2025年3月 | 大阪港バーティポート完成 |
| 2025年 | 大阪・関西万博などでデモフライト |
| 2026年9月 | 森之宮の風況・騒音、大阪港発の運航ルートなどの検討が具体化 |
| 2026年10月 | 大阪市内146カ所のHマーク活用調査を正式開始 |
| 2027年3月 | Hマーク活用調査終了予定 |
| 2028年頃 | 森之宮エリアでのサービス開始を目標 |
空飛ぶクルマを交通として成立させるためのインフラ整備

出展:https://lilium.com/newsroom-detail/designing-a-scalable-vertiport
大阪・関西万博では、空飛ぶクルマそのものやデモフライトに注目が集まりました。商用運航を行うには、機体だけでなく周辺のインフラも必要です。発着場、飛行ルート、代替着陸場所、充電設備、旅客動線、既存交通との接続。これらを組み合わせることで、都市交通としての運航条件が整っていきます。

2023年の記事では、既存のHマークについて、空飛ぶクルマにそのまま転用できるわけではなく、建物強度や旅客動線、充電設備などの確認が必要だと取り上げました。今回の調査は、そうした課題を実際の条件に照らして確認するものです。
146カ所すべてが利用可能になるわけではなく、何カ所が条件を満たすかも現時点では分かっていません。それでも、一定数のHマークを活用できれば、専用バーティポートと既存ビル屋上を組み合わせた都市内ネットワークという選択肢が見えてきます。
大阪の空飛ぶクルマは、機体を飛ばす実証から、路線や発着拠点を具体化する段階へ進み、さらに今回、「目的地に降りられなかった場合、どこへ着陸するか」まで含めた運航環境の検討が始まりました。
出典
・Osaka Metro「内閣府『令和8年度 スーパーシティ、デジタル田園健康特区、連携“絆”特区等における先端的サービスの開発・構築及び規制・制度改革に関する調査・実証事業』に採択されました」2026年10月1日・SkyDrive「大阪市内の屋上緊急離着陸場を、空飛ぶクルマの離着陸場へ」2026年10月1日
・SkyDrive「大阪ダイヤモンドルート構想」2024年12月17日
・SkyDrive「全国に先駆けた大阪での空飛ぶクルマの商用運航に向け、コンソーシアム設立を合意」2026年
・Re-urbanization「空飛ぶクルマ(AAM)普及の鍵を握る離着陸場『バーティポート』。既設ヘリポートはそのまま使えず容積率がボトルネックになる!?」2023年5月20日
・Re-urbanization「大阪の『空飛ぶクルマ』、万博実証から路線設計へ」2026年9月12日
・Re-urbanization「大阪関西万博に『空の玄関口』が誕生!大阪港バーティポートの完成で動き出す『空飛ぶクルマ』の未来都市構想とは!?」2025年3月29日
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