「富岳NEXT」新建屋、延床約6,500㎡・整備費上限173.6億円。神戸に50MVA級の次世代AI・HPC基盤、2030年稼働へ



理化学研究所が神戸・ポートアイランドで計画する次世代スーパーコンピューター「富岳NEXT」の新建屋整備が、事業者選定の最終段階に入ります。

計画地は、現行の「富岳」が稼働する理研計算科学研究センター南側の隣接地です。延床面積は約6,500㎡を目安とし、施設整備費の提案上限額は173億5,775万2,000円。設計・施工・工事監理・維持管理を一括するDBO方式で整備します。

ただし、本計画の核心は建物の大きさではありません。50MVAの受電能力、最大40MWの計算機用電力、約40MWの冷却能力を備える、AI時代の高密度計算基盤そのものを神戸に構築する点にあります。

富岳NEXT新建屋の計画概要


項目 内容
所在地 神戸市中央区港島南町7丁目1番1
立地 理研計算科学研究センター南側隣接地
敷地面積 約10,153㎡
延床面積 約6,500㎡を目安
事業方式 DBO方式
施設整備費 上限173億5,775万2,000円
HPC室 約500㎡×4室
床荷重 3t/㎡以上
計算機用電力 10MW×4室=最大40MW
受変電設備 77kV、50MVA(25MVA×2台)
将来拡張 25MVA級変圧器1~2台の追加に対応
冷却方式 水冷、能力約40MW
省エネ性能 pPUE1.1以下、目標1.05以下
建屋引き渡し 原則2029年12月まで
富岳NEXT稼働 2030年ごろ
なお、173.6億円は新建屋の設計・建設・工事監理に対する上限額であり、富岳NEXTの計算機本体やシステム開発費を含む総事業費ではありません。

「富岳」を止めずに次世代へ移行する

新建屋を現施設の隣に整備する最大の狙いは、スーパーコンピューターの世代交代に伴う空白期間を縮めることです。

「京」から「富岳」への移行では、旧システム撤去後に新システムを搬入する必要があり、フラッグシップ級の計算資源を利用できない期間が生じました。

富岳NEXTでは、現行の富岳を稼働させながら隣接地に新システムを構築します。既存の研究・運用体制や通信インフラも活用できるため、別拠点を新設するより効率的です。

新建屋は単なる増築ではなく、日本の最先端計算基盤を途切れさせず2030年代へ引き継ぐための移行インフラといえます。

40MW級の発熱を「水」で処理する



富岳NEXTでは、約500㎡のHPC室を4室設け、各室に最大10MW、合計40MWの電力を供給します。受電能力は50MVAで、将来の増設も想定した構成です。

こうした高密度計算環境では、演算性能と同じくらい冷却性能が重要になります。

新建屋では、従来型データセンターのように冷気を大量に送り込む方式ではなく、CPUやGPUから発生する熱を冷却水で直接回収する水冷方式を採用します。冷却能力は約40MWです。

省エネ性能を示すpPUEは、HPC室の平均消費電力20MW時に1.1以下、目標値は1.05以下。計算以外に必要な冷却・送電・補機の電力を極力抑え、限られた電力を演算へ振り向けます。

AI向けGPUの消費電力が急増するなか、スーパーコンピューターの競争力は半導体だけでなく、電力供給と熱処理を含めた施設全体の効率で決まる時代に入りつつあります。

富岳NEXTは「AIとシミュレーション」を融合する



富岳NEXTは、富岳の単純な高性能版ではありません。

富士通が全体システムとCPU、NVIDIAがGPUプラットフォームを担い、富士通の次世代CPUとNVIDIA製GPUを組み合わせます。日本のフラッグシップシステムとして、本格的にGPUを演算加速に利用する構成です。

目指すのは、従来の大規模シミュレーションとAIを一体化した「AI・HPCプラットフォーム」です。

ハードウェアだけでなく、ソフトウェアやアルゴリズムも高度化し、アプリケーションによっては富岳比で最大100倍の性能向上を目標としています。

その先にあるのが「AI for Science」です。AIが研究データを学習し、候補を絞り込み、シミュレーションで検証し、その結果を再びAIへ戻す。この研究サイクルを高速化することで、従来は膨大な時間を要した探索を大幅に短縮します。
分野 期待される効果
防災・気象 地震、津波、豪雨、気候変動の予測高度化
創薬・医療 化合物・治療候補の探索高速化
材料・エネルギー 半導体、電池、触媒、新素材の開発促進
製造業 設計・解析・試作工程の高度化
AI 国内で大規模な学習・推論環境を確保
経済安全保障 計算資源・半導体・ソフトウェア技術を国内に蓄積
すべてを国産技術だけで構成するのではなく、日本のCPU・システム技術と世界的なGPU・ソフトウェア基盤を組み合わせる点も特徴です。海外技術を取り込みつつ、設計、運用、アプリケーション開発の中核能力を国内に残す戦略です。

神戸をHPC・AI・量子計算の集積拠点へ



富岳NEXTの整備は、神戸の研究拠点としての性格も変えます。

ポートアイランドでは現行の富岳に加え、AI向け計算基盤や量子コンピューターとの連携研究も進んでいます。富岳NEXTが加われば、HPC、AI、量子計算を横断して利用できる計算科学クラスターが形成されます。

研究者や企業との共同研究、人材育成、新たなAI・計算科学関連産業の誘致にも波及する可能性があります。新建屋には計算機室を外部から見学できる動線も計画されており、日本の先端計算技術を国内外に示すショーケースとしての役割も想定されています。

これまでの経緯と今後


時期 主な動き
2024年6月 文部科学省が次世代計算基盤の方針を整理
2025年1月 理研が富岳NEXTの開発・整備を開始
2025年3月 神戸・R-CCS隣接地への整備を決定
2025年6月 富士通を全体システム・CPU基本設計事業者に選定
2025年8月 理研・富士通・NVIDIAの開発体制を始動
2026年2月 新建屋DBO事業を公告
2026年3~7月 競争的対話を3回実施
2026年5月 富岳NEXT基本設計報告書を公表
2026年8月31日 提案書受付締め切り
2026年10月16日 優先交渉権者決定予定
2026年12月ごろ 基本契約締結予定
2029年12月 新建屋を原則引き渡し
2030年ごろ 富岳NEXT運転開始
2026年8月23日時点では競争的対話を終え、8月31日の提案書提出期限を待つ段階です。10月の審査を経て優先交渉権者を決定し、年内の契約締結を予定しています。

6,500㎡の建物ではなく「次世代計算インフラ」を造る



 

富岳NEXT新建屋を象徴する数字は、延床約6,500㎡や整備費173.6億円だけではありません。

50MVA受電、最大40MWの計算機電力、約40MWの水冷能力、pPUE目標1.05。

これらの数字は、AI時代のスーパーコンピューターが、高性能な半導体だけでは成立しないことを示しています。

「京」から「富岳」、そして「富岳NEXT」へ。神戸・ポートアイランドでは、日本のフラッグシップ計算基盤を途切れさせず更新すると同時に、HPC、AI、量子計算を束ねる次世代の計算科学拠点づくりが進もうとしています。




出典・参考資料

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