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空飛ぶクルマ(AAM)普及の鍵を握る離着陸場『バーティポート』。既設ヘリポートはそのまま使えず容積率がボトルネックになる!?


出展:https://www.marubeni.com/jp/news/2023/release/00023.html

『空飛ぶクルマ』は、電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運航形態によって実現される次世代の空の移動手段で、諸外国ではAdvanced Air Mobility(AAM)やUrban Air Mobility(UAM)と呼ばれています。

空飛ぶクルマ(以下、AAM)には、垂直方向に離着陸が可能で、滑走路が不要で騒音が少なく、自動運転により操縦士は不要といった特徴があります。目的地まで「空」を直線的に移動出来る為、渋滞の影響を受けずに高速移動が出来る他、離島や山間部などアクセスの悪い場所への物流・移動手段として活用が見込まれます。AAMは次世代のモビリティとして期待されており、2025年に控える大阪万博での定期運航される予定です。

 



出展:GMOインターネットグループ

空飛ぶクルマの機体(AAM機)は、現在様々な技術レベルで開発が進められていますが、最初に商用運航が開始される可能性が最も高いのは充電式バッテリーを動力源とするeVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing)です。また、航続距離の問題からガソリン発電機を搭載したハイブリッド機も有力視されており、将来的には水素燃料電池を搭載した航空機もAAM運航を行う可能性があります。 

 

空飛ぶクルマを実用化するには離発着場が不可欠


(PS&S image)

AAMを本格的に運用する為には、AAM機が離発着する場所、離着陸場『Vertiport(バーティポート)』が必要になります。Vertiportは、垂直を意味する「Vertical」と空港「airport」を合わせてできた造語で、空飛ぶクルマが離発着する際の場所のことを指します。

AAMは、地点間をダイレクトに結ぶ「ポイント・トゥ・ポイント(PtoP)」型の輸送機関なので、乗り降りする飛行場Vertiport(バーティポート)の数によって利便性が左右されます。機体の開発と同時に、Vertiport(バーティポート)を何処にどうやって造るのか?がAAM本格普及のカギになります。

 

 


https://lilium.com/newsroom-detail/designing-a-scalable-vertiport

バーティポートの構成は様々で、実現可能な運航便数等の処理能力も異なります。特に、利用可能なバーティポートが少ないと予想される初期段階では、バーティポートの処理容量がAAMネットワーク全体の容量に影響を与えることが予想されます。 

ポートには、旅客の乗継ぎ、荷物搭載、整備に特化したものや、これらの機能が混在したものが想定されます。運用の規模が小さく、必要敷地面積が小さいため、従来の空港等よりも迅速に設置できることが期待されます。

 

バーティポート設置に関する基準(案)



 

航空法上の航空機であるAAMが離着陸するバーティポート は「空港等」に該当し、垂直離着陸ができ離着陸時の運航形態はヘリコプターに近いことから「ヘリポートのうち空飛ぶクルマ専用のもの」と定義されます。

国土交通省は、AAMの実用化に際して必要となる各種基準の策定を進めています。バーティポートの離着陸帯広さを決定する空飛ぶクルマの機体サイズについて、欧米を参考に、D値(機体の投影面を囲む最小の円の直径)とすることを基本とします。

離着陸帯の広さについてはFATO(最終進入及び離陸区域)の大きさ(下限値)は「AFM(航空機飛行マニュアル)等に規定された大きさ」又は「1.5D」の大きい方を基本とする。(機体性能が高まり、eVTOL機の実績が積みあがった段階で上記の縮小について検討予定) また、地上ポートにおいて、FATOを囲むSafety Area (安全区域)の幅は「3m」又は「0.25D」の大きい方を基本とします。

 


 

離着陸帯の強度については、最大離着重量の1.5倍の荷重に耐えられる強度を持つことを基本とし、屋上のポートで必要な強度について今後検討を行います。

世界初のバーティポートがイギリスに



Urban-Air Port plans on building skyports around the world. Above: the first Air One airport is being constructed in Coventry city centre

2022年5月にインフラ事業を展開する英Urban Air Portは、イギリス中部の都市コベントリーで、世界初のバーティポート「Air-One」をオープンしました。Urban Air Portは今後5年間で200以上のバーティポートを作る計画を立ててるそうです。

Air-Oneはサーカス小屋のような形をした円錐台のエアポートで、容易に組み立てができる構造となっています。同社が設計から製造、運用までの工程を15カ月で終えたという。地面からエアポートの頂上にかけて階段が設置されており、円錐の中の空間には、空飛ぶクルマを利用する人向けの待合ロビーとして機能します。

パーク24などによる動きにも注目


駐車場最大手のパーク24、あいおいニッセイ同和損害保険、総合商社の兼松、離着陸インフラの整備・運用を手がける英Skyportsは、空飛ぶクルマのインフラ設備の開発に向けて2022年5月に業務提携の覚書を締結しました。

バーティポートはパーク24が管理している駐車場を活用し、立体駐車場の屋上階をバーティポートを設置し、AAMとカーシェアリングを組み合わせる事で、利用客のシームレスな移動手段の構築を検討すると思われます。また、AAMの移動サービス向けの保険の手配や提供を、あいおいニッセイ同和損害保険が担います。

大阪では2025年に開催予定の大阪・関西万博において空飛ぶクルマの実現を目指しており、4社グループは関西エリアを中心に事業性評価を含む行動調査を実施する予定です。4社の連携と取り組みが、大阪での空飛ぶクルマの実現に向けた機運を高めていくことにつながりそうです。

   

屋上ヘリポートはそのままでは使えない

筆者撮影:地上300mあべのハルカスのヘリポート

空飛ぶクルマが普及するには数多くのバーティポートが必要です。バーティポートはヘリポートぐらいの大きさが必要になります。

過密な都市部ではビルの屋上が有力な設置場所と考えられます。東京・大阪の都心部に林立する高層ビルの屋上にはヘリポートがあるので、そこをバーティポートにすれば、簡単に大都市の都心部にポートが作れる、と思われます・・・が、実はそうではありません。

 


筆者撮影:Hマークは着陸出来るが繰り返し発着に耐える強度がない

屋上ヘリポートは各自治体消防の基準によって高層ビルの屋上に設置される「緊急離着陸場」および「緊急救助スペース」の2種類があります。

ビルの屋上にある「H」と「R」マーク。Hマークは「Heliport(ヘリポート)」の頭文字でヘリコプターの離着陸が可能です。しかし、あくまで緊急救助用の位置づけで常用は想定しておらず、繰り返しの離発着にたえられるだけの強度はありません。

 


筆者撮影:Rマークは着陸出来ない

Rマークは「Rescue(レスキュー)」の頭文字で、ここは緊急救助用スペースです。救助はホバリング状態で行われる為、そもそも着陸できません。「H」との違いは広さや床面強度、消火設備や燃料の流出防止構造の有無などです。

 


筆者撮影:超高層ビルの屋上階

ヘリポートが無いビルにバーティポートを設置するのも簡単ではありません。まず、ビルの屋上は空調設備や機械設備が置かれて平坦な場所はあまり在りません。

また、屋上に出るのは設備事業者ぐらいでビル利用者が日常的に利用する想定していません。その為、下層階から屋上に直通するエレベータは無く、迷路の様な通路を通り、非常階段を昇る必要があります。その為、「バーティポート」とフロアと下層各フロアへの単純な動線の確保が必要になります。

AAMの本格的な運用に備えるのであれば「充電設備」や「バッテリー交換設備」「搭乗待合室」のためのスペースも必要になります。

容積率の問題


高層ビルは、都市計画法や建築基準法の元に「建蔽率」「容積率」が決められています。デベロッパーは賃料収入を最大化する為に、容積率ギリギリまで大きなビルを建てています。

バーティポートを設置するには、空調機や機械類がある屋上面の上にさらに発着床を設ける必要があり、そこに容積が発生してしまう、という問題が発生します。仮に「30階建てのビル」の屋上にバーティポートを設置する発着床を設けたら「31階建てのビル」になってしまい、法律違反になる可能性があります。現在は、バーティポートを新設する、もしくは既存のヘリポートを改修すると、容積率に参入され法令違反になる可能性がある為、これが障害となってバーティポートの設置が進まない事が考えられます。

日本が本気でAAMの普及を目指し、空飛ぶクルマで世界をリードする気があるのであれば、エレベーターの昇降路部分や共同住宅の廊下、自動車車庫等と同様に「バーティポートは容積率に含めない」などのルール作りが急がれます。

空飛ぶクルマが街並みを変える



今後、AAMの普及が徐々に進めば、これから建設される新しいビルは最初から専用エレベーターや待合室を持つ、本格的なバーティポートを備えている事がビルの付加価値向上に繋がる事が考えられます。「他の古いビルにはVポートはありませんが、このビルには最初からVポートがありますよ」「我が社のビルにはバーティポートがあるので、関西空港行きのエアタクシーが利用出来ます」といった売り文句が出てくるかもしれません。

 

そうなってると、バーティポートに最適化した屋上、ビルの形状が出来上がってくるので、都市景観は徐々に変わるでしょう。海外で見られる様な棟屋が尖ったスタイリッシュな超高層ビルは、今後は減って行くかもしれません。空飛ぶクルマが都市景観を変えて行く事になります。


1 COMMENT

おろろN

一番親和性が有りそうな建築はイオンが作り出しているオフィス一体型モールのような気がしますがどうでしょう?
今迄駐車スペースにしてた屋上を使えばかなり広いポートか設置出来そうです。

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