近鉄グループホールディングスは2025年3月25日、2035年度を見据えた長期経営ビジョン「近鉄グループビジョン2035」と、2028年度をターゲットとする中期経営計画を発表しました。少子高齢化による沿線人口の減少や運行コストの増大といった構造課題に対応するため、同社は従来の鉄道中心の事業構造から脱却し、不動産、観光、ホテル、物流といった非鉄道事業を主軸に据えた新たな成長モデルへの転換を図ります。
運輸依存からの脱却とESG重視の経営体制へ

同ビジョンでは、2035年度までに営業利益に占める運輸事業の比率を現在の約35%から20%程度にまで引き下げ、不動産、物流、観光など非鉄道分野の構成比を高める方針が打ち出されました。また、2050年度までのCO₂排出量実質ゼロや、2035年度までに女性管理職比率を20%以上とするなど、ESGやダイバーシティにも重きを置いた経営方針が示されています。
2028年度を目標とした中期経営計画では、営業収益1兆2,000億円、営業利益1,000億円、ROE8%以上の達成を目指します。成長の中核には、不動産とホテル・観光事業が据えられ、収益構造の改革とグループ全体の持続的な成長が狙いです。
鉄道の価値を再定義──夢洲直通列車と観光特化型車両で需要喚起

鉄道部門では、「移動そのものに価値を持たせる」ことをテーマに、利便性と魅力の両立を図る戦略が進められています。2025〜2028年度にかけて、省エネ性能に優れた新型一般車両を150両導入予定であり、バリアフリー化やMaaSとの連携による利便性向上が進められています。
特に注目されるのが、けいはんな線と大阪メトロ中央線という異なる集電方式に対応した新型車両の開発です。これにより、奈良方面と夢洲を直結する「夢洲直通列車」の運行が可能となり、IR(統合型リゾート)開業前の運行開始を目指す方針が示されました。観光・ビジネス双方の流動性を高める新たな導線が整備され、沿線地域の活性化に寄与することが期待されます。
さらに、テーマ性の高い観光特急や、伝統的な特急車両「ビスタカー」の更新も検討されており、鉄道を“旅の目的そのもの”とする新たな観光需要の創出を狙います。
商業・ホテル戦略の再構築──「ハルカスタウン」で都心の魅力を刷新

商業分野では、あべのハルカス近鉄本店の大規模改装を軸に、「Hoop」「and」など周辺施設と連携した「ハルカスタウン」構想が打ち出されています。今後4年間で総額100億円を投資し、売場面積10万㎡のうち約3割を刷新。ラグジュアリーブランドの導入や「プレミアムサロン(仮称)」の設置、魅力的なデパ地下の再編などを通じて、上質な顧客層と都心住民を呼び込む戦略が展開されます。
ホテル事業においては、シェラトン都ホテル東京・大阪、大阪マリオット都ホテルの客室改装が進められ、ブランド価値と収益性の強化を図ります。また、ウェスティン都ホテル京都や志摩観光ホテルといったフラッグシップ施設では、国際基準に基づくサービス品質の向上を通じて、グローバルな競争力の確立が目指されています。
観光・レジャー戦略の本格化──テーマパークとIRで観光拡大を狙う

観光・レジャー分野では、施設の魅力再構築とテーマパークビジネスへの本格参入が進められています。志摩スペイン村や生駒山上遊園地のリブランディング、老朽化宿泊施設のリニューアルに取り組むほか、2025年7月に沖縄で開業予定の大型テーマパーク「JUNGLIA OKINAWA」の運営会社にも出資。これにより、観光事業の幅を広げ、新たな収益源の確立を図ります。
さらに、近鉄グループは大阪・夢洲に整備される統合型リゾート「大阪IR」にも出資することを表明。夢洲直通列車との連携により、観光動線の強化とインバウンド誘致を推進し、夢洲を起点とする広域観光のハブ形成に寄与していく考えです。今後は、旅行事業にとどまらず、MICE(国際会議・展示会)関連施設との連携や周辺ビジネスの展開も視野に入れた、広がりのある観光戦略が展開されていきます。
万博跡地と地方再開発──夢洲・金沢・白金台で価値創造を図る

大阪・関西万博終了後の跡地活用に関しても、近鉄グループは強い関心を示しており、今秋予定されている夢洲2期の再開発事業者の公募への参加を表明しています。若井敬社長は「夢洲は大阪の西の玄関口になる」と述べ、同社の都市開発ノウハウを活かしたまちづくりへの貢献意欲を語りました。
また、地方都市における開発も進行しています。北陸新幹線延伸により注目が高まる金沢では、旧「金沢都ホテル」跡地において商業・オフィス・住居・ホテルを一体化した複合再開発を検討中。さらに、東京都心・白金台に立地するシェラトン都ホテル東京では、外部パートナーとの協業を視野に入れた将来的な高度活用が計画されています。
近鉄グループの「ビジョン2035」は、鉄道、都市開発、観光、ホテル、物流など多領域にまたがる成長戦略を掲げ、従来の鉄道事業者という枠を超えた総合ライフスタイル企業への転換を鮮明にしています。夢洲直通列車と大阪IRを核にした観光戦略、地方再開発の広がり、そして都心での資産高度利用によって、新たな近鉄の未来像が具体化されつつあります。
「鉄道の価値を再定義」では、フリーゲージトレインについて検討されていないのですか。