〜AIと計算の力で未来を変える“日本の頭脳”が神戸に誕生〜
理化学研究所(以下、理研)は、次世代スーパーコンピュータ「富岳NEXT(ネクスト)」の開発を2025年から本格的に開始し、2030年頃の運用開始を目指しています。整備場所には、現在「富岳」が稼働する神戸市中央区のポートアイランドが選ばれました。AI(人工知能)とシミュレーションの融合による科学技術の飛躍を目指す国家プロジェクトが、新たな知の拠点として動き出します。
富岳NEXTが目指す圧倒的な演算性能

「富岳NEXT」が目指すのは、現行の「富岳」をはるかに超える計算能力の実現です。科学シミュレーションにおいては、「富岳」と比較して5〜10倍以上の実効性能を発揮するとされています。さらに、AI分野では50EFLOPS(エクサフロップス)を超える世界最高水準の性能を想定しており、混合精度や低精度演算の活用により、AI処理では数十〜数百倍の高速化も見込まれています。
このような圧倒的な演算性能によって、生成AIの大規模学習やリアルタイム気象予測、創薬支援、都市シミュレーションなど、幅広い分野で科学と産業の発展を支える中核基盤となることが期待されています。
HPC×AIが創る革新の研究環境

「富岳NEXT」は、HPC(高性能計算)とAIを融合させた新しいコンセプトの計算機です。従来は分離して処理されてきたシミュレーションとAIが、一つのシステム上で連携し合うことで、これまでにないスピードと精度で科学研究を推進できる環境が整います。
たとえば医薬品の開発では、AIが有望な分子を選び出し、それをHPCによって詳細に検証することで、開発期間の短縮やコスト削減が期待されます。自動車産業では、AIが導いた設計案をHPCで再現・最適化することにより、安全性と燃費性能を両立した車両開発が可能になります。また、防災・減災の分野では、AIが抽出した災害リスクをもとに、HPCがリアルタイムで被害想定や避難行動のシミュレーションを実行することができます。このように「富岳NEXT」は、「AI for Science」と呼ばれる革新的な研究スタイルを支える計算基盤として、科学技術の未来を切り拓く存在となります。
科学技術立国を支える国産技術の推進
「富岳NEXT」の開発には、国産のCPUやメモリを中心とした技術が活用される予定で、外資依存を減らし、我が国の技術的自立性を高める意図があります。また、AIやシミュレーションを活用して、気候変動やパンデミック、自然災害など地球規模の課題解決に貢献できるスーパーコンピュータとして、日本の国際的な科学技術プレゼンスの強化にもつながります。その実効性が証明されれば、国内での研究成果がさまざまな産業分野に展開され、未来の経済成長を下支えする重要な役割を果たすことでしょう。産業界への波及効果と社会実装

「富岳NEXT」の導入は、民間産業にとっても革新的な技術インフラとなります。製造業では、試作や設計段階でのシミュレーション精度が向上し、コスト削減や納期短縮に寄与します。建設業においては、都市構造物の解析や地震対策の設計に活用され、安全性の向上と長寿命化が見込まれます。
また、医療分野では、創薬や病理予測においてAIとシミュレーションの融合による革新的なアプローチが進み、流通業やサービス業においても、需要予測やルート最適化などAIを活用した高度な経営判断が可能になります。さらに、スタートアップ企業や中小企業にも門戸を開くことで、技術革新の機会がより幅広い層に届く仕組みが構築されていく見通しです。
スマートシティ神戸との親和性と地域波及

神戸市は「スーパーシティ構想」を掲げ、デジタル技術による都市機能の再構築を進めています。「富岳NEXT」の整備は、この構想と高い親和性を持ち、スマートシティやレジリエントな都市づくりに資する重要な装置となるでしょう。
また、理研と神戸大学、地元企業との連携によって、研究開発の推進だけでなく、技術者や研究者の育成、地域への人材定着、雇用創出といった経済面での波及効果も見込まれます。関西経済における知的インフラとして、神戸の地に一層の注目が集まることになりそうです。
整備地にポートアイランドが選ばれた理由

「富岳NEXT」の整備地として神戸・ポートアイランドが選ばれた理由は、複数の観点から合理的と判断されたためです。まず、既に「富岳」が稼働している理研計算科学研究センターが隣接しており、既存の電源や冷却、通信インフラを活用できることは大きなメリットです。
さらに、神戸空港や新幹線、三宮駅へのアクセスが良好であることから、国内外の研究者が集まりやすく、国際的な連携拠点としてのポテンシャルも備えています。加えて、神戸大学をはじめとする高等教育機関や、医療産業都市構想のもとで集積した先端医療施設、研究機関などとの連携も期待でき、総合的に見て科学研究に最適なロケーションであるといえます。
空白期間ゼロを目指す整備スケジュール
「富岳NEXT」は、既存の「富岳」から円滑にバトンを受け取るように、約6年をかけて段階的に整備される予定です。以下は現在想定されている主なスケジュールです。- 2024年:補正予算により約78億円を計上、事業の前倒しが決定
- 2025年1月:理研が開発を開始し、民間企業との基本設計パートナー選定へ
- 2025年4月:理研計算科学研究センターに「次世代計算基盤開発部門」新設
- 2026〜2027年度:システムの基本設計・試作・検証を実施
- 2028〜2029年度:本体の製造と建屋整備、導入作業
- 2030年度:試験運用を経て、正式稼働を目指す
おわりに──2030年、神戸から未来を計算する

スーパーコンピュータ「富岳NEXT」は、AIとシミュレーションを融合させた“未来の頭脳”として、日本の科学技術、産業、社会課題解決の中核を担います。それは単なるスパコンの性能向上ではなく、「成果を生み出すシステム」を構築するという視点に立った、本質的な進化といえるでしょう。
2030年、神戸・ポートアイランドから始まる新たな計算基盤の整備は、日本が未来を切り拓くための確かな一歩となります。今後の動向から目が離せません。
神戸市は産官学の連携とインフラ整備を充実させて、乗り損ねた景気回復に期待します。
最近はホントに神戸の存在感が小さく感じます。