「松本駅前の旧百貨店が、マリオット系列ホテルとして再生される」そんなニュースが具体化しました。マリオット・インターナショナルは2026年2月13日、松本市の株式会社エム・ケー・ケーとフランチャイズ契約を締結し、長野県初となるモクシーブランドホテル「モクシー松本」を2027年度中に開業すると発表しました。旧井上百貨店本店の建物を活用したリノベーション(コンバージョン)で、客室数は222室を予定しています。
本件は「ホテルが増える」という話にとどまりません。松本駅前のランドマーク級建築を“壊さずに使う”選択、マリオットの地方都市ネットワーク拡大、そして駅前の賑わい再生ー複数の狙いが重なるプロジェクトとして注目されます。
1. まず結論:何が決まったのか
ポイントは次の3点です。
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長野県初のモクシーブランド「モクシー松本」を開業予定
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旧井上百貨店本店(2025年3月閉店)を、解体ではなく大規模改修でホテルへ転用
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2027年度中の開業を目指し、222室を計画
マリオット側は本プロジェクトを、「地域に根ざした思慮深い成長」「日本の地方都市におけるライフスタイルブランド展開の拡大」を体現する取り組みと位置付けています。
2. 計画地とアクセス:松本駅前の“中心そのもの”

立地は、JR松本駅から徒歩圏の中心市街地です。
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松本駅 お城口(東口)から徒歩約4〜5分
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松本バスターミナルから徒歩約1分
松本は、国宝・松本城を核とした観光都市であると同時に、上高地・白馬などへの玄関口でもあります。街なか観光と広域アウトドアの両方を取り込める地理条件が、今回のブランド選定にも直結しています。
3. 建物はどう再生される?:旧百貨店を「ホテル資産」に変える
出展:Wikipedia
「モクシー松本」は、旧井上百貨店本店の建物を活用します。公表情報を整理すると、建築の骨格は以下の通りです。
建物概要(既存建物)
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所在地:長野県松本市深志二丁目3番1号
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構造:鉄骨鉄筋コンクリート造(地下1階付7階建)
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延床面積:13,594.67㎡
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竣工:1979年3月
計画としては、
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1階:チェックイン機能と一体化したバーを中心に、ラウンジ等を配置
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2〜7階:全222室の客室
というフロア構成が示されています。
すでに内装の解体工事は2025年11月に着手しており、現在はホテルとしてのデザイン案をマリオット側と協議中。合意後、内装工事へ移行する流れです。地下1階については、テナント誘致も今後進める方針とされています。
4. モクシーブランドとは:客室より「共用空間」を主役にするホテル
オフィスビルをコンバージョンしたホテル「モクシー大阪本町」
今回の理解で重要なのは、「モクシーがどういうホテルか」です。モクシーは、マリオットが展開するライフスタイルブランドで、従来型のホテル滞在の常識を崩す設計思想を持っています。
モクシーの特徴(要点)

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客室はコンパクト(松本では平均20〜25㎡想定)
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滞在の中心は、ロビーやバーなどのソーシャルスペース
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バーでチェックインするスタイルが象徴的
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デザイン性と社交性を重視しつつ、魅力的な価格帯を狙う
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ターゲットは「体験重視」「エネルギッシュ」な国内外旅行者
要するに、宿泊者を“部屋に閉じ込めない”ホテルです。街に出て体験する余白を残し、共用空間で交流を起こし、都市の回遊と消費につなげる設計です。
5. 「モクシー松本」に入る主な施設:何ができるのか

公表情報から、導入予定の機能は次の通りです。
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モクシー・バー(91席)
チェックインとドリンク、交流が融合する“到着体験”の中心。外来利用も想定。 -
モクシー・キッチン&ピックアップ
テイクアウト対応。外出の多いゲスト向け。 -
ソーシャルスペース(ラウンジ等)
仕事・遊び・休息の境界を曖昧にする共用空間。 -
フィットネスルーム
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セルフランドリー
「宿泊のための最低限」ではなく、旅の動線を支える“現代仕様”が押さえられているのが分かります。
6. なぜ「百貨店×モクシー」なのか:転用の合理性が高い組み合わせ

旧百貨店をホテルに変える例は各地で見られますが、モクシーとの相性は特に良いと考えられます。理由は2つです。
① 小規模な百貨店建築は意外にホテル転用に向く
百貨店は構造的に、
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外周部に採光面(窓)があり
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中央部に大きな床(売場)を抱える
という特徴があります。
ホテルに転用する場合、壁面に小さなフィックス窓を配置する事で、
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外周=客室
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中央=廊下・設備・共用部
という計画が成立しやすい傾向があります。
② モクシーは「客室に価値を集中させない」
フルサービス型ホテルのように、客室の広さや眺望を主役にしません。共用部を主役にし、客室は機能的でコンパクトにまとめるため、百貨店由来の制約を比較的うまく吸収できます。「建物の都合に合わせて、ブランドをねじ込む」のではなく、「建物の特性とブランド思想が噛み合う」形です。
7. マリオット側の狙い:地方都市への“思慮深い成長”を実装する
マリオットのコメントでは、松本を次のように評価しています。
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インバウンド需要が伸びる中で、松本は歴史と文化が厚い
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コンパクトで歩きやすい街並み
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日本アルプスへの玄関口で、体験型旅行者との親和性が高い
背景には、東京・大阪・京都などの大都市偏重から一歩進んで、地方中核都市へネットワークを広げていく意図が透けます。モクシーはその“拡張用のエンジン”として使いやすいブランドでもあります。
8. エム・ケー・ケー側の狙い:駅前の空洞化リスクに対する「賑わい装置」

モクシー大阪梅田の共用部
一方、エム・ケー・ケー側が掲げるのは、単なるホテル誘致ではありません。「松本の伝統と現代的デザインを融合させ、宿泊ゲストと地元の人々が交わる新たなコミュニティ拠点を目指す」
としています。
同社は、旧井上百貨店の別館だった建物(旧ベルモール25)を再生し、書店(丸善松本店)を核とする商業ビルを運営してきた実績があります。今回も「都市資産の再生」を軸に、駅前の賑わいを作り直す狙いが読み取れます。
9. 期待される効果:222室の“滞在拠点”が駅前にもたらすもの
本プロジェクトから見込まれる効果は、次のように整理できます。
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松本駅前に222室規模の滞在拠点を新設
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インバウンド・国内観光の双方に対する受け皿拡充
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バー中心の運営による夜間の賑わい創出
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宿泊者の回遊による、周辺飲食・文化施設への波及
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旧百貨店という都市資産を「空白」ではなく「機能」に戻す
特にモクシーは、宿泊者を街へ“出す”思想を持つため、周辺の回遊性と相性が良いタイプです。駅前の空洞化が懸念される局面では、単なる床埋め以上の意味を持つ可能性があります。
10. まとめ:これは「ホテル開業」ではなく、都市の再編集
「モクシー松本」は、
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長野県初のモクシーブランド
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旧百貨店建築の再生(コンバージョン)
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マリオットの地方都市戦略
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駅前の賑わい再構築
が同時に走るプロジェクトです。
2027年度の開業に向け、今後は内装デザインや運営の具体像、地下テナントの構成などが明らかになっていきます。松本の中心市街地に、どの程度の“人の滞留”と“夜の活気”を取り戻せるのか。ここが次の注目点です。
出典・参照(公開情報)
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マリオット・インターナショナル発表(2026年2月13日)
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株式会社エム・ケー・ケー発表(2026年2月13日)
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NBS長野放送 報道(2026年2月13日配信)
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地元紙報道(2026年2月14日付)
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観光・業界系メディア報道(2026年2月14日付)







