2025年春、訪日観光がコロナ禍前の水準を上回る勢いで回復していることが、観光庁の宿泊旅行統計(1月~4月速報)から明らかになりました。外国人宿泊者数は4か月連続で前年同月比二桁増となり、宿泊全体に占める外国人の割合は平均で30%を超える水準に達しています。
こうした変化の中で、宿泊需要の“受け皿”としての都市の対応力には地域差が表れています。以下では、宿泊者数の規模、稼働率、伸び率などのデータをもとに、主に大都市圏の傾向を整理します。
外国人宿泊者は4か月連続で前年同月比2桁増、シェアは3割超に
2025年1月~4月の外国人延べ宿泊者数は次のとおりです。
-
1月:1,515万人泊(前年比+34.8%)
-
2月:1,376万人泊(+19.5%)
-
3月:1,482万人泊(+14.1%)
-
4月:1,639万人泊(+13.0%)
宿泊市場全体に占める外国人の割合は1月31.0%、4月でも30.7%と、外国人宿泊者が3人に1人という構造が定着しつつある状況です。一方で日本人宿泊者数は同期間すべての月で前年比マイナスとなり、宿泊需要の重心が着実にインバウンドへと移りつつあることが読み取れます。
都道府県別の宿泊者数、稼働率、前年比を徹底比較──“三軸”で見える地域の真の実力

2025年3月時点の宿泊者数ランキングと関連指標(稼働率・前年比)を下表にまとめました。
2025年3月 宿泊者数・前年比・稼働率ランキング(上位15位)
順位 | 都道府県 | 宿泊者数(万人泊) | 前年比(%) | 稼働率(%) |
---|---|---|---|---|
1 | 東京都 | 900.8 | 105.9 | 76.5 |
2 | 大阪府 | 500.1 | 109.9 | 78.0 |
3 | 北海道 | 344.2 | 104.3 | 50.8 |
4 | 京都府 | 286.6 | 98.6 | 66.8 |
5 | 千葉県 | 257.3 | 112.8 | 62.5 |
6 | 神奈川県 | 224.5 | 109.3 | 66.1 |
7 | 愛知県 | 192.4 | 105.1 | 58.2 |
8 | 福岡県 | 192.2 | 109.1 | 68.7 |
9 | 沖縄県 | 241.1 | 104.8 | 56.5 |
10 | 兵庫県 | 145.6 | 102.4 | 57.6 |
11 | 静岡県 | 201.9 | 99.9 | 53.0 |
12 | 長野県 | 138.0 | 109.3 | 40.4 |
13 | 広島県 | 73.2 | 108.3 | 61.2 |
14 | 鹿児島県 | 67.0 | 100.6 | 48.5 |
15 | 宮城県 | 85.1 | 104.5 | 53.4 |
※出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年3月速報
宿泊需要の回復局面において、単純な宿泊者数だけでは都市の「観光対応力」は見えてきません。以下の3つの視点を重ねることで、より実態に近づくことができます。
【1】宿泊者数=宿泊需要の総量(観光・ビジネスの集積力)
2025年3月の宿泊者数では、**東京都(900.8万人泊)、大阪府(500.1万人泊)、北海道(344.2万人泊)**が上位3位を占めました。これらの地域は、
-
首都圏・関西圏という都市規模
-
大型イベントやライブ、展示会などの非観光型需要
-
インバウンドの直行便の多さ
といった複数要因が重なり、安定して高い宿泊需要を維持しています。
一方で、京都府(286.6万人泊)は観光都市としての知名度がありながらも伸び悩み。前年比は98.6%と微減し、宿泊数でも大阪の半分以下にとどまります。規制強化や民泊の供給減少、価格の高さなどが影響していると見られます。
【2】稼働率=供給と需要の“効率性”(インフラの実装力)
稼働率の観点では、大阪府が78.0%で全国トップ。これは宿泊者数の多さに加え、宿泊施設の供給規模が過不足ないことを意味します。都市中心部に中価格帯・カジュアル宿が多く、空室ロスが非常に少ないと読み取れます。
他に稼働率が高かったのは、
-
東京都:76.5%
-
福岡県:68.7%
-
京都府:66.8%
-
神奈川県:66.1%
これらの都市に共通するのは、**主要鉄道・空港との接続性や、外国人にとっての分かりやすさ(地名・目的地)**があることです。
逆に北海道(50.8%)や沖縄県(56.5%)などは、宿泊者数は多くても稼働率が伸びていません。これは供給過多・広域分散・価格設定のミスマッチなど、「効率面」での課題を示唆しています。
【3】前年比=勢いと成長のポテンシャル(変化率を見る)
前年比で見た場合、最も伸び率が高かったのは以下の県です。
都道府県 | 前年比(%) |
---|---|
千葉県 | 112.8% |
大阪府 | 109.9% |
福岡県 | 109.1% |
長野県 | 109.3% |
神奈川県 | 109.3% |
千葉県の伸びは、成田空港の国際線再拡充や訪日LCCの回復が影響した可能性が高く、**東京に泊まれない人の“受け皿”**という構造的役割も見えてきます。
一方、京都府(98.6%)や北海道(104.3%)などは前年に比べて伸びが鈍化しており、観光単価や混雑対策の影響が反映されていると考えられます。
三軸を重ねて都市を評価する
単に宿泊者数が多いだけでなく、稼働率が高く、前年比でも成長している都市は、観光地としての完成度が高いと評価できます。2025年3月のデータでこの三条件を満たすのは、
-
大阪府(宿泊者数500万人泊、稼働率78.0%、前年比109.9%)
-
東京都(宿泊者数900万人泊、稼働率76.5%、前年比105.9%)
-
福岡県(宿泊者数192万人泊、稼働率68.7%、前年比109.1%)
などが該当します。
こうした都市は、単なる観光名所の有無だけでなく、「施設・料金・立地・周遊導線・言語対応」など複合的に受け入れ態勢が整っているのが特徴です。
「受け皿の効率性」に差、関西圏では大阪の稼働率が継続して全国トップ
3月のデータでは、大阪府が稼働率78.0%で全国1位。東京都(76.5%)、福岡県(68.7%)なども高水準ですが、宿泊供給量や価格帯の違いも影響しており、単純な数値比較だけでは読み解けない都市特性の差が浮かび上がります。
特に関西3府県では、次のような傾向が観測されました。
-
大阪府:宿泊者数+8.9%、稼働率78.0%(全国1位)
-
京都府:宿泊者数 -1.4%、稼働率66.8%
-
奈良県:宿泊者数 +19.3%、稼働率 前年比+5.7ポイント(※奈良は上位30位外)
京都は混雑対策や宿泊税強化などによって、一定の抑制効果が働いている可能性があります。一方、奈良県では周遊観光導線の整備やLCCとの連携強化などが奏功し、インバウンドが着実に流入していると見られます。
累計宿泊者数ランキング(2025年1〜4月)
月別統計を基に、1月~4月の宿泊者数累計を集計した結果は次の通りです。
順位 | 都道府県 | 宿泊者数累計(万人泊) |
---|---|---|
1 | 東京都 | 3,341.7 |
2 | 大阪府 | 1,851.1 |
3 | 北海道 | 1,264.8 |
4 | 京都府 | 998.1 |
5 | 千葉県 | 938.1 |
東京の宿泊者数は他を大きく引き離す一方、大阪や北海道、京都なども堅調な推移を見せています。ここでも、量と効率性の両面から見ることで、都市の宿泊受容力を多面的に評価できることがわかります。
なぜ都市によって差がつくのか──求められる「観光インフラ」の総合力
観光客の数は経済や外交、航空路線など外的要因にも左右されますが、その波を受け止める都市側の「観光インフラの総合力」が明暗を分ける決定要因です。ここで言う観光インフラとは、単なるホテル数や交通機関の利便性だけでなく、以下のような構造的要素を含みます。
① 宿泊施設の供給量と価格帯のバランス
例えば、東京と大阪は宿泊者数で突出していますが、その背景には「中価格帯〜カジュアル価格帯の宿泊施設が都市中心部に十分確保されている」という構造があります。特に大阪はビジネスホテル・簡易宿所・民泊の比率が高く、稼働率が高水準でも受け入れに余裕がある状態を維持しています。
一方で京都は、高価格帯・伝統旅館が中心の構成であるため、価格や予約の柔軟性に限界があり、観光需要に対して供給が硬直化しやすい傾向があります。
② 外国人観光客への対応力(言語・決済・移動)
稼働率が高い都市では、多言語表記やキャッシュレス対応、駅・空港とのアクセス性の確保など、旅行者の「不安要素」を取り除く仕組みが制度・実務両面で整っています。特に関空を持つ大阪圏や、LCC路線が集中する福岡・北海道などは、国際線ネットワークと現地対応が連動しています。
③ 滞在型観光への構造転換
従来の「通過型」から「滞在型」への観光転換も重要です。大阪や東京では、ライブ・スポーツ・エンタメ・買い物など宿泊と滞在を促進する都市型コンテンツが豊富であり、リピーターや長期滞在者の受け入れにも適した都市構造となっています。
インバウンド回復期における「宿泊力」の意味とは
訪日観光が回復期にある今、注目すべきは「どこが人気か」ではなく、「どこが今後も持続的に受け入れられる都市構造を持っているか」です。
-
宿泊者数は多いが稼働率が低い:供給過多や価格ミスマッチが疑われる
-
宿泊者数が少なくても前年比が大きく伸びている:伸びしろのある地域として注目
-
宿泊者数・稼働率・前年比の3点が高水準:観光インフラの成熟度が高い都市
こうした3軸で都市を評価する視点は、自治体や事業者の戦略設計にとっても重要な指標となります。
今後の注目点:国別の需要変化と宿泊単価
本稿では国別データは割愛しましたが、今後発表される詳細統計では、中国・韓国・東南アジア・欧米といった市場の再構成も注目点です。また、宿泊単価の推移は、量的拡大から質的転換へと観光政策がシフトできているかどうかを測る指標として有効です。
出典・参考資料
-
観光庁「宿泊旅行統計調査(令和7年1〜4月速報値)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/shukuhakuchousa.html -
PDF資料「001879618.pdf」「001887081.pdf」「001891750.pdf」(2025年6月時点最新版)
なるほど・・興味深い考察だと思いました。