関西空港と成田空港の2025年度上半期の実績が出揃いました。各社のプレスリリースによると、関西国際空港の外国人旅客数は10,998,312人(+16%)で、成田国際空港の11,594,056人(+7%)との差は5%未満となりました。以前は大きく開いていた差が縮小し、数値上はほぼ並ぶ結果となっています。
特に注目されるのは通過客(トランジット)の割合です。成田では約108万人が乗継目的の通過客ですが、関空では約4.8万人にとどまります。通過客を除いた「訪日目的の外国人旅客」に限定すれば、関空は成田を実質的に上回っている可能性があります。
関西 vs 成田:主要実績一覧(2025年上期)
| 指標 | 関西国際空港(KIX) | 成田国際空港(NRT) | 前年同期比 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 総発着回数 | 108,673回 | 127,150回 | KIX +12% / NRT +4〜8% | 成田が約17%多い |
| 国際線発着回数 | 85,982回 | 102,926回 | KIX +18% / NRT +8% | 旅客便+貨物便合計 |
| 国内線発着回数 | 22,691回 | 24,224回 | KIX ▲6% / NRT ▲9% | LCC機材、人員不足影響 |
| 総旅客数 | 17,196,697人 | 20,802,141人 | KIX +12% / NRT +4% | ‑ |
| 国際線旅客数 | 13,848,936人 | 17,157,647人 | KIX +16% / NRT +7% | 通過客含む |
| ┗ 日本人旅客 | 2,802,768人 | 4,478,095人 | KIX +16% / NRT +13% | 成田が強い |
| ┗ 外国人旅客 | 10,998,312人 | 11,594,056人 | KIX +16% / NRT +7% | 関空が猛追 |
| ┗ 通過客(推定) | 約47,856人 | 約1,085,496人 | KIX 約0.35% / NRT 約6.3% | 国際線旅客数に含まれる |
| 国内線旅客数 | 3,347,761人 | 3,644,494人 | KIX ▲1% / NRT ▲7% | LCC機材、人員不足影響 |
| 国際航空貨物量 | 386,066トン | 1,021,716トン | 両空港とも+4% | 成田が約2.6倍規模 |
成田と関空の機能差:ハブとゲートウェイ
両空港の旅客構成には明確な違いがあります。成田は長距離国際線と乗継利用が多く、接続型(ハブ空港)として機能しています。一方、関空は中距離圏からの直行便が多く、目的地型(ゲートウェイ空港)として選ばれています。
| 空港 | 機能 | 主なプレイヤー | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 成田 | 接続型ハブ空港 | 日系キャリア、ビジネス客、乗継旅客 | 国策による羽田・成田のダブルハブ |
| 関空 | 到達型ゲートウェイ | 訪日観光客、日本人旅客 | 自立発展、観光目的の直行利用が中心 |
日系エアラインの戦略外でも成長
ANA・JALなど国内大手エアラインは、羽田・成田を中心とするダブルハブ構想を掲げています。これは、アウトバウンド(日本発の国際線)を首都圏に集約する方針であり、関空はこの戦略の対象外と位置づけられています。
そのような不利な環境下においても、関空はアジア系・中東系の外資系航空会社を中心に自力でネットワークを拡大し、旅客数を積み上げています。特にシンガポール航空、エミレーツ航空、キャセイパシフィック、タイ国際航空などが関空を観光路線の起点として重視しており、関空は国内エアライン主導外の成長モデルを確立しつつあります。
関西圏の都市構造が空港成長を支える
関西空港の成長は空港単体の施策だけでなく、周辺都市との連携による観光消費モデルの成立が背景にあります。
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京都・大阪・奈良を巡る周遊型ルートの定着
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高級ホテルの増加や百貨店ブランドによる消費対応
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万博開催(2025年) ・IR開業(2030年予定)との接続
こうした要素が、関空を「広域都市圏の玄関口」として機能させています。
今後の課題は富裕層対応と欧米路線の強化

今後の関空に求められるのは、「アジア依存」からの脱却と「質的な旅客層」の取り込みです。特に、欧米富裕層に対応した路線網と空港機能の強化が必要です。
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欧米からの直行便拡充
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空港〜都心〜IRを結ぶアクセス導線の整備
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滞在・移動・消費を統合した高付加価値な体験提供
これまで弱点とされてきた欧米系旅客の取り込みを進めることが、2030年以降の関空の成長を左右します。
まとめ:制度外から伸びた空港の構造的強さ
関空の現状は、国主導の航空ネットワーク(羽田・成田)に含まれずに成長したという点で特異です。この構造的独立性が、関空を「制度外から需要を引き寄せた空港」として位置づけさせています。
成田と関空は「接続型」と「目的地型」という補完的機能を担いつつあり、訪日観光の入口が首都圏一極から地方都市圏に分散する兆しが現れています。
【出典一覧】
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関西エアポート株式会社『2025年9月 トラフィックレポート』
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成田国際空港株式会社『2025年9月 空港運用状況』
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国土交通省 空港運用統計
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CEIC Data「Japan: Narita Airport: Transit Passenger Statistics」





