CBREが公表した「ジャパンロジスティクスマーケットビュー2025年第4四半期」によると、全国主要都市圏における大型マルチテナント型物流施設(LMT)の需給環境は、全体として回復基調を維持する一方、都市圏ごとの差が一段と明確になっています。
特に近畿圏では需給の引き締まりが続いており、首都圏では立地条件による選別が進むなど、物流市場は一様な回復ではなく、エリア別の再編局面に入っていることがうかがえます。
首都圏:空室率9.8%、圏央道エリアを中心に空室消化が進展
2025年第4四半期の首都圏LMT空室率は9.8%となり、前期比で0.6ポイント低下しました。これで3四半期連続の改善となります。今期は新規供給が3棟・約4.6万坪ありましたが、竣工時の稼働率は約2割と低水準にとどまりました。一方、既存物件では一般消費財を中心とした複数の大型成約が見られ、新規需要は8.6万坪に達しています。特に圏央道エリアが新規需要の約半数を占め、空室消化が進みました。首都圏全体の実質賃料は4,490円/坪となり、前期比0.2%上昇しました。空室率が低下した東京ベイエリアおよび外環道エリアでは、賃料の上昇が確認されています。
首都圏エリア別の動向
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東京ベイエリア
空室率は4.0%で、前期比1.0ポイント低下しました。新規供給はなく、既存物件での空室消化が進んだ結果です。実質賃料は7,730円/坪で、前期比0.5%上昇しました。 -
外環道エリア
空室率は4.4%(前期比▲1.0ポイント)。新規供給物件の満床竣工や既存物件での空室消化が進み、実質賃料は5,370円/坪(前期比+0.6%)となりました。 -
国道16号エリア
空室率は9.6%で、前期比0.3ポイント上昇しました。新規供給や二次空室の影響が見られましたが、実質賃料は4,550円/坪で横ばいです。 -
圏央道エリア
空室率は15.0%となり、前期比で2.0ポイント低下しました。新規供給はなく、食品や家具を中心とした成約、既存テナントの増床により空室消化が進みました。実質賃料は3,480円/坪で横ばいとなっています。
近畿圏:空室率4.2%、需給の引き締まりが継続
近畿圏LMTの空室率は4.2%となり、前期比で0.8ポイント低下しました。今期に竣工した新規供給1棟(延床面積7万坪超)は、旺盛な需要により満床での竣工となっています。
今期の新規需要は7.9万坪と、過去5年間の四半期平均(5.1万坪)を大きく上回りました。食品、アパレル、EC関連企業など、生活消費と直結する分野を中心に物流需要が拡大しています。
実質賃料は4,290円/坪で、前期比0.7%上昇しました。名神高速道路沿いのランプウェイ付き施設を中心に、近畿圏の広範なエリアで賃料上昇が確認されています。
中部圏:空室率15.5%、改善基調も供給動向に注意
中部圏LMTの空室率は15.5%となり、前期比で1.1ポイント低下しました。今期に竣工した新規供給3棟はいずれも成約が進み、特に大府市・東海市にまたがる大型施設では高稼働率での竣工となっています。
既存物件の空室消化も進み、今期の新規需要は8.3万坪と高水準を維持しました。実質賃料は3,730円/坪で、前期比0.3%上昇しています。
一方で、2026年は新規供給が上半期に集中する見通しであり、今後は需給バランスの変化に注意が必要な局面といえます。
福岡圏:空室率5.6%に改善、来期の供給増が焦点
福岡圏LMTの空室率は5.6%となり、前期比で2.7ポイント低下しました。今期は新規供給がなく、前期竣工物件でのまとまった成約が空室率改善に寄与しました。
実質賃料は3,570円/坪で前期比横ばいとなっていますが、2026年には過去最大となる9.9万坪の新規供給が予定されています。特に鳥栖・小郡方面で供給が集中する見込みで、今後のリーシング進捗が市場動向を左右することになりそうです。
【考察】物流市場は「回復」から「エリア別再編」の段階へ
今回のレポートを俯瞰すると、物流市場は全国一律の回復局面ではなく、都市圏ごとの競争力や成長段階が数値として可視化される再編フェーズに入ったと整理できます。
近畿圏:構造的な需給逼迫が示す「勝ち筋」
近畿圏では、需要の拡大と供給の抑制が同時に進行しています。2025年第4四半期の空室率は4.2%まで低下しており、物流施設市場としては比較的タイトな水準にあります。直近に竣工した新規供給が満床で稼働を開始している点からも、足元の需給環境が引き締まっていることが確認できます。
需要の中身を見ると、食品・日用品、アパレル、EC関連など、生活消費と直結する分野が中心です。これらは景気変動の影響を比較的受けにくく、短期的な市況悪化によって急減する性質の需要ではありません。配送網の再設計や拠点配置の見直しといった中長期的な構造変化が背景にあり、物流需要の「量」だけでなく「質」が変化している点が、近畿圏の特徴といえます。
供給面では、2026年の新規供給が2025年を大きく下回る見通しとなっており、需給調整が後手に回っている状況が続く可能性があります。竣工前からリーシングが進み、満床または高稼働で供給されるケースが増えていることから、デベロッパー側が慎重な供給姿勢を取っている様子もうかがえます。需要が拡大する一方で供給が抑制される構図は、賃料上昇圧力が持続しやすい環境を形成します。
賃料動向に目を向けると、近畿圏では特定の一等地に限定されることなく、広範なエリアで賃料上昇が確認されています。名神高速道路沿線や湾岸部といった従来から評価の高い立地に加え、周辺部でも賃料水準の底上げが進んでいます。これは、テナントが個別立地の優劣だけでなく、近畿圏全体を一体的な物流圏として捉え始めていることを示唆しています。
さらに、近畿圏は高速道路網、港湾、空港といった広域交通インフラが比較的コンパクトに集積しており、都市圏としての物流効率を高めやすい構造を持っています。こうした地理的・インフラ面の特性が、需要拡大と相まって物流市場の安定性を高めていると考えられます。
以上を踏まえると、近畿圏の物流市場は一時的な好調局面ではなく、構造的な需給逼迫を伴う「勝ち筋」を走り始めた段階にあると整理できます。今後は近畿圏全体の成長に加え、その内部でどの立地や施設が中核拠点として選別されるのかが、より重要なテーマとなっていくでしょう。
首都圏:改善の内実は立地選別の進行
首都圏では空室率の改善が続いていますが、その要因は東京ベイエリアや外環道エリアといった優位立地での空室消化に集中しています。一方、圏央道エリアでは依然として高い空室率が残っており、需要が均等に回復しているわけではありません。
今後の首都圏物流市場は、平均的な指標改善よりも、立地間の需給格差が拡大する局面に入る可能性があります。
中部圏:改善途上、供給増への耐性が課題
中部圏では指標上の改善が見られるものの、大型物件の高稼働竣工といった個別要因の影響も大きく、需給構造が完全に安定したとは言い切れません。今後の供給タイミング次第では、再び空室率が上昇する可能性もあります。
福岡圏:足元改善、次の局面で評価が定まる
福岡圏は今期、供給がなかったことから空室率が改善しましたが、2026年には過去最大規模の新規供給が控えています。今後は、需要がどこまで供給を吸収できるのかが、市場評価を左右することになります。
まとめ
2025年第4四半期の物流市場は、全国一律の回復ではなく、都市圏ごとの競争力や構造差が明確に現れる段階に移行しました。
今後は、空室率の上下だけでなく、「どの都市圏・どの立地が選ばれるのか」を見極めることが、より重要な判断軸となりそうです。
出典
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CBRE「MarketView | JAPAN LOGISTICS|2025年第4四半期」







