静岡市が東静岡駅北口の市有地で整備を進める新たな多目的アリーナについて、事業者公募の結果、NTTドコモを代表企業とする企業グループ「The Shizuoka Alliance」が落札者に選定されました。
本事業は一般競争入札により事業者を募集していたもので、静岡市は2026年2月25日に落札者の決定を正式に発表。今後、施設の基本方針やデザイン案などが順次示される見通しです。供用開始は2030年4月を予定しています。
まず何が決まったのか:事業の全体像を整理する
最初に、今回決まった内容を整理します。
整備場所
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静岡市葵区、東静岡駅北口の市有地
施設の性格
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プロスポーツ(バスケットボール・バレーボール)
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音楽コンサートや大規模興行
に対応する多目的アリーナ
事業方式
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施設の所有:静岡市
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維持管理・運営:民間事業者
とするPPP(官民連携)方式
事業費(関係者取材ベース)
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市の設計・建設費負担:約300億円
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民間事業者が市に支払う運営権対価:約60億円
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総事業規模:約360億円
年間100万人来場を目指すアリーナ運営
新アリーナでは、
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プロバスケットボール
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プロバレーボール
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音楽ライブや各種エンターテインメント興行
を組み合わせ、年間100万人以上の来場者を目標に掲げています。
運営開始後は、以下のクラブのホームアリーナとして利用される予定です。
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Bリーグ
ベルテックス静岡 -
SVリーグ
東レアローズ静岡
プロスポーツによる定期利用を確保することで、安定した施設稼働を図る設計となっています。
ここからが本題:なぜ今、静岡市はアリーナ整備に踏み切ったのか
この計画を「大型ハコモノ」とだけ捉えると、判断を誤ります。背景には、エンターテインメント産業そのものの構造転換があります。
配信時代が崩した、旧来の音楽ビジネスモデル
動画配信サービスや音楽配信サイトの普及により、CDを販売して収益を得るという旧来の音楽ビジネスモデルは、すでに成立しなくなりました。音源はサブスクリプションで低価格に消費され、アーティストにとって音源販売は収益の主軸ではなくなっています。
収益の中心は「ライブ」と「直接接触」へ
その結果、アーティストの収益構造は、
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ライブツアー
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グッズ販売
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ファンクラブ
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スポンサー収入
といった、ファンとの直接接触を前提としたモデルへ移行しました。現在、ライブはプロモーションではなく、収益そのものです。ここで決定的に重要になるのが、全国ツアーに組み込める「箱」が都市に存在するかどうかという点です。
「箱」の有無が都市競争の優劣を分ける
全国ツアーは、限られた日程と機材、人員で回るため、
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一定以上の収容人数
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音響・照明・ステージ設営への対応力
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平日開催でも集客できる市場規模
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良好な交通アクセス
といった条件を満たす都市が優先されます。
これらを満たさない都市は、「人気がないから」ではなく、「ツアーを成立させられないから」日程から外されていきます。アリーナの有無は、文化施策の問題ではなく、都市が全国規模の人流・消費の流れに参加できるかどうかを分ける分水嶺になっています。
アリーナは娯楽施設ではない。都市の収益構造を組み替える装置
この視点に立つと、アリーナ整備の本質は明確です。アリーナは、人を呼び、滞在させ、消費させるための都市装置です。
イベントが生むのはチケット代だけではありません。
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飲食
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宿泊
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交通
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周辺商業
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雇用
といった複合的な消費が、イベントごとに発生します。自治体が本当に求めているのは、単発の盛り上がりではなく、こうした消費が定期的に発生する状態です。年間100万人という目標は、それだけの消費を受け止める「都市の胃袋」を増設する宣言とも言えます。
スポーツ×興行という、極めて現実的な設計
本計画では、音楽興行だけでなく、プロバスケットボール・プロバレーボールのホームアリーナ利用が前提とされています。
音楽興行は収益性が高い一方で、開催時期に偏りが生じやすい。
一方、スポーツは、
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年間スケジュールが読める
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定期的な来場者が見込める
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地元スポンサーと結びつきやすい
という特性を持っています。
スポーツで稼働の下限を固定し、興行で上振れを狙う。アリーナを季節商売にしないための、極めて合理的な設計です。
なぜNTTドコモが代表企業なのか
今回、代表企業を通信大手が担う点も象徴的です。
狙いは通信インフラそのものではなく、
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チケット管理
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会員・アプリ
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決済
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データ活用
を一体で回す体験型・会員型ビジネスモデルにあります。アリーナは「イベントの箱」から、継続的に顧客データと収益を生むプラットフォームへと進化しています。
静岡市がこのアリーナで成し得たいこと
静岡市が目指しているのは、単に大きな施設をつくることではありません。
「イベントがある日に人が来る街」から、
「イベントがなくても人が集まる都市拠点」へと引き上げること。
アリーナ単体で都市が変わるわけではありません。しかし、アリーナがなければ、その競争の土俵に立つことすらできない。
配信時代において、“箱を持つ都市”と“持たない都市”の差は、静かに、しかし確実に広がっています。
出典・参考資料
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株式会社NTTドコモ
「静岡市アリーナ整備・運営事業における落札者選定に関するプレスリリース」(2026年2月25日) -
静岡市
「静岡市アリーナ整備・運営事業」公表資料









