東静岡駅前1万人級アリーナが正式契約へ 市負担300億円、2030年春開業を目指す“静岡版スマートアリーナ”計画



静岡市がJR東静岡駅前で計画している1万人級アリーナ構想が、正式契約に向けた最終段階に入りました。

静岡市議会総務委員会は2026年7月1日、「静岡市アリーナ整備・運営事業」に関する契約関連議案を承認しました。7月9日の本会議で可決されれば、JR東静岡駅北口の市有地に、スポーツ、音楽、イベント、防災機能を備えた新たな都市拠点を整備する大型プロジェクトが正式に動き出します。

今回の計画は、単に新しい体育館を建てるものではありません。静岡市がこれまで十分に受け止めきれなかった大規模スポーツ興行や音楽ライブを呼び込み、東静岡駅周辺を文化・スポーツ・エンターテインメントの拠点へ転換するプロジェクトです。

JR東静岡駅北口に1万人級アリーナを整備



事業名は「静岡市アリーナ整備・運営事業」。建設地は、静岡市葵区東静岡一丁目29〜33および37、JR東静岡駅北口の市有地です。静岡鉄道長沼駅にも近く、鉄道アクセスに優れた場所に位置します。



計画されている施設は、スポーツ興行と音楽興行の双方に対応する1万人級の多目的アリーナ。提案概要によると、敷地面積は約2万9,359㎡、建築面積は約1万6,900㎡、延床面積は約2万9,200㎡。建物は鉄骨造4階建て、最高高さは約30.9mです。

メインアリーナは、バスケットボールで約9,900人、バレーボールで約9,800人、コンサートで約1万人を収容可能。サブアリーナは約200席規模で、プロスポーツ、音楽ライブ、企業イベント、市民利用など、多様な用途を想定しています。
項目 内容
事業名 静岡市アリーナ整備・運営事業
建設地 静岡市葵区東静岡一丁目29〜33および37
最寄駅 JR東静岡駅、静岡鉄道長沼駅
施設用途 多目的アリーナ
収容規模 約1万人
敷地面積 約2万9,359㎡
延床面積 約2万9,200㎡
階数 地上4階
最高高さ 約30.9m
供用開始 2030年4月予定

NTTドコモ連合が落札、SPCが事業を担う



事業者には、NTTドコモを代表企業とする企業グループ「The Shizuoka Alliance」が選定されています。

同グループには、NTTドコモ、インフロニア・ホールディングス、SFG不動産投資顧問、木内建設、静岡鉄道、SBSプロモーション、静岡ガス、VELTEXスポーツエンタープライズ、東急コミュニティー、芙蓉総合リースが参画。協力企業として、梓設計、前田建設工業、静鉄建設、平井工業、JR東海、電通東日本、東レアローズも名を連ねています。

正式な事業実施にあたっては、落札者が設立する特別目的会社、SPCが設計、建設、開業準備、維持管理、運営などを担います。記事上は「NTTドコモ連合」と表現できますが、契約実務上はSPCを通じて事業が進む形です。

事業方式は、PFIのBT方式とコンセッション方式を組み合わせたもので、民間事業者が施設を設計・建設し、完成後に静岡市へ所有権を移転。その後、運営権を得た民間事業者が長期にわたって施設を運営します。
項目 内容
落札者 The Shizuoka Alliance
代表企業 NTTドコモ
構成企業 10社
協力企業 7社
事業方式 BT方式+コンセッション方式
事業期間 2026年7月〜2060年3月予定

市負担300億円、施設整備費は約363.6億円



事業費の見方には注意が必要です。議案上の契約金額は、市負担分として300億円。一方で、落札者提案では、これに運営権対価約63.6億円を組み合わせ、約363.6億円を施設整備費に充てる構造となっています。また、アリーナ周辺の公共通路に関する整備費は別途協議・契約で決定される予定です。アリーナ本体の整備費と周辺インフラ整備費は、分けて見る必要があります。
項目 金額
市負担額 300億円
運営権対価 約63.6億円
施設整備費 約363.6億円
公共用通路整備費 約21.6億円、参考値
公共用通路の市負担額 今後協議

計画のタイムテーブル

静岡市アリーナ整備・運営事業は、2026年7月の正式契約を起点に、設計、建設、開業、長期運営へと進むスケジュールです。現時点では、7月9日の静岡市議会本会議で関連議案が可決されることが、正式契約に向けた最大の節目となります。
時期 内容 ポイント
2025年8月 入札公告 事業者公募を開始
2026年2月24日 落札者決定 The Shizuoka Allianceを落札者に決定
2026年2月25日 落札者公表 静岡市が市長臨時記者会見で公表
2026年3月31日 基本協定締結 特定事業契約に向けた義務を整理
2026年7月1日 市議会総務委員会で関連議案を承認 正式契約に向けた委員会段階を通過
2026年7月9日 静岡市議会本会議で採決予定 可決されれば正式契約へ
2026年7月予定 事業契約締結 設計・建設・運営に向け本格始動
2026年7月〜2027年8月 設計 アリーナ本体、設備、動線、運営仕様を具体化
2027年8月〜2030年3月 建設工事 早ければ2027年夏ごろ着工見通し
2030年4月予定 供用開始 1万人級アリーナとして開業予定
開業10年目 年間来場者112万人を目標 稼働率75.1%、興行開催日数147日を想定
2060年3月予定 事業期間終了 約34年間にわたり民間事業者が運営
このスケジュールで見ると、事業はまだ「着工決定」ではなく、正式契約に向けた最終局面にあります。7月9日の本会議で議案が可決されれば、2026年度から設計が本格化し、2027年夏ごろの着工、2030年春の開業を目指す流れになります。

狙いは「興行を呼べる都市」への転換



この計画の本質は、静岡市に不足していた大型興行対応インフラを整えることです。

静岡市には、プロスポーツの上位カテゴリーや大規模音楽ライブを安定的に受け止める1万人級の屋内アリーナがありませんでした。その結果、スポーツ興行やコンサート需要の一部は、市外・県外へ流れていたと考えられます。

新アリーナでは、Bリーグのベルテックス静岡、SVリーグの東レアローズ静岡のホーム利用を軸に、高稼働の実現を狙います。プロバスケットボールとプロバレーボールの“ダブルホーム”をベースに、音楽ライブ、企業イベント、地域イベントを重ねることで、年間を通じて人が集まる施設を目指します。

提案資料では、開業10年目の年間来場者数目標を112万人、施設稼働率を75.1%、興行開催日数を147日としています。開業後10年間の累計では、経済波及効果1,537億円、雇用誘発数1万6,260人、市民税誘発額16.02億円を見込んでいます。
区分 目標・見通し
開業10年目の年間来場者数 112万人
開業10年目の施設稼働率 75.1%
開業10年目の興行開催日数 147日
開業後10年間の経済波及効果 1,537億円
開業後10年間の雇用誘発数 1万6,260人
開業後10年間の市民税誘発額 16.02億円
もちろん、これらは計画上の目標値です。実際に効果を生み出すには、競技団体、興行主、交通事業者、周辺事業者、市民利用をどう結びつけるかが問われます。

アリーナ単体ではなく、東静岡駅前の再編事業



静岡市は、アリーナ整備に合わせて、JR東静岡駅と静岡鉄道長沼駅を結ぶペデストリアンデッキの概略設計も進めています。目的は、イベント時に集中する歩行者動線と自動車交通を分離し、安全で快適なアクセス環境をつくることです。

東静岡駅北口に1万人級アリーナができれば、イベント開催日には大量の来場者が駅前に流入します。その動線をどう処理するか。さらに、非開催日にも市民が使える広場や飲食機能、滞在空間をどうつくるか。ここが、単なる「箱物」と都市拠点の分かれ目です。

提案では、フードホール、コートサイドラウンジ、スイートエリア、スカイラウンジなど、高付加価値な観戦体験を生む機能も盛り込まれています。プロスポーツを観る場所であり、音楽ライブに行く場所であり、駅前で日常的に過ごせる場所でもある。東静岡駅前を“通過する場所”から“目的地”へ変えることが、この計画の大きな狙いです。

防災拠点としての役割も担う

新アリーナは、平時の興行施設であると同時に、防災拠点としての役割も想定されています。

提案では、緊急物資集積所や指定避難所としての活用が掲げられています。大規模災害時には、多くの人を受け入れ、物資を集め、地域を支える拠点となる計画です。

静岡市は南海トラフ巨大地震への備えが重要な地域です。1万人級アリーナを、単なるイベント施設ではなく、災害時にも機能する都市インフラとして位置づけることは、公共負担を伴う事業として重要な意味を持ちます。

課題は市負担300億円と物価高騰



一方で、課題も明確です。最大の論点は、市負担300億円という規模です。

建設費が全国的に上昇する中で、当初想定どおりの金額で収まるのか。物価高騰や人件費上昇への対応は、市議会でも論点となっています。報道によると、委員から市負担が増える可能性を懸念する声が出たのに対し、市は金額が増加する可能性を認めつつ、寄付金などを活用して負担軽減に努めると説明しています。

公共負担が大きい以上、市民に対して「どのような便益があるのか」「日常利用できる施設になるのか」「地域経済にどの程度還元されるのか」を、継続的に説明していく必要があります。

アリーナは、完成すれば強い集客装置になります。しかし、成功するかどうかは、建物の大きさだけでは決まりません。イベント誘致力、ホームチームの成長、駅前回遊、飲食・商業との連携、交通処理、市民利用、防災機能。これらを一体で運営できるかが、プロジェクトの成否を左右します。

2030年春、東静岡を“イベントの目的地”にできるか



ポイントは、2030年4月の開業がゴールではないことです。アリーナは開業後、ベルテックス静岡や東レアローズ静岡のホーム利用、大規模コンサート、企業イベント、市民利用を重ねながら、長期にわたって稼働率を高めていく必要があります。

つまり、この計画の本当の勝負は「建てること」ではなく、開業後に年間100万人規模の来場を生み出し、東静岡駅前を継続的に人が集まる都市拠点へ育てられるかです。

東静岡の新アリーナは、スポーツ施設ではありません。静岡市が「興行を受け止める都市」へ進化するための都市装置です。

プロスポーツ、音楽ライブ、駅前再編、防災、市民の日常利用をどう重ねるのか。東静岡駅前を、静岡市の新しい目的地にできるのか。2030年春の開業に向けて、正式契約後の設計と運営計画の具体化が次の焦点になります。




出典

静岡市「アリーナ事業の実施状況」
静岡市「静岡市アリーナ整備・運営事業 落札者の決定」
静岡市「静岡市アリーナ整備・運営事業 客観的評価の結果」
テレビ静岡「静岡市アリーナ計画が大きく前進!早ければ2027年夏にも着工」
インフロニア・ホールディングス「静岡市アリーナ整備・運営事業における落札者に選定」

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