JR西日本が「輸送密度2,000人/日未満の線区別経営状況に関する情報開示」を公表!32線区中25線区がコロナ前割れ


出展:https://www.city.miyoshi.hiroshima.jp/

JR西日本は2026年11月4日、「輸送密度2,000人/日未満の線区別経営状況に関する情報開示」を発表しました。対象は2025年度の輸送密度が2,000人/日を下回った19路線32線区。2021年度から22線区で利用が増えた一方、コロナ前の2019年度を下回る区間は25線区に上ります。最も厳しい芸備線・東城~備後落合では、100円の運輸収入を得るために9,260円の営業費用が必要です。

この数字は、単に地方鉄道が赤字だという話にとどまりません。学校や病院、買い物先が駅から離れ、車を前提とする生活が広がった地域で、過去の人口と移動需要に合わせて整備された鉄道網をどう維持するのか。地域の暮らしの配置とインフラの配置が合わなくなっていることが、長期的な課題として浮かびます。

回復しても、25線区がコロナ前の水準に届かない

今回の対象32線区にそろえて、2021~2025年度の5年間と、コロナ前の2019年度の輸送密度を比較しました。輸送密度(平均通過人員)は「1日・路線1km当たりの平均利用」を表す指標です。駅の乗降客数や、区間を通る実人数とは異なります。

単位:人/日。右端は2025年度の2019年度比(小数第1位に四捨五入)。
路線・区間 2019年度 2021年度 2022年度 2023年度 2024年度 2025年度 2019年度比
小浜線 敦賀~東舞鶴 991 779 864 894 923 932 −6.0%
越美北線 越前花堂~九頭竜湖 399 295 318 282 325 308 −22.8%
大糸線 南小谷~糸魚川 102 55 108 110 150 135 +32.4%
山陰線 城崎温泉~浜坂 693 606 721 574 574 595 −14.1%
山陰線 浜坂~鳥取 921 738 768 792 763 743 −19.3%
山陰線 出雲市~益田 1,177 746 860 932 868 878 −25.4%
山陰線 益田~長門市 271 223 231 209 210 197 −27.3%
山陰線 長門市~小串・仙崎 351 292 273 205 185 207 −41.0%
関西線 亀山~加茂 1,090 766 864 942 978 1,065 −2.3%
紀勢線 新宮~白浜 1,085 731 793 935 960 997 −8.1%
加古川線 西脇市~谷川 321 207 237 275 293 345 +7.5%
姫新線 播磨新宮~上月 932 774 822 813 780 723 −22.4%
姫新線 上月~津山 413 358 386 401 387 374 −9.4%
姫新線 津山~中国勝山 820 649 640 661 725 692 −15.6%
姫新線 中国勝山~新見 306 136 132 111 99 95 −69.0%
播但線 和田山~寺前 1,222 924 972 1,047 1,083 1,061 −13.2%
赤穂線 播州赤穂~長船 2,178 1,634 1,726 1,746 1,687 1,729 −20.6%
芸備線 備中神代~東城 81 80 89 88 81 83 +2.5%
芸備線 東城~備後落合 11 13 20 20 19 25 +127.3%
芸備線 備後落合~備後庄原 62 66 75 86 76 89 +43.5%
芸備線 備後庄原~三次 381 312 327 373 370 384 +0.8%
芸備線 三次~下深川 888 915 988 998 1,001 1,032 +16.2%
福塩線 府中~塩町 162 144 160 166 158 144 −11.1%
因美線 東津山~智頭 179 131 130 134 137 109 −39.1%
木次線 宍道~出雲横田 277 220 237 255 212 232 −16.2%
木次線 出雲横田~備後落合 37 35 54 72 23 25 −32.4%
呉線 三原~広 2,095 1,509 1,600 1,653 1,606 1,603 −23.5%
岩徳線 岩国~櫛ケ浜 1,246 1,064 1,071 1,066 1,047 1,014 −18.6%
山口線 宮野~津和野 678 400 495 531 541 556 −18.0%
山口線 津和野~益田 535 317 417 479 433 443 −17.2%
小野田線 小野田~居能など 444 346 371 378 391 405 −8.8%
美祢線 厚狭~長門市 478 366 377 300 307 300 −37.2%
※比較上の注意:2019年度には年度末の感染拡大と災害運休の影響が含まれます。芸備線・三次~下深川では三次~狩留家の不通が2019年10月まで続き、美祢線や山陰線の一部にも、比較期間中の長期運休・代行輸送の影響があります。増減率をすべて平常時の需要変化とみなすことはできません。

線区による差は鮮明です。関西線・亀山~加茂は2019年度比−2.3%まで回復し、加古川線・西脇市~谷川は+7.5%。一方、赤穂線・播州赤穂~長船は−20.6%、呉線・三原~広は−23.5%で、2019年度には2,000人/日を超えていた区間まで開示対象に入りました。姫新線・中国勝山~新見は306人から95人へ−69.0%。芸備線・東城~備後落合は+127.3%ですが、実数は11人から25人への増加です。伸び率だけでは、鉄道を支える需要の厚みは分かりません。

2025年度の資料には1987年度の輸送密度も掲載されています。2025年度の水準は、芸備線・東城~備後落合で1987年度のわずか5%、姫新線・中国勝山~新見で14%、木次線・出雲横田~備後落合で9%。コロナ禍からの回復とは別に、数十年かけて鉄道需要が細ってきた現実があります。

100円稼ぐために9,260円―経営が厳しい10線区


出典:撮影 Takuma-sa様/Wikimedia Commons/CC BY 3.0(2010年撮影)

次は費用回収の厳しさです。JR西日本が公表した2023~2025年度の3か年平均について、「100円の運輸収入を得るために必要な営業費用」(線区営業係数)が高い順に並べました。表中の輸送密度のみ2025年度の実績です。
順位 路線・区間 2025年度輸送密度 収支率 100円の収入に必要な費用
1 芸備線 東城~備後落合 25人/日 1.1% 9,260円
2 姫新線 中国勝山~新見 95人/日 1.9% 5,266円
3 木次線 出雲横田~備後落合 25人/日 2.1% 4,846円
4 芸備線 備後落合~備後庄原 89人/日 3.5% 2,834円
5 芸備線 備中神代~東城 83人/日 3.5% 2,819円
6 山陰線 益田~長門市 197人/日 3.6% 2,795円
7 福塩線 府中~塩町 144人/日 4.5% 2,199円
8 因美線 東津山~智頭 109人/日 4.6% 2,159円
9 大糸線 南小谷~糸魚川 135人/日 4.8% 2,074円
10 山陰線 長門市~小串・仙崎 207人/日 4.9% 2,038円
※これは営業費用の回収が厳しい順であり、廃止の可能性や社会的必要性の順位ではありません。経営数値は2023~2025年度の平均で、本社・支社の管理費を含みません。山陰線・長門市~小串・仙崎には被災による長期運休の影響が含まれます。

32線区のうち収支率が10%未満なのは15線区。公表された3か年平均の線区運輸収入を合計すると約42.1億円、線区営業費用は約322.3億円で、差額は約280.2億円です。費用回収率は約13.1%。ただし、この差額が鉄道の廃止でそのまま削減できるわけではありません。代替交通や設備撤去などにも費用がかかります。

鉄道の利用が減っても、維持費は減らない


出典:撮影 Suikotei様/Wikimedia Commons/CC BY 4.0(2026年撮影)

JR西日本は2022年、人口減少だけでなく、道路整備や車社会化をローカル線の課題に挙げました。学校や病院、商業施設が駅から離れれば、人々の移動がなくならなくても鉄道の利用は減ります。一方、線路や橋梁、信号設備の保守費は乗客数に比例して減りません。輸送密度がほぼ同じ播但線・和田山~寺前(1,061人/日)と関西線・亀山~加茂(1,065人/日)でも、収支率は34.6%と11.3%。需要の量だけでは採算を説明できないのです。

ただし、運行本数や乗り継ぎ、所要時間、災害運休によって失われた需要もあります。利用を増やせる区間と、生活圏そのものが変わった区間を見分ける必要があります。

「乗って応援」の先にある交通再編


出典:撮影 MaedaAkihiko様/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0(2023年撮影)

R西日本が2022年から経営状況を公表するのは、地域と現状を共有するためです。2025年5月には経営の持続性と労働力確保の面で現状維持の難しさを示す一方、一方的な廃止は意図せず、地元との対話を重視すると説明しました。2026年5月には経営移管やBRT(バス高速輸送システム)への転換も選択肢に挙げています。

判断を迫るのは毎年の赤字だけではありません。車両・橋梁・線路の更新や災害復旧の際には、その先何十年の需要を見込んで投資するかが問われます。線区ごとの条件によって、進む道は大きく3つに分かれます。
区間の特性 検討すべき方向 成立に必要な条件
通学ピーク、定時性、都市間輸送などで鉄道の優位性がある 鉄道を維持し、接続や駅へのアクセスを改善 将来需要の確認、運行改善、沿線の施設配置との連携
鉄道の必要性は高いが、従来の運営・負担方式では維持が難しい 上下分離や経営移管、公的支援を検討 更新費用を含む財源と責任分担、改善効果の検証
少量・分散型の移動が中心で、道路交通で利便性を確保できる バス、BRT、予約型交通を組み合わせて再編 通学時の輸送力、道路条件、運転手、運賃・接続・運行継続の確保
ただし、上下分離でも設備の維持費は消えず、BRTにも運転士と財源が必要です。朝の通学輸送、病院へのアクセス、乗り継ぎの負担を含め、移動の質と長期費用の両方を比べなければなりません。

美祢線では山口県と沿線3市が2026年10月、BRTを軸に交通機能を回復する地域公共交通計画を策定しました。通学・通院や地域内交通との接続まで見直す方針で、鉄道をバスに置き換えれば終わるという話ではありません。

さらに長期的には、学校・医療・商業施設の配置が交通の持続性を左右します。施設の更新に合わせて生活拠点を集め、拠点間を鉄道や幹線バスで結び、周辺を予約型交通で補う。現在の住民の足を確保しながら、時間をかけて進める必要があります。

自治体に費用を移すだけでは解決しません。JR西日本、自治体、国が運行と設備更新の責任を分担し、地域ごとに必要なサービス水準を決めることが先決です。鉄道を残すと決めても、沿線に通う場所がなければ次の更新時に同じ問題が起きます。 問われるのは存廃の賛否ではなく、暮らしと交通をセットで支える具体策です。

※集計は2025年度の開示対象32線区について行ったもので、JR西日本の全線区を示すものではありません。輸送密度2,000人/日は自動的な廃止基準ではありません。増減率・線区数・金額合計は公式公表値を基に独自算出しています。




出典

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