今年で20周年を迎えた「都道府県魅力度ランキング2025」。全国3万3千人の回答から“地域の魅力”を数値化するこの調査は、単なる人気投票ではなく、「地域ブランド設計図」の完成度を測る指標に進化しています。観光・居住・産業・情報発信。域がどれだけ多面的に再生できるかを映す「社会の鏡」となりつつあります。
1. なぜベスト3は不動なのか:完成されたブランド構造
順位 | 都道府県 | 得点 | 前年順位 | 変化 | コメント(構造的要因) |
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1 | 北海道 | 70.7 | 1 | → | 不動の王者。季節・地域・文化が多核で、ブランド星座構造が完成。 |
2 | 京都府 | 52.6 | 2 | → | 歴史・文化・体験が時間軸で補完。永続型ブランド構造。 |
3 | 沖縄県 | 48.6 | 3 | → | 離島リゾート×カルチャーの広域物語。多用途消費で安定。 |
4 | 神奈川県 | 46.4 | 5 | ↑ | 横浜・鎌倉を軸に観光・居住・文化を統合。 |
5 | 東京都 | 45.8 | 4 | ↓ | ブランドは強いが、体験の「多様性」と「温度感」で劣後。 |
6 | 福岡県 | 41.2 | 6 | → | 都市スケールと食文化の両立。居住・観光とも安定。 |
7 | 長野県 | 39.5 | 8 | ↑ | リトリート・自然体験が定着。「質的滞在」の象徴。 |
8 | 大阪府 | 38.9 | 7 | ↓ | 実力>評価。物語の分散と期待値の高さが順位を抑制。 |
9 | 奈良県 | 37.4 | 14 | ↑↑ | 「静けさ」「余白」の価値化で急伸。古都の再発見。 |
10 | 石川県 | 36.8 | 10 | → | 北陸新幹線延伸で再注目。食文化・伝統工芸が安定評価。 |
17年連続トップの北海道(70.7点)、続く京都府(52.6点)、沖縄県(48.6点)。この「三強」は、感情論ではなく構造的完成度によって順位を固定化しています。
多核・多用途・低リスクの“星座型ブランド”

・北海道は富良野・ニセコ・函館といった副都心ブランドを複数持ち、季節や嗜好に応じて常に代替選択肢が存在
・京都は寺社・町家・工芸・茶・ホテルなど、時間を超えて補完しあう多層的体験構造を持ち、観光消費の耐久性が圧倒的
・沖縄は本島と離島、リゾートとカルチャー、基地問題まで包み込む広義の物語空間を形成し、リゾートを超えた多様な動機を提供
「多用途消費」と「アルゴリズム耐性」

三強はいずれも、観光だけでなく移住・学び・国際会議(MICE)など複数の動機軸を内包。さらにSNS・検索でのUGC自己増殖サイクルを形成しており、可視性が可視性を呼ぶ構造が順位を硬直化させています。
2. 関東の序列変化:神奈川の逆転、東京の分散
出展:横浜市
関東圏で最も注目を集めたのが神奈川県。前年5位から史上初の4位に浮上し、東京都(5位)を逆転しました。横浜・鎌倉という2つの強力なブランド都市を軸に、観光・文化・居住の三位一体構造を形成。とりわけ「居住意欲度」で全国1位を獲得し、ほどよい都市性と生活圏の質を両立させた点が評価されました。東京一極構造の中で、「中心を補完する周辺」としての最適解を示しています。
3. 大阪の現在地:実力と評価のギャップ
大阪府は前年7位から8位に微下落。交通・食・エンタメ・インフラいずれも国内随一の実力を持ちながら、依然として評価が伸び悩んでいます。これは明らかに「実力>評価」の構造的乖離です。
評価が伸び悩む2つの要因
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期待値の天井効果:
「大阪なら当然できる」という高い期待が、成果を相対的に“当たり前化”してしまい、感動余地を削っています。 -
物語の分散:
梅田=ビジネス・高級、心斎橋・難波=エンタメ・アジアのショーケースという二極構造が整理されず、外部からの認知が“雑多”に見えてしまう。
解決策:多層的実力を新しいイメージで“記号化”する再編集戦略

大阪が取るべき道は、複層的な実力を、新たな「一枚の記憶に残るブランド像」に翻訳することです。心斎橋〜なんばを「アジアの多極共存型ショーケース」として再定義し、歴史・カルチャー・ビジネス・食のすべてを統合的に表現する。中之島やグラングリーン大阪といった都市再生エリアの“知的・美的な大阪”を発信軸に据えることで、「コテコテ」だけではない大阪の再現性ある物語を描けるようになります。
4. 奈良が急伸した理由(14位→9位):静けさが価値に変わった
関西で最も躍進したのは奈良県。古都としての真正性を保持しながら、“現代的静寂”という新しい文脈を獲得しました。
箸墓古墳の研究や考古学的話題が、学術を「文化資本」へ昇華。さらに「混雑回避×心的回復」の世界的潮流のなかで、奈良の**“余白”が国際的価値**として再評価されました。大阪(空路・消費)と奈良(静寂・遺産)を結ぶ広域導線が確立し、滞在型観光への転換も進行中です。奈良は、来訪者数ではなく「質的時間」を売ることに成功した稀有な地域です。量より質で勝つ、ポスト観光時代のモデルケースと言えます。
5. 地方躍進の共通因子:産業×交通×SNSの共振
大幅ランクアップした熊本県(26位→19位)、山形県(33位→26位)、愛知県(20位→16位)には共通項があります。
それは、産業投資×交通インフラ×SNS可視化の三点が同時に動いたことです。
都道府県 | 順位変化 | ランクアップの構造的要因 |
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熊本県 | 26位→19位 | TSMC進出による「未来産業都市」化。空港リニューアル+地下水資源が“クリーンブランド”を形成。 |
山形県 | 33位→26位 | 山寺や棚田の映える景観×食文化がSNSで国際的に拡散。「映える地方」の代表格に。 |
愛知県 | 20位→16位 | IGアリーナなど新エンタメ施設と“名古屋めし”の再ブランディングが奏功。 |
これらの地域は、行政発信よりも住民UGCがブランドを牽引し、「自走型ブランド経済圏」を築いています。
6. 最下位・埼玉に見る「内発的ブランド力」の欠如
3年連続最下位となった埼玉県(13.7点)。うなぎやムーミンバレーパークといった点的資源はあるものの、それを束ねる物語構築力が弱い。「住民が自らの地域を誇れるか」がブランドの起点であり、いま求められているのは外部評価ではなく、内側からの“魅力の言語化”です。
結論:魅力度=「再生力×編集力」で描く設計図
この20年の変遷は、「名産品・観光」から「体験と共感のデザイン」へのシフトを明確に示しています。魅力度とは、もはや人気ではなく、変化に耐えながら物語を再編集し続ける力のこと。次の10年を決めるのは、巨大な予算ではなく、点在する資源を一枚の旅程や映像、言葉に束ねる編集力=地域ブランド設計図の完成度だと思います。
【完全版】都道府県魅力度ランキング2025
順位 | 昨年順位 | 都道府県 | 魅力度(点) | 推移 |
---|---|---|---|---|
1 | 1 | 北海道 | 70.7 | → |
2 | 2 | 京都府 | 52.6 | → |
3 | 3 | 沖縄県 | 48.6 | → |
4 | 5 | 神奈川県 | 43.1 | ↑ |
5 | 4 | 東京都 | 42.1 | ↓ |
6 | 6 | 福岡県 | 39.4 | → |
7 | 8 | 長野県 | 36.8 | ↑ |
8 | 7 | 大阪府 | 35.6 | ↓ |
9 | 14 | 奈良県 | 35.4 | ↑↑ |
10 | 11 | 兵庫県 | 34.9 | ↑ |
11 | 12 | 長崎県 | 34.8 | ↑ |
12 | 9 | 静岡県 | 33.7 | ↓ |
13 | 10 | 石川県 | 31.6 | ↓ |
14 | 16 | 広島県 | 30.2 | ↑ |
15 | 13 | 宮城県 | 30.1 | ↓ |
16 | 20 | 愛知県 | 30.0 | ↑ |
17 | 17 | 鹿児島県 | 28.9 | → |
18 | 15 | 千葉県 | 28.7 | ↓ |
19 | 26 | 熊本県 | 27.7 | ↑↑ |
20 | 19 | 富山県 | 27.4 | ↓ |
21 | 22 | 青森県 | 26.9 | ↑ |
22 | 25 | 山梨県 | 26.1 | ↑ |
23 | 21 | 三重県 | 25.2 | ↓ |
24 | 18 | 秋田県 | 24.8 | ↓ |
25 | 23 | 大分県 | 23.9 | ↓ |
26 | 33 | 山形県 | 23.8 | ↑↑ |
27 | 26 | 香川県 | 23.7 | ↓ |
28 | 30 | 新潟県 | 23.6 | ↑ |
29 | 29 | 和歌山県 | 23.4 | → |
30 | 24 | 宮崎県 | 23.2 | ↓ |
31 | 35 | 岩手県 | 22.1 | ↑ |
32 | 28 | 愛媛県 | 21.9 | ↓ |
33 | 37 | 福島県 | 21.5 | ↑ |
34 | 34 | 岐阜県 | 21.2 | → |
35 | 36 | 高知県 | 21.2 | ↑ |
36 | 31 | 福井県 | 20.2 | ↓ |
37 | 40 | 滋賀県 | 19.9 | ↑ |
38 | 32 | 岡山県 | 19.5 | ↓ |
39 | 39 | 栃木県 | 18.9 | → |
39 | 41 | 群馬県 | 18.9 | ↑ |
41 | 42 | 徳島県 | 18.8 | ↑ |
42 | 38 | 島根県 | 18.0 | ↓ |
43 | 43 | 山口県 | 17.8 | → |
44 | 44 | 鳥取県 | 17.3 | → |
45 | 47 | 佐賀県 | 15.4 | ↑ |
46 | 45 | 茨城県 | 14.3 | ↓ |
47 | 46 | 埼玉県 | 13.7 | ↓ |
記号の意味
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↑:ランクアップ(1〜3位上昇)
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↑↑:大幅ランクアップ(4位以上上昇)
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↓:ランクダウン(順位低下)
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→:前年と変わらず
出典元
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ブランド総合研究所「都道府県魅力度ランキング2025」
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各都道府県の観光・統計データ、報道資料をもとに筆者再構成