神戸市が進める本庁舎2号館の建て替え事業に、ヒルトングループの最上級ブランド「コンラッド」が進出する方向で最終調整に入っています。地上28階・高さ約140m、延床面積約7万7,000㎡の複合庁舎は、低層に行政機能と市民利用空間、中層にオフィス、上層階にホテルを配置する構成です。建設はオリックス不動産を代表とする8社コンソーシアムが担い、設計は竹中工務店。2026年着工、2028年度の竣工が予定されています。
神戸市の都心再整備の中核を担うこのプロジェクトは、単なる庁舎建て替えに留まらず、都市ブランドとグローバルホテルブランドが戦略的に融合する象徴的案件となりつつあります。
コンラッドの狙い:ブランドネットワークの完成と立地価値の最大化

ヒルトンにおける「コンラッド」は、文化・景観・都市性が融合する場所に展開されるフラッグシップブランドです。2005年の東京、2017年の大阪に続き、名古屋(2026年開業予定)、横浜(2027年開業予定)と出店が続くなか、神戸は関西圏の空白地を埋める最後のピースとして位置づけられています。
神戸は大阪・京都に比べ、富裕層向けホテルが少なく、平均宿泊単価(ADR)も低水準にあります。一方で、神戸空港・港湾・旧居留地といった国際的都市資産を有し、滞在型観光や長期滞在の潜在需要が高い地域でもあります。この「需要はあるが供給が少ない市場」こそ、コンラッドが得意とするターゲットです。
立地も極めて優れています。新庁舎は三宮駅から徒歩5分、周囲には、神戸阪急、東遊園地、三宮センター街などが集積。さらに、上層階からは神戸港と六甲山を一望でき、夜間は“灯台”のように光を放つデザインが予定されています。コンラッドはこの眺望と建築の象徴性を「ブランド体験の中核」として位置づけており、ホテルロビーを最上階(28階)に設け、レストランやバー、スパを組み合わせた“眺望重視型ホスピタリティ”を展開する見込みです。
また、官民連携による再開発である点も重要です。行政施設と共存する複合型ビルは長期的な安定性が高く、2030年前後に予定される神戸空港の国際定期便化を見据えた先行投資としても合理的です。ヒルトンはオリックス不動産の資本による開発に運営を委ねる「アセットライトモデル」で参画することで、リスクを最小限に抑えつつ、関西圏でのブランドプレゼンスを強化する狙いがあります。
神戸市の狙い:富裕層誘致と都心機能の再構築
神戸市がコンラッドを誘致する目的は、明確に“都市経済の質的転換”にあります。神戸は古くから港町としての国際性を誇りますが、近年は大阪・京都に観光消費を奪われ、都市間競争で存在感を失いつつありました。その原因の一つが、高付加価値宿泊機能の不足です。
市はこれを補う形で「国際水準の宿泊・会議機能の整備」を掲げ、高級ホテル誘致を都心再整備の柱に据えました。コンラッドの誘致により、国際会議(MICE)や企業イベントの開催条件を整え、国内外のビジネス・観光需要を呼び込む狙いがあります。
また、本庁舎2号館の建て替えを単なる行政施設更新に留めず、低層に行政・中層にオフィス・上層にホテルを組み込むことで、行政・ビジネス・観光の三層構造を持つ“都市拠点”を形成します。昼夜を問わず人の流れを生み出し、三宮からウォーターフロントまでの動線を再編する「Connect Pier KOBE」構想の中核としても機能します。
コンラッド大阪のエグゼクティブラウンジ
さらに、官民連携によって建設費の一部を民間収益で賄うことで、行政コストを抑え、“市民負担を増やさずに都市を更新する”新たな都市経営モデルの実証にもなります。庁舎内に五つ星ホテルを誘致する事例は全国的にも極めて珍しく、行政改革・都市再生・観光振興を同時に進める試みとして注目を集めています。
震災から30年を迎える神戸にとって、このプロジェクトは“再生都市の象徴”となる位置づけです。ポートタワーのリニューアル、神戸空港国際化、メリケンパークのナイトタイム経済推進などと連動し、「昼も夜も動き続ける都心」への転換が進められています。
両者の共鳴:ブランドと都市の共進化

コンラッド大阪の客室例
ヒルトンは、東京・大阪・名古屋・横浜・神戸を結ぶ五都市体制で、富裕層の周遊・滞在導線を自社ブランドで囲い込む体制を整えつつあります。一方で神戸市は、国際都市の復権を掲げ、都市空間そのものを“ブランド”として再設計しています。この2つの戦略が重なったとき、民間と行政の間に“利益共有型の都市ブランド連携”が成立します。
コンラッドにとって神戸は、景観と文化の融合によってブランド価値を強化する舞台であり、神戸市にとってコンラッドは、世界水準の体験価値を都市の資産として内包するパートナーです。両者の関係は「建物を建てる」から「都市物語を共創する」段階へと進んでいます。
まとめ:神戸を照らす“再生の灯台”として

新庁舎最上階に入るコンラッド神戸(仮称)は、神戸港を見渡す“灯台”のような存在となる予定です。ヒルトンはここでブランドの象徴性を拡張し、神戸市は官民連携による都市再生モデルを体現します。
両者が共有するのは、「都市の再価値化」という理念です。この計画は、経済効果の枠を超えて、神戸が再び世界とつながるための象徴的プロジェクトとなるでしょう。
出典元
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読売新聞オンライン「神戸市役所に最上級ホテル『コンラッド』、建て替え予定28階建てビル…富裕層誘致へ最終調整」(2025年10月11日)
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神戸新聞NEXT「神戸市役所2号館の建て替え、最上階にホテルロビー “灯台”イメージで夜通し光を放つ」(2024年1月1日)
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ヒルトングループ公式資料・ブランドポートフォリオ(2024年度版)
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神戸市 都心三宮再整備推進本部資料(2023~2025年度)