物価高を乗り越える決断
大阪・夢洲で建設が進む統合型リゾート(IR)は、建設資材や労務費の高騰により当初計画より約2400億円のコスト増を余儀なくされました。しかし、運営主体のMGMリゾーツ日本法人とオリックスは、出資額をそれぞれ約1200億円追加することで即座に対応。結果、初期投資総額は1兆5130億円に達しました。
重要なのは、この規模の増額にもかかわらず計画全体に変更はなく、開業目標である2030年秋ごろに向けて着実に前進している点です。ここには、MGM大阪が日本市場にかける強い意志と、大阪という都市が持つ潜在的な市場力への確信が読み取れます。
国内で唯一のIRとして独占状態に
横浜市は誘致を断念し、長崎IR計画も頓挫。結果として、国内のIR事業は大阪のみが残りました。これは大阪IRにとって、当面の間、国内需要を一手に独占できる極めて有利な状況を意味します。
訪日外国人旅行者数がコロナ禍前を超えて回復しつつある現在、ラグジュアリーホテルやカジノ、国際会議場を備えた大阪IRは、日本唯一の統合型リゾートとして、国内外からの観光需要を独占的に取り込む可能性が高まっています。
シンガポールの先例と大阪
出展:https://jp.marinabaysands.com/
海外に目を転じると、シンガポールのマリーナベイ・サンズが大阪IRの最も明確な先例となります。2000年代後半に誕生したマリーナベイ・サンズは、単なるリゾート施設に留まらず、都市国家シンガポールのブランド力を世界水準に引き上げました。
現在、シンガポールは大阪IRの動向を意識しつつ、既存施設の拡張に着手しています。カジノ収益だけでなく、MICE(国際会議・展示会)やエンターテインメントを通じた観光・ビジネス需要の取り込みで、都市全体の競争力をさらに高める計画です。大阪IRもこの流れに追従することで、地方都市から真の国際都市へとステージを引き上げる契機となり得ます。
タイIRの長期停滞と大阪への追い風
出展:Thailand IR legislation could be finalized in 4Q24: Deputy Tourism Minister
一方で、東南アジアにおける新たな競合候補地と目されていたタイのIR計画は、政局によって長期停滞が避けられない状況です。
新首相アヌティン氏は「ギャンブルによる経済刺激には反対」と明言し、娯楽施設法案の再浮上は2030年以前には困難との見方が広がっています。つまり、タイは少なくとも今後数年間、大規模なIR開発に踏み出せない公算が大きく、IRの領域において大きく出遅れる事が確実で、国際的な競争環境において大阪が優位を保つことにつながります。
大阪の「副首都化」への道筋
大阪IRは、単なる観光施設の整備ではありません。莫大な投資と収益基盤を背景に、大阪市および大阪府は新たな財政的裏付けを得て、都市インフラや生活環境への再投資を可能にします。
また、国内唯一のIRとして圧倒的な集客力を誇ることで、国際会議や大型イベントの誘致が加速し、都市の発信力は飛躍的に高まるでしょう。これは、大阪が「副首都」としての機能を担うにふさわしい地位を獲得する道筋とも重なります。
まとめ:大阪IRが切り開く未来
コスト増という逆風をものともせず、MGM大阪とオリックスが即座に追加投資を決定した事実は、計画の実現性に対する揺るぎない信頼の表れです。
横浜や長崎の撤退、タイの停滞という国内外の環境変化は、大阪IRの独占的な優位を一層強めています。シンガポールの成功モデルをなぞりつつ、それを超える規模と影響力を持ち得る大阪IRは、大阪を地方都市から国際都市、そして副首都へと押し上げる歴史的プロジェクトになりつつあります。
出典
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NHK「大阪IR 資材高騰で初期投資額2000億円余増額」(2025年9月12日)
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読売新聞オンライン「IR初期投資が1.5兆円に…大阪府・市が発表、要因は建設資材や人件費の高騰」(2025年9月13日)
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日本経済新聞「大阪IR、物価高で初期投資が約2400億円増加 1兆5130億円に」(2025年9月12日)
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GGRAsia「Election of conservative Anutin Charnvirakul as Thailand’s new PM a blow to casino legalisation prospects: analyst Daniel Cheng」(2025年9月8日)
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IAG(Inside Asian Gaming)「Thailand’s new PM Anutin rejects gambling as economic driver, vows no casino policy」(2025年9月11日)