2025年10月27日、Hyatt Hotels Corporation(ハイアット)は、中国地方で初となる進出を正式発表しました。導入ブランドは、ラグジュアリー・ライフスタイルカテゴリーの旗艦である Andaz(アンダーズ)。開業地は広島都心・基町の再開発ビル KAMIHACHI X(カミハチクロス)で、上層階(21〜31階〈予定〉)に入居し、客室数235室(予定)の規模で、2027年度開業予定です。国内では「アンダーズ東京(虎ノ門ヒルズ)」に続く2軒目の展開となります。
ブランドの位置づけ:世界が認める「ラグジュアリー・ライフスタイル」
アンダーズは、ハイアットの中でも最上級に近いブランドポジションを占める「ラグジュアリー・ライフスタイルホテル」です。同社のブランド体系では「パークハイアット」と並び、マリオットの「JWマリオット」、ヒルトンの「コンラッド」に相当する上位レンジに位置付けられます。
国内外で展開されているシェラトンやヒルトンと比べ、アンダーズは地域文化や美意識を取り入れた体験型ラグジュアリーを志向しています。土地の文化をインテリア・サービスに反映し、「地域と共に価値をつくるホテル」という理念を打ち出しています。アンダーズ広島は、従来の広島市内の宿泊市場においては、最上位レンジの宿泊体験を提供する存在となる見込みです。
広島という選択:象徴都市から発信都市へ
広島市は「平和の象徴」として国際的に知られていますが、同時に中四国最大の経済圏を抱える地方中枢都市でもあります。
紙屋町・八丁堀エリアでは官民連携による都心再開発が進んでおり、再開発事業「基町相生通地区第一種市街地再開発事業」が都心機能再構築の中核プロジェクトとして進行中です。
ハイアット日本法人の日本代表者は次のように述べています。
「平和記念公園や原爆ドームが近く、世界中の人々が広島という都市の歴史や文化に触れられる。この場所でしか得られない体験を、地域と共に創り上げていきたい。」
この発言から、アンダーズの進出が地域の文脈を尊重し、地元主体と協働して新しい体験価値を創造するプロジェクトとして位置付けられていることが読み取れます。
「KAMIHACHI X(カミハチクロス)」概要
「KAMIHACHI X」は、UR都市機構と朝日新聞グループ(朝日新聞社・朝日ビルディング)による共同施行体制で進められる再開発事業です。地上31階建ての複合施設で、低層部に商業・公共空間、中層部に高規格オフィス、上層部にホテルを配置。ホテル部分は21〜31階(予定)に入り、全235室(予定)、ダイニング、ルーフトップバー&レストラン、宴会場、屋内プール付きフィットネスを備える予定です。設計・施工は竹中工務店、インテリア監修はNAO Taniyama & Associates。立地は広島電鉄「立町停留場」から徒歩1分、歴史的には旧「立町御門」跡地にあたります。竣工は2027年度予定です。
広島のホテル市場:外資系ブランドの集積と階層構造の変化
シェラトングランドホテル広島
近年、広島市では外資系ホテルブランドの進出が急速に進んでいます。2022年のヒルトン広島開業を皮切りに、マリオット、IHG、ヒルトン、ハイアットという世界4大ホテルグループが広島圏で展開する見込みです。
| カテゴリ | ホテル名 / ブランド | 運営グループ | 主な場所 | 開業時期/状況 |
|---|---|---|---|---|
| 開業済み | シェラトングランドホテル広島 | マリオット・インターナショナル | 広島駅直結 | 2011年開業 |
| 開業済み | ヒルトン広島 | ヒルトン | 平和大通り近く | 2022年開業 |
| 計画中 | voco 広島 | IHGホテルズ&リゾーツ | 広島駅近く(南区的場町) | 2027年開業予定 |
| 計画中 | コートヤード・バイ・マリオット広島 | マリオット・インターナショナル | 中区三川町(中央通り沿い) | 2027年開業予定 |
| 計画中 | LXRホテルズ&リゾーツ(名称未定) | ヒルトン | 廿日市市(宮島口) | 2028年開業予定 |
この集積状況により、広島は東京・京都・大阪・横浜・福岡・札幌に次ぐ外資系ホテル集積都市として位置づけられつつあます。
市場階層で見ると、アンダーズ広島とLXR宮島口が、ラグジュアリー・カテゴリーで同格の競合となり、これらが広島県内における最上位宿泊需要をけん引していくことになります。
一方、シェラトン広島やヒルトン広島は上級(アップスケール)ホテル層を担っており、アンダーズはそれらを凌ぐ「最高級ラグジュアリー層」として市場の階段の頂点に据えられています。
地域への波及:都市ブランドと文化産業の再編集
アンダーズ広島の進出は、単なる宿泊施設の増加ではなく、都市ブランドと文化産業を再構築する契機となります。
1. 広島の文脈を拡張する

ヒルトン広島
広島は「平和都市」のイメージが強い一方で、近年は文化・観光・産業が融合した価値創造のステージへ移行しています。アンダーズはこの地において、地域文化を尊重し、体験価値として共創する姿勢を示しています。瀬戸内の食・工芸・建築・自然などの資源を活かし、観光依存を超えた体験型都市滞在へと価値を転換します。
2. 文化産業との共創

シェラトングランドホテル広島
ホテル内に地域の職人、料理人、デザイナーの要素を組み込むことで、地元クリエイターが世界ブランドと協働する新しい経済圏が構築されます。設計パートナーとして竹中工務店・NAO Taniyama & Associatesが参画し、地域デザイン人材との接点を拡大。これにより、アート・建築・観光を横断する“創造産業のハブ”が広島市中心部に形成される見込みです.
3. 高付加価値ツーリズムの拡大

アンダーズの宿泊客層は、価格ではなく「体験価値」重視です。滞在が宮島・尾道・瀬戸内沿岸などへの回遊を促し、体験単価の上昇による地域経済の質的転換を後押しします。観光・MICE・文化が連動する新たなモデル都市像が浮上しています。
4. 地域人材と文化の循環

ホテル運営を通じて地域人材が国際的ホスピタリティを学び、広島の魅力を自らの言葉で伝える担い手となります。この循環が、シビックプライドを醸成し、都市の文化成熟を支えます。
都市の未来像:文化資本を軸とした都市競争力へ
広島は「文化・平和・創造」を統合し、これまでのイメージをアップデートする勢いで都市機能の更新が進んでいます。アンダーズ広島は、それらを具現化するプロジェクトとして、地域文化を国際ブランドが翻訳し、世界市場で通用する都市ブランドを共創する存在となる事が期待されています。
まとめ:広島が世界に再び発信するステージへ
アンダーズ広島の開業は、広島市が「過去を語る都市」から「今を伝える都市」へと移行する契機となります。シェラトンやヒルトンによって築かれた国際基盤の上に、アンダーズとLXRが新たな頂点を形成することで、広島のホテル市場は“量”から“質”への転換点を迎えます。ホテルは宿泊の場ではなく、都市の価値を伝えるメディアです。
アンダーズ広島がもたらす文化的・経済的波及効果は、広島が再び世界へ開かれた都市として歩みを進めるうえで、大きな意味を持つでしょう。
出典:
・Hyatt Hotels Corporation プレスリリース(2025年10月27日)
・IHG Hotels & Resorts プレスリリース(2024年)
・マリオット・インターナショナル Japan プレスリリース(2025年)
・Hilton Stories プレスリリース(2024)
・朝日新聞社/朝日ビルディング プレスリリース(2025年10月27日)
・その他国内報道より再構成








